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二章『パテ編』
第93話 モノマ村26
しおりを挟む俺は戦慄した。モーちゃんは透明龍(インビジブルドラゴン)に食われたのだ、モーちゃんが見つからないのも、そう考えればうなずけてしまう。
俺はクラウンを素早く一周させる。俺の動体視力ならそれだけで全体の状況を把握できる。勇者パーティの面々は、俺の指示がなくてもそれとなく陣形を作ってくれている。エリノアと俺が前衛、アイナとジゼルが後衛だ。
聖騎士たちは他の魔物が近寄らないように戦ってくれている。今は感傷に浸っている場合じゃない。
「エリノア、やっちまおう」
「もちろんだにゃ」
俺とエリノアが二手に分かれて駆け出す。俺が右側でエリノアが左側だ(エリノアが右手に剣を持っているためだ)。エリノアの方が速いがそれがかえって波状攻撃になる。
透明龍(インビジブルドラゴン)の攻撃方法は全てあの高性能な舌によるものだ。いくら速いとはいえ、左右から攻撃を受ければ反応が鈍るはずだ。
「ぐっ!!」
俺は毒針(ポイズンニードル)を魔力生成して舌の攻撃をギリギリで防いだ。俺の方に舌が来たか、それでもいい、エリノアがフリーになる。そう思った矢先。
エリノアも後退している、舌の攻撃を防御したのだ。さすがに舌の攻撃が速すぎる。俺は目を凝らす。
驚くべき事実が判明する。
「こいつ舌が2本あるのか!」
左右の目を別々に動かすのと同じように2本の舌を別々に動かしている。二枚舌とはまさにこの事。
アイナの矢と、ジゼルの氷(アイス)の玉(ボール)が着弾する。しかし、目に当たった矢は瞼に弾かれてしまう。瞼も鱗で覆われていて硬いのだ。氷(アイス)の玉(ボール)も効いていないように見える。
透明龍(インビジブルドラゴン)はカメレオンのような独特の前後に揺れる動きで迫ってくる。最後の素材を使う時が来たようだ。
「『魂(マテリア)の実体化(ライズソウル)』」
俺から溢れる青いオーラが人の形になる。三角巾を頭に巻いた、上半身のみの筋骨隆々な生前の俺が現れる。
それを見た透明龍(インビジブルドラゴン)の雰囲気が変わる。どうやら俺の勇者感が伝わったらしいな。
透明龍(インビジブルドラゴン)が口を大きく開く。ゾロゾロと舌が現れる、その数計7本。それら全てがマシンガンのように打ち出して俺に襲いかかる。ならば壁ドンだ!
拳と舌突きのラッシュ合戦だ。だが透明龍(インビジブルドラゴン)の敵は俺だけじゃない。俺に集中している隙をエリノアが突く。
エリノアは巻物(スクロール)を親指で弾く。巻物(スクロール)は青白い光を放ち煙をあげて消える。エリノアの持つ片手剣に魔力生成された外装が装着される。あれは打撃属性付加(エンチャントハンマー)だ。
大きな槌となった片手剣をエリノアは両手で振り回す。遠心力を活かした一撃を透明龍(インビジブルドラゴン)の左脇腹に加える。ほんの少し宙に浮き、口から斧牛(アックスブル)の角が落ちる。角は根元から折れていてモーちゃんの姿はない。
やはり食われてしまったのか。わかった、モーちゃん、いま仇を討つからね。
俺は舌の動きが鈍ったタイミングを見計らって、7本全ての舌を両脇に挟む。ガッチリとホールドして話さないようにする。
「かーらーのおおおおお!」
ハンバーガーの魔人のジャイアントスイングだ。エリノアは地面に這いつくばって回避してくれた。スピードが乗ってきたのを確認して、横回転から縦回転へ移行する、後ろから前へ、背負い投げの動きで透明龍(インビジブルドラゴン)を背中から叩きつける。
その巨体も相まって、それ相応の砂埃が舞う。今のは手応えがあった。
「やりましたね!」
アイナ、あかん、それは言っちゃっダメ!
砂煙が消えると、透明龍(インビジブルドラゴン)も姿が消えていた。しまった、あいつがSランクの理由はこれだったのに、俺はなんという悪手を、
「ぐっ! これではやつの位置がわらがない!」
衝撃が走る。見えない舌の攻撃だ。ハンバーガーの魔人が防御してくれなかったら、また意識を失っていただろう。
またジゼルに看破(ファゾム)を掛けて、姿を暴いてもらうか? 否、同じ手は二度通用するとは思えない。ならどうする?
「モーー!」
······今の声は······まさか······。
「モーちゃん······?」
モーちゃんの鳴き声が何度も聞こえる、聞こえる位置が何度も変わる。まさか、モーちゃん、俺たちのために奴の腹の中から位置を知らせてくれているのか?
さすがにそれは都合よく考えすぎか。でも俺はそれ以上にモーちゃんの生存が確認できて嬉しい!
ああ、分かる、分かるぞ奴の居場所が。ありがとう、モーちゃん。
ハンバーガーの魔人が左手だけで見えない舌を掴む。右手に魔力生成した毒針(ポイズンニードル)を振り下ろす。力の入った舌はなかなかの硬度だったが切断できた。
牛タンならぬ龍タンを手に入れた俺はすぐにそれを挟む。そして解析を開始する。
『透明龍(インビジブルドラゴン)から透明化(トランスパレント)を検出、1回使用可能』よし。
「『透明化(トランスパレント)』」
俺の姿が消える。挟んである素材や装備、ハンバーガーの魔人も透明になっている。これは優秀な隠密魔法(ステルスマジック)だ。
「見えないということがどれだけ恐ろしいか教えてやる」
俺はモーちゃんの角を挟む。ズッシリと重く動きにくいが、ハンバーガーの魔人の補助もあり移動することができる。解析開始だ。
『斧牛(アックスブル)から会心(ブローオブ)の一撃(サティスファクション)を検出、1回使用可能』。
俺はモーちゃんの鳴き声を頼りに跳ね上がる。狙うは透明龍(インビジブルドラゴン)の真上だ。高さが足りないので、最大まで跳ねた後に、ハンバーガーの魔人に掴んで投げてもらう。と同時に魂(マテリア)の実体化(ライズソウル)と毒針(ポイズンニードル)が解ける。
モーちゃんの位置を最終確認する。さぁ、モーちゃん一緒に戦おうぜ。自分の姿が消えていると魔法がどのようなものか分からなくなるので俺は龍タンを吐き出して透明化(トランスパレント)を強制的に解除する。
俺は縦に回転しながら魔法を発動させる。
「『会心(ブローオブ)の一撃(サティスファクション)』」
3mはある魔力生成された巨大な斧が俺の口から出現する。俺は凶悪な遠心力のなすがままに、力の奔流を透明龍(インビジブルドラゴン)の背中にぶつける。
衝撃のせいか透明化が解除されて透明龍(インビジブルドラゴン)の姿が現れる。
胴体の中心からブツ切りになっている。能力が解けたのは死んだからか、勝った!
俺は勝利を確信する。そして魔物の素材をすべて使い切ったことによる脱力感に襲われる。落下する俺をエリノアがキャッチしてくれる。
「······薬草を······挟んでください······お願いします」
「少し耐えてほしいにゃ」
「何を······言っているんだ、エリノア、早く具材を······なっ!?」
透明龍(インビジブルドラゴン)の上半身が再び消える。さらに民家の1軒から幻影大鷲(アパリションイーグル)が空に飛び出す。残りの魔物たちも、ゾロゾロと現れる。総力戦、最終決戦だ。
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