現代最強は楽しいハンバーガーに転生しました

三章『ギア編』

第２１１話 メアリー・ロゼリアス１

「ふむ、いい余興だ」

　玉座の間にある、あの立派な玉座に比べれば数段劣るこそすれど、それでも立派な椅子に腰掛けて、魔王龍、ダークネスドラゴンは頬ずえをついて会場を眺めてそう言った。


　ここは工場前にある更地、特設の決闘会場だ。

　メアからの決闘申し込みから翌日、その話を聞きつけた、魔王が見物に来たのだ。

　周りには工場建設に携わった魔物ども３００頭。賑やかし（ギャラリー）としては十分だ。

「前回のギアとセギュラの決闘は見逃してしまったからな。今回はしっかりと絶者候補たちの実力を見せてもらうとしよう」

　魔王は悠然とした態度だ。ホネルトンが俺から見て魔王の右横に立っている。

　それと左側に立っているのは誰だ？ピンク髪の青いメイド服を着た女だ。あの位置からするに、九大天王か？

「おいレイ」

　今回は審判ではなくセコンド役をやっているレイを呼びつける。

「はいなんでしょう！」
「あの魔王の横にいる、いかにも如何わしい飲食店のウェイトレスやってますって格好したアイツは誰だ？」
「······失礼極まってますよ」
「いいから答えろ」
「はいはい、レイの辞書によればあれは、無限のアリス様ですね」
「九大天王か？」
「ご名答、なんだ知ってるんじゃないですかー」
「ホネルトンの反対の位置に立ってるからな。魔王の護衛か」
「それもありますが、それ以上にメアのことでしょう」
「メアのことだと？」

　俺は試合場の反対側でこっちを睨み続けているメアに視線を向ける。

「なにみてんのよ！」
「おい、あのアリス（略すとアリになり蟻と誤解するため略せねぇ）ってのはお前の知り合いか？」
「次、呼び捨てにしたら、試合開始前に攻撃するわよ。アリス様と呼びなさい」
「魔王の前で騒ぎはゴメンだ、で、アリス様とメアの関係は？」
「貴方で言うところのホネルトン様と同じ関係かしら」
「踏み台か」
「親よ！　ホネルトン様を踏み台としか見てなかったの！？」

　親？

「あのアリス様はメアの親ってことか？」
「そうよ、血の繋がりはないけど、親も同然よ！」

　血ではない固い絆で結ばれた家族ってやつか。けっ、血が繋がってる方が手続きが楽だろうが。

「メアリー」
「アリス様！」

　メアは今まで放っていた殺気を完全に消して、俺たちのところに来たアリス様に膝をついて頭を垂れる。

「この戦いに勝利すれば、絶者はメアリー、貴女よ」
「······ッ！　必ず勝ちますわ！」

　アリス様はメアに一声だけかけると、俺の方を向く。

「貴方がホネルトンの子ね」
「血の繋がりはねぇ」
「人間みたいなことを言うのね。私たち魔の者に血なんて関係ないわよ。貴方はホネルトンの魔力を得て産声をあげ、そして名前も貰った、それだけでも十分に寄り添う価値があると思うのだけれど」
「けっ、弱者の戯れ言だな」
「強いのね」

　アリス様は更に俺に近づき、耳元で俺にしか聞こえない声で呟いた。

「メアリーは私が育てていた花が魔物化したもの、花だった頃は、私の魔力を吸って育ち、魔物化した後は名前も与えた」
「それがどうした」
「もしメアリーを殺したら貴方もこの場で殺すわ」

　露骨な脅しか、堪らねぇな。

「踏み躙ってやる」
「本当に強いのね」
「早く出てけ、このあと魔王に工場見学させるんだからよ」

　アリス様は試合場から一歩出て振り向く。その顔は至って普通の、俗に言う美女特有の男どもを虜にする微笑みだ。