誰も仲間に入れてくれない補助魔導師はソロで頑張る

Akao

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第一話

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とある食堂の机にガッチリした冒険者の男とそれに向かい合う青い髪の青年が座っていた。
「私がウィストだ。君が私のパーティに入りたいというラルズ君だね?」
「はい!」と青い髪の男、ラルズが答えた。
ラルズは19歳。村から上京してパーティに入ろうと奮闘中だ。
「早速だが、君の役職は?」
「俺は補助魔導師です!」
「ほう、珍しい。ちょうどうちにいないタイプだから役に立ちそうだ。」
にこやかそうに言うウィスト。印象は良い様子だ。しかしラルズは何故かまだ不安げだ。
「ただ・・・ちょっと頭に入れてほしいことが・・・。」
「なんだ?」
「俺、他の人にはかけられないんですよ、補助魔法。」
「・・・は?」
ウィストは困惑する。無理もない。補助魔導師とは他人を補助する役割なのだ。それなのに他人に使えないというのは自身の役割が無いことになる。
「自分にしかかけられないんです。ですが役に立ちますよ俺!ほんとに!」
食らいつくラルズ。だがそれを耳に入れずその場を去ろうと立ち上がるウィスト。
「冗談はよしてくれ。パーティに入れるのは無しにしだ。」
「待ってくださいよ!本当ですから!」
「話にならん。」
とウィストは言い残し、食堂のドアを開けて出ていった。その場には1人取り残されたラルズがいた。
「まただ・・・これで50個のパーティに断られた・・・!」
ラルズは他の客が飯を食べている姿を見る。もう3日何も食べてないラルズには堪える光景だった。
「金がなきゃもうやばい!こうなったら!もう1人でやるしかない!」
と決心したラルズは、急いで食堂を出ていきギルドへと向かった。

ギルドとは、主に魔物のせいで困っている人と、自身の魔法や能力を活かしたい人のための施設である。具体的には、魔物の被害に遭って困っている人が『クエスト』として出した依頼と報酬を受理し、その依頼を力のある者が引き受ける。その依頼を達成すると先に預かっておいた報酬が支払われるという仕組みだ。
依頼の中には1人では難しいものもある。そのため力ある『冒険者』達が結託したのが『パーティ』と呼ばれる。ラルズが入れなかったやつだ。
そのラルズはクエストの受付嬢と話していた。
「え、ラルズさん。結局1人ぼっちでやることにしたんすか?」
「悪いかよ。」
「まあ自分だけ補助する補助魔導師とか誰も誘わないっすよね。」
「そんな事自分でも分かってんだ。それよりもこれ。」
ラルズはクエスト掲示板に貼られていたひとつの紙を差し出す。受付嬢はその文字に目を通す。
「はいはい、クエストっすね。熊退治っすか。やべえ熊出るかもっすよ?」
「大丈夫だよ別に。見てろ。」
「そういうことなら・・・。」
受付嬢はその紙に受理されたという意味のハンコを押す。同じクエストが複数人に引き受けられると混乱やトラブルの原因になるので、重複しないようにハンコを押している。
その紙は受付嬢の書類の束の1番上に置かれる。そして受付嬢は別の紙を取り出してそこに色々と書いていき、その紙を手渡される。
「はい。熊を退治してきても、この紙に依頼主のハンコがなきゃ報酬は出ませんから。ゴウア村までの道はあの大地図を見てください。」
とギルド内の大きな壁掛け地図を指さす。
「分かったよ。」とラルズは自分のカバンにしまう。
「あと、諦めることも肝心っすよ。」
「うるせえ。だったらあんたも接客業諦めとけ。」
ラルズは振り返って足早にギルドを後にする。ギルドの中にはイカつい装備を持った熟練そうなパーティや、成り立てっぽい若々しく初々しいパーティなど多様な人間がいた。
とてもうるさい。ラルズはそれが嫌いだったため、速攻で外に出た。
「あ~。いつまで経っても慣れないな、あの場所は。うるさいのは嫌いだ。・・・あっ!」
ここでラルズは思い出す。ゴウア村までの道のりをよく覚えないまま外へ出たのだ。
「まずいな。見に戻るか?いや!それだけは絶対に
無い!あの場所はうるさすぎる。」
ということでラルズはゴウア村までの道のりを街の門番に聞いてみることにした。門番は文字通り街に魔物が入ってこないか見張る仕事だ。街を守る重要な任務のため、英才教育を施された力も頭脳も一級品で無くてはならない。

街の1番外側、大きな門に付いた。そこに立つ兵士は1人。こちらに見向きもしない。
「なあ。門番?ちょっといい?」
「なんだ?また雇えと言う気か?何度も言うが、我々は王家に仕える使命と誇りを持って・・・。」
「違う違う!俺もう1人でクエストやることにしたんだよ。」
「1人で?・・・まあ、そう決めたならいい事だ。」
「そこでさ、ゴウア村って知ってる?あそこまでの道を忘れちゃってさ。」
それを聞いた門番は「何?」と呟いた後ため息をつく。
「本当に大丈夫なのか?1人で生きていくと決めたならば、1人で全てのことをやる覚悟を背負わなければいけない。そうしなければいつかボロが出て取り返しが・・・。」
「わかったわかった!ちょっとド忘れしちゃっただけだから。そんな大袈裟な。」
「そうだといいんだがな。見たところ、同い年くらいだから心配なんだ。」
「えっ!マジかよ!!!」
ラルズは目を丸くして驚いた。確かに顔は兜に覆われて見えなかったが、言動からまさか歳が近いとは思えなかった。


門番は周辺の地理に精通していて無事に道のりを教えて貰えた。教えられた通りにそこそこ長い道のりを歩いてゴウア村についた。
ゴウア村に来て最初に目に付いた農家のおじさんに話しかけた。
「おう。ちょっといい?」
「あ、お客さん?こんな村にどうしたんだい?」
おじさんは気さくそうに言う。
「俺はラルズ。クエストで来たんだけど。村長いる?」
と言いながらカバンから出したクエストの紙を見せる
「え?凶熊きょうゆうを退治してくれるのかい!?助かるよ!とても困ってたんだ!」
「そんなに喜ぶことなのか?」
「そりゃもう。最近近くの森からやってくるようになってね。畑は荒らされるし、追い返すのに一苦労だし、それにとにかく凶暴で・・・。というかあんた、1人だけど大丈夫なのかい?」
ラルズは武器も持たず装備も普段着でさらに1人だったため、おじさんは不思議がる。
「大丈夫だよ。」
その心配をラルズは意に介さなかった。

そう話してると、村の奥から男が駆けてきた。何やら慌てている。
「大変だ!凶熊が現れたぞ!」
男は大声で言うと、村中が騒がしくなった。大多数が逃げる準備を、少数が立ち向かう準備をする。
おじさんも「うわ、大変だ!」と言い農具を置いて逃げ出そうとする。
ラルズは遠目からその熊を見た。熊は普通の熊の2倍はありそうなくらい大きかった。
「そうか?俺にとっちゃ好都合だ。これ持ってて。」
「や、やっぱり無茶だよ!逃げよう!」
ラルズはその声を無視し、一呼吸しながら自身に攻撃力上昇魔法パワーバフをかける。その数はなんと5000。
同じ補助魔法をかけるには補助魔導師によって上限があり、最高峰の補助魔導師だと1人につき16回まで重ねがけができるのだが、ラルズにはその上限がなかった。さらに補助魔導師は一度に複数の補助魔法をかけられる。当然普通の補助魔導師なら一度にかける数に制限があるのだが、ラルズにはそれも無かった。
そのため驚異的な強化を瞬時に付与できるのだ。ただし自分にだけ。ちなみにラルズは低級効果の補助魔法しか覚えていないが、数の暴力で何とかするので問題ない。

同じ容量で行動速度上昇魔法スピードバフを5000かけると、ラルズは村人の目の前から消え、熊の腹の前に瞬間移動して、5000もの強化がされているパンチを腹に1発喰らわせた。
強烈な衝撃音と共に、人の数倍の体重はある熊が弧を描きながらぶっ飛んだ。
熊は地面に背中を打つ鈍い音を発した後そのままぴくりとも動かなくなった。

周りの村人は何が起こったのか分からず唖然としていたが、だんだん状況が飲み込めるとラルズに大歓声を送った。
「うおおおおお!」
「な、なんたることじゃ!」
「あんちゃんすげえな!」
「ありがとう!」
村人はラルズに詰め寄る。当然ラルズはその大音量の歓声の中心にいるわけで・・・。
「ああああああああっ!うるせえっ!!!」
ラルズは行動速度上昇魔法スピードバフによる高速ダッシュで一瞬で村が見えなくなるくらい遠い道に着いた。
村人達は突然消えたラルズに戸惑うが、ラルズの知ったことではない。
「は~~~・・・。うるさいのは嫌いなんだよ。体力が削がれる。耐えられない・・・。」
近くにあった大きめの石に腰掛ける。
「褒められるのは嫌いじゃないんだ。みんな静かに褒めてくれないかな。」
ラルズはふとなにかを思い出したようにカバンの中、そして服のポケットをまさぐる。その末に気付いた。
「あっ!やばい!クエストの紙!あの村人に渡したまんまだった!ハンコも貰って無いし!」
ラルズは村の方向を見る。
「でも今村に戻ったら・・・。」
頭の中で村中の人間から発せられる褒める爆音の中に包まれる姿を想像した。それだけで吐き気がしてくる。ラルズは首を振った。
「・・・諦めるしか無いか。」
ラルズは3日も何も食べていない。食べるために金が必要だ。それなのに、うるさいのは嫌いというだけで金を貰えるチャンスを破棄することに決めたのだ。
それほどまでにうるさいのが嫌いだ。途方に暮れながらラルズは街へ帰っていく。
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