思いが重なるとき

やぼ

文字の大きさ
5 / 16

蔵にあったもの

しおりを挟む
「ママ、この家は何なの?」
「ああ、そこは蔵だよ。古い本や
昔使ってたいろんな道具や家具とか
置いてる倉庫みたいなもの。」
「ねえ、入ってみてもいい?」
「いいけど、鍵が掛かってるから
開けて貰わないと入れないよ」

母の実家に来て3日ほどが過ぎた。
母は職場へ1週間ほど忌引休暇を取った。
マヤも学校に、祖母の死を知らせて
1週間の忌引を取ったのだ。

祖母のお葬式がすむと、母の叔母の範子が
これからのことを話し合いましょうと
母に言ってきた。

母は頷き、今夜、祖父や親戚を交えて
家族会議があることを知らされた。

母は、こんな大きな家のお嬢様だったのかと
驚いたマヤだったが、同時に不安にも
襲われた。

これから、どうなるんだろう?

そんなマヤの心配をよそに
春菜は、マヤに家の中を案内するからと
庭に出たのだった。

庭に建つ二つの蔵。
家政婦のタミさんに鍵を開けて貰った。

中へ入って、電気をつける。
「わあ、これ、昔の武士が着てた鎧だよね」
「そうだね。ママは子どもの頃
嘘を付いたりするとおばあちゃんにここへ
入れられて、この鎧兜の置物が恐くて
泣いたなあ。」
「ママが悪いことするからだよ。おばあちゃん、私にはとっても優しかったよ。」

「あはは。そっか。おばあちゃん
マヤには優しかったんだね」
「うん。ママにもでしょ」

マヤがそう言って春菜の方へ振り返ると
母は涙を拭いていた。

祖母を思い出してるのだろう。

マヤは、どんどん奥の方へ入って行った。
立派な置物や家具が所狭しと置いてある。

時代劇が出来るのじゃない?
まるでお宝鑑定団みたいだ。

凄いお家なんだなあと
改めて母の実家が由緒ある家だと
言うことを思い知った。

(あれ、この本、あの日記みたい。)

ふと平積みされてる書物を見つけた。

中をパラパラと捲って見る。
帳簿?
数字がつらづらと書いてあった。

「ママ、これなあに?」
「うん?それは、昔の帳簿か何かじゃない」

「これって、昭和の戦争時代の頃の
ノ-トなのかな?」

「う~ん。ママには分からないけど
昔からあったね。でもママが落書き
してるけど。」

「あ、ホントだ。ドラえもんだあ
これ。」

子どもの頃の母の落書きを見て
思わず笑みがこぼれる。

「そろそろお昼だから、出ようか。
食事に遅れると、またおじいちゃんに
叱られるから。」

「ママ、大変だったんだね。あんな
人が父親だし、婚約者まで決められて
信じられないよ。」


マヤにとっては、印象悪い鬼のような
祖父。 

「あんな人とおばあちゃんもママも
よく一緒に暮らしていられたね。」

マヤが春菜に畳みかけるように
悪態をついても、「はい、はい。」と
春菜は笑っていた。

ふっと、吹いてきた風が
「あの方が約束を覚えていてくれた。
嬉しい。」

と囁いた。

「え?誰?」

母には聞こえていなかった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...