三州の太守

芙伊 顕定

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【第二十三話】笠置山

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 幕府軍は、帝が比叡山に逃げ込んだという情報を掴み比叡山方面に向かった。
 その後の調べで情報が誤りであることが判明し、取り急ぎ、宇治にて兵が集まるのを待つこととなった。

「六波羅探題は、帝を包囲して捕える寸前までいったのに、逃げた方向がわからぬとは。幕府の諜報もなかなかザルだな」
 足利高氏は呆れていた。
 それと、高氏にとって気になっている点がもう一つあった。
 それは、兵の質である。
 足利の兵は自ら調練してきたので、質の良さでは負ける気がしなかったが、そのほかの幕府軍は、数は多いが烏合の衆にしか見えなかった。
 何せ、坂東武者にとっては対外的な戦は100年も前の戦以来である。
 流石の坂東武者も、内輪揉め以外なかった100年の間に質が落ちているのも仕方のないことであった。
 やはり、頼るとするなら、50年近く元の襲来に悩まされ、日夜訓練漬けになっている西国御家人たちであろう。

「帝の潜伏先が判明しました。笠置山です」

 確かな情報を得た幕府軍はその日のうちに動き出した。兵の数は7万5千を超える規模となっていた。

 笠置山、山城と大和国境近くにある、標高300m程度の丘のような山である。 
 木津川のほとりにある山で、四方を山に囲まれ、攻めるとしたら、北西側の少しひらけた平地側から攻めるしかなさそうな地形をしている。
 いわゆる天然の要害である。

 良い場所に籠ったな。
 高氏はその情報を聞いた時最初にそう思った。
 こちらが如何に大軍でも、一斉に総攻撃することができない。
 持久戦になりそうだ。直感としてそう感じ取っていた。
 高五郎改め高師直も同じように感じたようだ。難しい表情をしているのがよくわかる。

 戦は局地戦による一進一退の攻防が続いた。
 籠る帝側の兵力は3千程度であるが、攻め口が狭いため兵の多寡で勝負を決することができない。
 むしろ、籠る帝側の兵の方が善戦していた。

「師直、なかなか時間がかかりそうじゃな」
「高氏さま、兵の質だけを比べるとしたら、烏合の衆の我が方よりも、帝側の兵の方が戦慣れしているように見えます」
「いずれにしても、師直。このような戦で我が足利の兵を損耗するわけにはいかん。戦っているふりだけしておけ」
「心得ております」

 大仏貞直と金沢貞冬は焦っていた。これだけの大軍を率いて、高々3千の相手にここまで苦戦するとなると、外聞が非常に悪い。
 しかも季節は10月である。あまりに粘られすぎると冬になってしまい、雪にでもなれば、余計攻め手がなくなってしまう。
「貞冬どの、何か決め手はござらぬか」
「そうよのう‥。あるにはあるのだが、天気がこう穏やかではなかなか手が打てぬのう」
「‥風か?」
「左様にございます。うまく風が吹けば使える手があるのですが」
「まもなく11月じゃ、木枯らしがいつ吹いてもおかしくあるまい」
「それがしもそれを願っております。いずれにしろ、もう一月近く経ってしまいました。そろそろ決着をつけたいところです」
「であるな」

 四条隆資は、敵の大軍をよく防いでいた。
 笠置山の地形をうまく利用し、味方の兵が敵の複数人に囲まれないような場所を防衛拠点として選びながら、防戦していた。
「忠顕どの、味方の兵はよく戦ってくれております」
「なんの、隆資どの、そなたの用兵がすぐれているのよ」 
 同僚の千種忠顕とうまく連携しながら大軍を押し返している。
 しかし、この要害にも弱点があることは十分に承知していた。敵が気づかなければよいが‥。

 戦局が動いたのは、そろそろ11月に入ろうかとしている夜のことであった。
 夜半から雨が降り始め、風を伴ってきたのである。

「絶好の機会がきたぞ!貞冬どの」
「うむ、風向きもよいな」
「火を放て!」

 幕府軍は笠置山に火を放った。風に煽られて、火はどんどん燃え広がる。

「お上、ここはもう駄目でございます。どこかに身をお隠しください」
 尊治は慌てて寝所から飛び出し、近くの岩窟に身を潜めた。

「帝を探せ!どこかに潜んでおるはずじゃ」

 捜索の声が山の中に響き渡る。尊治は、覚悟を決めた。ここにいてもいずれは見つかる。儚い夢であったが、討幕計画が敗れ去ったことを実感した。

 尊治と側近たちは幕府軍に捕えられ、六波羅探題に身柄を移されることとなった。
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