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【第二十一話】尊治の決意
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尊治は焦っていた。
完全に無実だったとは言え、邦良派か持明院統かどちらかはわからないが、完全に自分を罠に嵌めようと大掛かりな計画を練ってきたのだ。
自分の大きな後ろ盾であった父・後宇多上皇はすでに亡い。
朝廷の中で頼れるものはおらず、幕府にも自分の腹心のような存在の者はいなかった。
尊治は、後鳥羽帝以前のように、天皇が力を持った朝廷を取り戻さなければならないという強い使命感を持っていた。
そのための改革はまだ道半ばである。
自分が退位しても、自分の直系に跡を継がせることができるのであれば、院政を敷いて改革を成し遂げることは叶うであろう。
しかし、幕府は、自分の跡は邦良の息子か持明院統の親王を立ててくるに違いない。
それはもう変えられない既定路線になっているはずだ。
そうなってしまっては強い朝廷を取り戻すどころか、ますます幕府の言いなりの朝廷が続くだけである。
それだけはなんとしても阻止しなければならなかった。
「‥‥待てよ。後鳥羽帝はどうされた。‥朝廷に力を取り戻すべく兵を挙げたのではなかったか」
しかし、兵を挙げるにしても味方となるものがいるのか。
元との戦以来、恩賞の件で御家人たちの不満が溜まっているのは承知している。
それだけで、朕が兵を挙げた時に味方してくれるものが現れるのか。
正中の事件は、朕の一切預かり知らぬ討幕計画であったが、もし本当に討幕計画を立てたとして、失敗すれば、幕府に朕を処分する口実を与えるだけになってしまうのではないか。
いや、失敗を恐れていては状況は何も変わらない。
「親房を呼べ」
しばらくすると、北畠親房が御簾の前に参上した。
「親房よ、実は、人を探しておる。名前は「多聞丸」と申してな、もう20年近く経つのでその名乗りは使っておらぬと思うが、調べてもらえまいか」
「畏まりました。お上」
「もし見つけることができた暁には、この綸旨をその者に渡してほしい」
「御意。しかし、日の本は広うございます。どの辺りを重点的に調べたら良いか‥」
「話に聞いている消息では、河内あたりにいるのではないかと聞いている」
「畏まりました。河内を重点的に探してみましょう」
「うむ、よろしく頼んだぞ」
北畠親房は下がっていった。
とにかく、出来うる限りの手を打ってみよう。このまま漫然としていても幕府の言いなりになってしまうだけだ。
「吉田定房を呼べ」
しばらくすると、吉田定房がやってきた。
「今から、秘中の秘を語るぞ」
「はっ‥」
「朕は幕府を倒すため挙兵する」
「‥な、なんと申されました?」
「討幕じゃ、これ以上、幕府の言いなりになることはできない」
「しかし‥、恐れ多くも、先の後鳥羽帝にあらせられましては、計画に失敗し、島流しに処されているのですぞ」
「今の幕府に、かつての北条政子や北条義時はおらぬ。決して一枚岩の幕府ではない」
「確かに、幕府は一枚岩でないことは確かですし、恩賞による御家人たちの不満も高まっていると聞いておりますが、こちらに味方するものがどれほどいると仰るのですか。現状で我らは一人の兵も持っておらぬのでございますよ」
「それは十分に理解しておる。味方を募るのじゃ」
「少々の味方ではとても歯が立ちませぬぞ」
「確かにそうじゃ。大きな味方がほしい。それはこれから探さねばならぬが‥」
「しかし、お上がそう仰るのでしたら、我らはそれに従うのみです」
「よいか、このことは他言無用ぞ」
「はっ、畏まりました」
吉田定房は下がっていった。
大きな味方‥。確かに定房の申す通りじゃ。
打ってみなければわからぬ大博打じゃな‥。
尊治は覚悟を決めた。
数日後、尊治は、吉田定房に裏切られたことを知った。
定房は六波羅探題に尊治の討幕計画を密告したのだ。
幕府は急ぎ、長崎高貞ら追討使を派遣してきたのである。
完全に無実だったとは言え、邦良派か持明院統かどちらかはわからないが、完全に自分を罠に嵌めようと大掛かりな計画を練ってきたのだ。
自分の大きな後ろ盾であった父・後宇多上皇はすでに亡い。
朝廷の中で頼れるものはおらず、幕府にも自分の腹心のような存在の者はいなかった。
尊治は、後鳥羽帝以前のように、天皇が力を持った朝廷を取り戻さなければならないという強い使命感を持っていた。
そのための改革はまだ道半ばである。
自分が退位しても、自分の直系に跡を継がせることができるのであれば、院政を敷いて改革を成し遂げることは叶うであろう。
しかし、幕府は、自分の跡は邦良の息子か持明院統の親王を立ててくるに違いない。
それはもう変えられない既定路線になっているはずだ。
そうなってしまっては強い朝廷を取り戻すどころか、ますます幕府の言いなりの朝廷が続くだけである。
それだけはなんとしても阻止しなければならなかった。
「‥‥待てよ。後鳥羽帝はどうされた。‥朝廷に力を取り戻すべく兵を挙げたのではなかったか」
しかし、兵を挙げるにしても味方となるものがいるのか。
元との戦以来、恩賞の件で御家人たちの不満が溜まっているのは承知している。
それだけで、朕が兵を挙げた時に味方してくれるものが現れるのか。
正中の事件は、朕の一切預かり知らぬ討幕計画であったが、もし本当に討幕計画を立てたとして、失敗すれば、幕府に朕を処分する口実を与えるだけになってしまうのではないか。
いや、失敗を恐れていては状況は何も変わらない。
「親房を呼べ」
しばらくすると、北畠親房が御簾の前に参上した。
「親房よ、実は、人を探しておる。名前は「多聞丸」と申してな、もう20年近く経つのでその名乗りは使っておらぬと思うが、調べてもらえまいか」
「畏まりました。お上」
「もし見つけることができた暁には、この綸旨をその者に渡してほしい」
「御意。しかし、日の本は広うございます。どの辺りを重点的に調べたら良いか‥」
「話に聞いている消息では、河内あたりにいるのではないかと聞いている」
「畏まりました。河内を重点的に探してみましょう」
「うむ、よろしく頼んだぞ」
北畠親房は下がっていった。
とにかく、出来うる限りの手を打ってみよう。このまま漫然としていても幕府の言いなりになってしまうだけだ。
「吉田定房を呼べ」
しばらくすると、吉田定房がやってきた。
「今から、秘中の秘を語るぞ」
「はっ‥」
「朕は幕府を倒すため挙兵する」
「‥な、なんと申されました?」
「討幕じゃ、これ以上、幕府の言いなりになることはできない」
「しかし‥、恐れ多くも、先の後鳥羽帝にあらせられましては、計画に失敗し、島流しに処されているのですぞ」
「今の幕府に、かつての北条政子や北条義時はおらぬ。決して一枚岩の幕府ではない」
「確かに、幕府は一枚岩でないことは確かですし、恩賞による御家人たちの不満も高まっていると聞いておりますが、こちらに味方するものがどれほどいると仰るのですか。現状で我らは一人の兵も持っておらぬのでございますよ」
「それは十分に理解しておる。味方を募るのじゃ」
「少々の味方ではとても歯が立ちませぬぞ」
「確かにそうじゃ。大きな味方がほしい。それはこれから探さねばならぬが‥」
「しかし、お上がそう仰るのでしたら、我らはそれに従うのみです」
「よいか、このことは他言無用ぞ」
「はっ、畏まりました」
吉田定房は下がっていった。
大きな味方‥。確かに定房の申す通りじゃ。
打ってみなければわからぬ大博打じゃな‥。
尊治は覚悟を決めた。
数日後、尊治は、吉田定房に裏切られたことを知った。
定房は六波羅探題に尊治の討幕計画を密告したのだ。
幕府は急ぎ、長崎高貞ら追討使を派遣してきたのである。
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