誰も仲間に入れてくれない補助魔導師はソロで頑張る

Akao

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第三話

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日が照りつける正午にギルド施設にラルズの姿があった。昨日と今日でまたクエストをやる気だ。
「ラルズさん、今日もクエストっすか?」とギルド施設の中の受付嬢が皮肉そうに言った。
「昨日の分は飯代と服代と風呂代でだいぶ消えたからな。今日もクエストしないと。」
「定職に付かないと大変っすね。不安定な生活じゃないっすか。」
「うるさいな。早く仕事してくれ。あんたの仕事早いのだけが来てる理由なんだからな。」
ギルド施設のクエスト受付窓口は5つあり、それぞれに受付嬢がいる。ラルズは5人の受付嬢をそれぞれ見て最も早く仕事ができる受付嬢を選んだ。まさかそれが生意気娘だと思わなかったが。
その生意気娘にクエスト用紙を渡した。「はいはい。わかりました。」と言いつつ受け取る。
受付嬢はクエスト用紙にハンコを押して紙の束の1番上に置く。そしてその紙に色々と素早く書いてから別の紙を取り出して差し出した。
「ちなみにそのクエスト、2人のマルチクエストだから一緒にやる人がいるはずっす。」
普通のクエストは能力が欲しい困り事を解決するためのクエストならば、マルチクエストは人数が欲しい困り事を解決するためのクエストだ。パーティなど関係なく複数人が受けられ、平等に報酬が出る。
「相変わらず仕事は早いんだな。」
「これでも元奴隷っすからね。仕事には自信あるんすよ。」と自信ありげに言う。
「本当か?初めて知った。でもこんな生意気な奴隷なんて欲しくないけどな。」
「私だってラルズさんには雇われたくないっすよ。」
その時、ラルズの後ろから白い髪、白い肌、白い鎧の色男が近づいた。
「やあ。君もそのクエストをやるのかい?」
男は気さくな笑みを浮かべているイケメンで、人当たりがとても良さそうだ。受付嬢はびっくりした表情でその男を見ていたがラルズはその男を知らなかった。
「誰?見たことある気がするんだが・・・。」
「自己紹介しておくよ。僕は・・・。」
「ダンドルさん!?なっななななんで!」と大慌てで受付嬢が言う。
「どうしたんだよ。」
「知らないんすか!?この街で1番冒険者レベルが高いライオネルさんってのがいるんすけど、その人のパーティの一員っすよ!見ての通り超イケメンで超有名人っす!」
「はははっ。僕のセリフが全部取られちゃったな。」
受付嬢の言う通り目の前のダンドルはとても綺麗でイケメンだった。だからこそとある疑問が沸いた。
「『君も』ってあんたもやるのか?これ。」とラルズは手に持つクエスト用紙をはためかせた。
「その通りさ。よろしく頼むよ。」
「へぇー。意外っすね。ダンドルさんがそんな雑用みたいなクエストやるなんて。」と受付から身を乗り出して言った。
「やめろよ遠回しに俺も傷つけんの。」
「はははっ。ところで君は?」とダンドルはラルズに目線を向けた。
「ラルズだ。まあ、よろしく。」
「じゃあ行こうか。」
ダンドルはにこやかに言った。一緒のマルチクエストになった以上断る理由も無いのでついていくことにした。

2人が外に出ると、それを見た街の人間が騒ぎ出した。主に女性達が尋常ではないくらい騒ぐ。
「あっ!あれダンドル様じゃない!?」
「他のパーティメンバーがいないわ!」
興奮した様子の女達がダンドルの元に駆け寄る。
「きゃーーーっ!」
「どこへ行くんですかー!ダンドル様ー!」
「こっち向いてー!」
一気に騒然とするダンド周囲。「こらこら、君達。」とダンドルは笑っているが目は困っている様子だ。
「はははっ。すまないねラルズ君。僕がパーティにいない時はいつもこうで・・・あれっ?ラルズ君?」
いつの間にか近くにラルズがいなくなっていたことに気付いた。もう少し注意深く見渡すと、少し距離の離れた物陰にラルズが見えたのでそこへ向かっていった。
「探したよラルズ君。いつの間にそんなところまで行ったんだい?」
「止まれ!来んじゃねえ!」
拒絶するように大声を出したラルズ。本人にしては当然だ。ラルズの最も嫌いな騒音がこっちに向かってきたのだ。
しかし逆効果だったようで女達はより一層騒ぎ出す。
「ちょっと何よ!」
「ダンドル様にその言い方は無いんじゃないの!?」
「そうよ!」
「ダンドル様が傷つくでしょ!」
と思い思いにぶちまける。「君達、落ち着きなさい・・・。」とダンドルは困った表情をして言うが勢いは止まらない。
「うああああっ!うるせえっ!」
「ちょっ!ラルズ君!?」
限界が来たラルズは物陰の奥へと消えた。ダンドルが急いでそこまで寄るが、そこにはもうラルズはいなかった。
「いない・・・。」と思わず一言漏らす。

ガンガルディア町の西門。そこは現在魔物も来ず問題もなく平和だった。朝からずっと立っているセヴィルカーナに爽やかな風が当たる。
その兵士は兜の中で真剣な顔をしているが、実は明日から4日休みのため内心とてもウキウキしている。7日勤務4日休みの形で門番をやっているのだ。
7日連続の退屈な仕事も今日でもう終わりだと思うと、ただの風だろうととても爽やかに感じる。
するとその時、後ろから突然男の声が聞こえた。
「はあっ・・・!はあっ・・・!」
その声が聞こえたと同時に剣を抜き戦闘態勢に入った。そして急に現れた存在を敵意を込めながら注視する。
「なんだっ!・・・ラルズか。いきなり現れないでくれ。大抵のことなら驚かない私だが、今のは驚いたぞ。」
セヴィルカーナは警戒心を解いて剣をしまった。
「悪いな。セシ、スシ、えーっとスシル・・・。」
「セヴィルカーナだ。何があった?ラルズ。」
「別に何もないよ。ただ走って疲れただけだ。はあ・・・。」
ラルズは行動速度上昇魔法スピードバフを5000回自分にかけて西門まで全力ダッシュしただけだ。スピードバフをかけると周りからは速く見えるが、ラルズ自身は同じ距離を同じように走っているに過ぎないため普通に疲れる。それに騒音に触れていた疲れもあって息が絶え絶えだ。
「とてもそうには見えないがな。ここに水がある。飲むか?」
「いいよ別に。」
そうこう話しているうちに、西門にダンドルがやってきた。ダンドルも走ってきたらしく多少疲れていた。女達はついてきてないようだった。
「あっ!見つけたよラルズ君。先に来てくれたんだね?」
「急に逃げて悪かったな。俺うるさいのめちゃめちゃ嫌いなんだよ。」
「はははっ。気にしてないよ。女の子達は街の外までは来れないから大丈夫さ。ところでこの門番は知り合いなのかい?」と兵士に目を向ける。
「私はただの門番だ。」
無愛想に答えるセヴィルカーナ。
「・・・だってさ。ダンドル。」
「そう。門番の仕事頑張って。」とにっこりしながら言った。
「あなたも無事に帰って来れるよう。」
セヴィルカーナは軽く一礼して堅く言う。出発する2人を最後まで見送った。

歩きながらラルズはクエスト用紙をじっくり見る。
クエストの内容は、サッテロウ村のメルカの木に登ってメルカを収穫して欲しいというものだ。クエストに出すくらい難しいことなのか?とラルズは思った。
「メルカの木ねえ・・・。どんな感じか知ってる?」
ラルズはフードを被ったダンドルに話しかけた。
「中々に大きな木だよ。だから実を採るのも一苦労で、クエストとして頼んだんだろうね。」
「なるほどな。」
「ちなみに、魔物や獣に関連するクエストは国から報酬が出るけれど、こういう個人的な頼み事のクエストは基本的に依頼主自身が報酬を出すのさ。」
「ふーん・・・。」とどうでも良さそうに言う。
「これはあんまり興味無い?」
「金貰えたら何でもいいから。」
「はははっ。それもそうだね。」
道なりに歩いて行くと大きめの村があり、その中にとても目立つ大樹が見えた。幹も葉の範囲もとてつもなく大きい。
「なんだありゃ。大きい木だな。」
「だろう?あれがメルカの木さ。」
柵に囲われたメルカの木はラルズの6人分はありそうな高さだった。
「あれに登るの?」
「そうさ。あの中に小さなメルカがたくさんあるんだ。」
その2人に近寄る老人がいた。この老人こそが依頼主で、カゴを2つ持っていた。
「やあやあ、おたくらかい?ワシの依頼を受けてくれたのは。・・・ダンドルさん!?」
老人は目を丸くする。ダンドルがいることがそこまで予想外だったのだろう。ラルズはサッテロウ村まで通じる知名度に驚いた。
「・・・影響力すごいな。」
「はははっ。ありがたいね。」とにこやかに言った。

老人から軽く説明を受けた2人はいよいよ木に登りにかかる。
「それじゃあ行こうか。」
「おう。」
登りながらラルズは気になったことを聞いてみた。
「にしても、あんた金稼いでるだろうにどうしてこんなクエストしてんだ?まさか金に困ってんの?」
「困ってるわけじゃないんだ。まあ、貰えるに越したことはなんけどね。よいしょっ!」
横に手を伸ばせばメルカが採れる位置まで登った。枝の上に足をしっかり付けて立つ。なかなかの高さで足を踏み外したらタダじゃ済まなそうだ。補助魔法がなければの話だが。
ここから見える村の景色は素晴らしいもので、村の家々を全て一望できた。
「ふぅ。ラルズ君、いい登りっぷりだったよ。」
「まあな。」
2人は太い木の枝をうまく渡りながらメルカを採ってカゴに入れていく。そうしながらまたラルズはさっきの続きの質問をした。
「じゃあなんでなんだ?人気取り?」
「パーティの知名度のためさ。人気取りと同じことだね。」
「知名度?」
ラルズはダンドルの方を見る。
「それがあれば何かと動きやすいし、パーティの実力もちゃんと見てもらえるんだ。だけど、僕の仲間は僕以外知名度に無頓着なのさ。だから僕がみんなの分まで美しくなったり、こういうクエストをやって僕達を知ってもらうんだ。」
「なるほどな。てっきりただモテたいだけの人だと思ってたけど随分と打算的なんだな。」
「はははっ。褒め言葉として受け取っておくよ。」
「でも悪いな、俺のためにそれをやめてくれて。」
ダンドルは今フードを被って自分の正体を隠している。うるさいのが嫌いなラルズのためだ。
「ラルズ君は何も知らなかったんだ。気にしなくていいさ。」
しばらくするとダンドルのカゴにメルカが満杯に溜まった。空いた時間でメルカを採っているラルズの姿をじっくり見ていた。
「ラルズ君。見ている限り実力は確かにあるね。実力の通りに評価されたいと考えてるなら、君も美しくなって自分を周りに見せつけなきゃいけないよ。」
その言葉を聞いて「余計なお世話だよ。」と一蹴するラルズ。
そうこうしているうちにラルズのカゴにもメルカがいっぱいになった。
「こんなもんかな。」
「終わったかい?・・・ところでラルズ君。あれが見えるかい?」
そう言ったダンドルは緊張した面持ちである方向を指差す。ラルズは目を細めてそっちを注目した。
「オークの群れ?・・・こっちに向かってる?なんでだ?」
ダンドルはさっきの明るいトーンとは違う重々しい口調で話し出す。
「・・・オークは他種族の巣を乗っ取って自分達の群れの巣にして、群れが成長したら何匹かのオークが出ていってまた他種族の巣を乗っ取るという習性があるが・・・。」
「この村が狙われたってことか?巣として。」ラルズはダンドルの方を見た。
「かなり珍しいことだけれど・・・人の村を乗っ取る時はとても数が多いらしい。あの数は明らかに多すぎる。間違いないだろうな・・・。」
ダンドルはカゴをラルズに渡す。そしてフードを脱いだ。真っ白な長髪がなびく。
「ラルズ君。君はガンガルディアに戻ってギルドに報告してくれ。すぐに人がここに駆けつけるだろう。」
「それはいいが・・・あんたは?あの数を相手にする気か?」
「応援が来るまで持ち堪えられる自信はあるさ。」と言いながら眩しいくらいの笑顔を向けた。
オークの存在は村人にも知られてきたようで、徐々に騒ぎ始めた。
「オークだ!オークの群れだーーーっ!」
「なんですって!」
「大変だ!早く逃げろーっ!」
そろそろ時間だ、と思ったダンドルは細く長い剣を抜いて飛び降りる。
「ラルズ君!頼んだよ!」
木から屋根に飛び移り、そのまま素早く屋根を伝ってオークの群れまで走ったダンドルの姿は、まるで白い光のようだった。群れの前に立ち戦おうとするダンドルに村人も気付いたようだ。
するとダンドルの周りからは応援の声、喜びの声、期待の声、絶望の声などたくさんの声で溢れた。大音量のその村からラルズはいなくなった。
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