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二章『パテ編』

第59話 大喧嘩祭6

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「ただいまBブロックの控え室で食中毒が発生したため! トーナメントに参加する選手たちの殆どが搬送されてしまいました! しかぁし! 中止するのは倒れていった選手たちにも失礼! なので! 残った方たちが不戦勝で繰り越していきます!」

 騒然としていた観客席も、今の話を聞いて気持ちを切り替えたようだ。俺たちがそれを眺めていると、さっきの白スーツの男が現れる。焼き鳥を頬張りながら、エリノアに向かって声をかける。

「はふはふ、失礼、小腹がすいていたもので。おやおや、残ったのは私たちだけのようですね」
「むにゃクソ悪いけどにゃ。というか、いまミーは早くお前をギッタギタにしたくてうずうずしてるよ」
「ふふ、やる気満々のところ恐縮ですが、私とやるのは準決勝までお預けのようですよ」
「あん?」
「エリノア! 手合わせお願いします!」
「そうか、アイにゃが先か、棄権してくれるとミーとしては助かるんだけどにゃ」
「そういうわけには行きません!」
「だよにゃ」

 アイナとエリノアは中央にある20m四方の試合場に案内される。

「両者並び立ちました! 青コーナー! アイナ・フォルシウス選手! エルフ属が得意とする弓を使わずにここまで来ました! 対する赤コーナー! 獣戦士エリノア! 近接戦ならエリノア有利か!」
「ちょっとイライラしてるから、別にあたるわけじゃにゃいけど、その、あとでジゼルに治癒魔法かけてもらえよにゃ」
「胸を借りますよ」
「金を払えばいくらでもかしてあげるよ」
「では! Bブロック第1回戦開始ぃいああああああーーッ!!」

 開始の合図とともにエリノアは駆け出す。それに合わせてアイナは迎え撃つ型をとる。エリノアの剣を持つ右腕が捻り突き出される、刺突だ!

 アイナは巧みなステップでエリノアの刺突を回避する、そして突き出したエリノアの右腕を掴んで身を翻して投げ飛ばす! 背負い投げのような動きだ。

 エリノアは空中で体を捻り四肢で着地する。アイナが追撃する、だがエリノアは素早く飛び退いて距離をとる。

 歓声が沸き起こる、意外と白熱しているな、でもエリノアの方が余裕はあるか。それにしてもアイナめ、投げ技も習得しているとは、相手がエリノアじゃなかったら、背中から地面に激突していたぞ。

「??????さない」
「にゃんか言ったか?」
「バーガー様は渡さない」
「うニャッ!!」

 アイナは上段から剣を振り下ろす、エリノアがそれを受けて鍔迫り合いになる。って、今なんて言ったんだ? よく聞こえなかったぞ。

「にゃんのことをいっている!」
「バーガー様は私の勇者様です!」
「ぐ、どこにこんにゃ力を!」
「愛の力です!」
「ふざけんにゃ! 愛で飯がくえるか!」
「それは愛が足りてないからです!」

何の話をしている! 愛? 哲学か? なぜ戦いの最中に哲学の話を? それにしてもアイナが押している。獣人族の腕力は人族、そしてエルフ族よりも強い。そしてエリノアはSクラス冒険者だ。そのエリノアを押すなんて、これも秘密の特訓か?!

 しかし、そう上手くは続かない。

「これはどうか、にゃ!」

 鍔迫り合いの中、エリノアがアイナの腹を蹴り飛ばす。アイナは堪らず片手で腹を抑え衝撃によって後ずさる。エリノアは体勢を崩したアイナの好きを見逃さない。

 刹那の剣戟の後、アイナの剣が宙を舞う。エリノアの切っ先はアイナの喉元に向けられている。あと1ミリ、剣を前に突き出せばアイナの首に刺さるだろう。

「チェックだにゃ」
「負け、ました??????」

 ふむ、アイナも善戦したが、エリノアには及ばなかったか。まぁ、互いに弓と巻物(スクロール)を使わない戦いだったから、どっちが本当に強いかは判断しかねるよ。

「勝者! エリノアあああ!!」
「バーガー様、ごめんなさい、負けてしまいました」
「頑張ったな、あのエリノア相手によく頑張ったよ」
「ありがとうございます!」
「バーガーは罪深いハンバーガーだにゃ」
「なんの話だ?」
「いんや」
「エリノア、手合わせありがとうございました!」
「怪我なく終われてよかったにゃ、はぁ、それにしてもだにゃー、あんなに強く打ち込むにゃんて、ミーの剣じゃなかったら、ダメににゃってたかもしれにゃいにゃ。そっちの剣もなまくらじゃないとは思うけどしっかり手入れしておくことだにゃ」
「はい!」
「じゃ、バーガー、あのいけ好かない詐欺師をぶっ飛ばしたら、すぐに行くから首を洗って待っているんだにゃ」
「おう、決勝で待ってるぜ」

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