三州の太守

芙伊 顕定

文字の大きさ
11 / 54

【第十一話】朝廷の胸中

しおりを挟む
 鎌倉では、北条時宗の突然の死により、その子である北条貞時が第9代執権に就任していた。
 貞時にまだ力はなく、意図せずして有力御家人で寄合衆であった、安達泰盛に全ての権限が集中するような形となってしまっていた。
 泰盛自身も、そのような大きな権限を持て余していた。
 特に大きな問題は、先の元との戦に対する論功行賞であった。
 防衛力強化の名の下に、西国の寺社や非御家人にも支配力を及ぼしていたため、完全に幕府の処理能力を超えることとなってしまっていたのである。論功行賞で出す土地もなかった。
 泰盛は、時宗が生前残していた改革案を実施に移そうとしていた。
 寺社の保護による、非御家人の御家人化や、倹約令、流通を握る為の改革など、多岐に渡る改革を実施した。
 しかし、旧来からの御家人の支持が得られず、特に九州では訴訟が頻発し、苦難の道を歩んでいた。
 そんな中、後内人である平頼綱に討ち取られてしまうという事件が勃発してしまったのである。
 幕府は混乱を極めていた。

 後宇多天皇が今上帝に譲位した翌年、京では、後宇多の第二皇子として尊治親王が誕生した。
 今上帝の即位には、北条時宗の意向も関わっており、後宇多天皇としては不本意な譲位であった。なぜなら、皇統が自身の大覚寺統から持明院統に移ることになってしまうからである。
 しかし、幕府の朝廷への関与は元との戦を機に、皇位の継承まで入り込んできており、例え不満があろうとも、幕府の意向をないがしろにすることはできなくなっていた。
 今上帝にとってもそれは好ましいことではなく、幕府内の権力闘争である霜月騒動で安達泰盛を討った御内人の平頼綱の側近が朝廷内で幅を利かせていることは不本意であった。
「為兼よ、朕の望みは、後鳥羽帝以前の治天の君の権力を回復させたいというところにある」
 帝は、側近の京極為兼につぶやいた。
「お上、その機会は十分にあろうかと思われます。北条時宗亡き今、幕府の治世は混乱しています。彼らの処理能力を超えた権力拡大をやりすぎました。時宗が存命であればうまく処理したのかもしれませんが、いまや、全国に不満が渦巻いていると聞いております」
「ふむ、朝廷も、持明院統と大覚寺統に割れて不安定ではあるが、なんとかしたいものじゃ」
「左様でございますな」

 朝廷には、また権力を引き戻すためのチャンスが巡ってきていた。尊治親王はそんなさなかに生を受けたのである。
 彼はのちに即位し後醍醐天皇となるが、まさに、波乱の人生を宿命づけられた生誕となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

花嫁

一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...