新世界VS異世界

黒木シロウ

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一章「四宝組編」

第六話 歌う鮫・後編

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 夕方。

 伝法と戦った廃ビル付近。
 大きな道路の中央に真冬と一花はいる。

 この地域一帯は抗争の影響で廃墟化している。
 車などは一切走っていない。

 イメージとしては、
 首都に居住区や商業区がある。
 近郊には工場がいくつもあるが、それ以外はほぼスラム街化してしまっている。
 それを薄く囲む郊外は魔物が出没する危険地帯だ。

 現在の場所は郊外。特に人が少ない所だ。

「まだ来ないのか?」
「うーん、私たちが早く着きすぎてしまったかもしれませんね」

 ナナを連れているから高速で移動できないのだろうか? 人として扱ってくれているならいいが。
 何を考えているかわからない、あのキザ野郎のことだ、概ねどこかで油を売っているのだろう。

「待つしかないか」
「それじゃ困ります! 私は他にもやることがあるんです!」

 一花は手足をばたつかせて猛抗議をする。
 送り届けたなら帰ればいいのに。ちゃんと仕事をこなしたいんだな。流石プロだ。幹部の鏡だ。真冬は何かしてやれることはないかと考え、思いつく。

「それなら、俺が負けて死んだら手柄やるよ。鮫島はそういう武功とか気にしなさそうだしな」
「うわ! ネガティブですね! けど······それいいですね。お願いします!」

 思ったより喜んでるな。ちょっとショック。

「なんだ賞金でも出るのか?」
「はい、出ますよ。討伐手当が出ます!」

 俺は魔物かよ。

「あ、来たみたいです。『彼』が言っています」

 『彼』ね。隙間から周りを監視しているのか?

「よ! 待たせたな!」

 水葵がナナを連れて現れた。

「ナナ!」

 真冬が叫ぶ。ナナもこちらに気づいた。

「あ! 恩人じゃないか! おーい!」
「おっと待った!」

 水葵は、走り出そうとしたナナの腕を掴み引き戻す。

「うわ! なにをするんだ!」
「ちょっと待ってな、アイツとは話がある。崩紫!」
「んだオラぁ!」

 真冬は怒号を飛ばす。息が荒くなっている。
 実は今回のことで真冬は相当キレている。水葵を見たことによりそれが爆発したのだ。

「落ち着いてください、らしくないですよ」

 一花が見かねて、どうどうと背中を撫でる。

「ああ、そうだな。さっさと解放しろ! キザ野郎!」
「全然落ち着いてない! 何この人!」

 一花は口元に手を当ててショックを受けている。
 手柄云々の話もナナが目に入った瞬間に真冬は忘れている。

「まぁ、そう怒るなよ。逆に感謝してほしいくらいだな。お嬢さんを本部に連れて行っちまってもよかったんだぜ?」

 水葵は片目を瞑りニヒルに笑う。

「ああ?」
「二人とも! たんま!」

 ナナが、割って入る。

「もしかして水葵殿は悪い人なのか?」
「騙してゴメンね」
「マジか! 信じてたのに!」

 「逃げなきゃ!」と。ナナは水葵の腕を振りほどこうとする。

「少し寝ててもらおうか」

 突然、ナナが倒れた。水葵がナナを両手でしっかりと支える。

「てめぇ! 何しやがった!」
「首の裏とお腹を手刀&パンチしたのさ」

 見えなかった。真冬の目には水葵は微動だにしていなかった。

 というか、どっちか一つでよかっただろ! 真冬のボルテージが上がっていく。

「さすが『最速』の鮫島さんですね! まったく見えませんでした」
「ありがとう、リトルガール」

 ナナを置いた水葵は、背中のギターのようなものを取り出し、ギョーンと鳴らす。手には不釣り合いなほど美しい白い鱗のピックが握られている。

「てめぇ!」

 真冬が走り出した。右手に暗緑色の『崩壊』のオーラを纏わせている。
 もう少しで殴れるという瞬間。

「どこを見ている? こっちだぜ、崩紫」

 いつの間にか、水葵は後方約三十メートル離れた所に移動していた。ギターのようなものは背負われており、ナナを抱えている。

 また、見えなかった。いくら何でも速すぎる。

「ホント、正義感が強いのな。でも、お嬢さんに当たったらどうするつもりだい?」
「いいから、殴らせろ。一発殴らねぇと俺の気がすまねぇ」
「どうしようかな? 崩紫の一発は致命傷になりかねない」

 真冬は追撃する。それを水葵はナナを抱えたまま、一瞬にして距離を取りかわす。

「はぁ、崩紫さんってあんなキャラでしたっけ? 十代のころは狂犬といわれていたらしいですが、それは本当のようですね」

 一花は呑気に観戦している。

「崩紫も燃えてることだし、始めようか!」

 水葵はナナを抱えてさらに距離を取った。ナナを置くとギターのようなものを構える。

「何がしてぇんだ?」

 真冬は肩で風を切り歩み寄る。

「崩紫。俺の目的は、生きてる実感を与えてくれる熱い何かを探すことだ」
「熱い何かだと?」
「そうさ、ライブもいい。でもな崩紫」

 水葵のギターのようなものが蠢きだす。中心の空洞部分に一つ目が現れる。短い蜥蜴のような手足も生えてくる。

「戦ってる時が一番燃えるんだぜ!」

 そうギターのようなものは魔物だったのだ。
 水葵は魔物の尻尾の部分を掴み。バットのように構える。

「魔物だったのか、それ」
「一つ目魚という魔物さ。さぁ、熱いバトルを始めよう!」

 そう言うと水葵は姿を消した。
 どこだ。ナナはまだあそこに倒れている。
 と、そこまで考え、真冬は腹部をおそう痛みで考えることができなくなった。

「ごはっ!」
「腹がお留守だぜ」

 水葵は一つ目魚で真冬の腹にフルスイングしていた。衝撃で五メートルほど後退した。

「くっ、オラぁ!」

 真冬は無闇矢鱈に拳を繰り出す。高速スウェーバックでかわされ、かすりもしない。

「こんなものか? 楽しみにしていたのに、あんまりガッカリさせないでくれ!」
「いいから、かわしてないでかかってこいよ」
「そう来なくっちゃな!」

 水葵は高速移動しながら、一つ目魚を打ち込む。

 攻めの水葵、受けの真冬。
 一花は時空蛸に、狭間からティセットと椅子とテーブルを取り出させ、ティタイムを楽しんでいる。

「『最速』の能力は速く動けるただそれだけ。ですが、シンプルだからこそ強いというのは世の常識ですね。こっちの攻撃は避けられ、あっちの攻撃は当たる。崩紫さん勝負になってませんよー!」
「うっるせぇ!」

 真冬は両手で地面を殴り『崩壊』させる。大量の砂煙が舞い上がる。

「なるほど、俺の攻撃に耐え切れず身を隠したってわけかい」

 水葵は音で、一花は『時空蛸』を使い、真冬の現在の位置を探る。

「下か!」

 水葵はバックステップで下がる。今までいた場所の地面が崩れていく。
 真冬は頭だけ出すと「次は当てる」と言い残し、また潜っていった。

「あ、卑怯ですね!」
「面白い!」

 真冬は、土竜のように地面から現れては、奇襲を仕掛ける。
 だが何度か頭を出したときに、モグラ叩きのように殴られてしまう。まったく当たる気配がない。

 しかし、着々と砂場を増やしていく。

「はー、考えましたね。これは凄い」

 足場の殆どか砂場となったのだ。

「ふぅ」

 真冬は砂場から這い上がる。

「どうだ、これで動きにくくなっただろ」
「泥臭い戦法だな、面白い!」

 砂場が広いといっても、テニスコート二つ分程度。場所を変えれば済むことだ。だが水葵は一向に離れようとしない。
 むしろ、おもむろに一つ目魚を背中に担いだ。

「こっちも出し惜しみはしないぜ! 聴かせてやる! 『人魔融合』!」
「ギィ!」

 一つ目魚が鳴くと、青白い光が水葵を包む。
 一人と一匹は細胞レベルで混ざり合い、一つになる。

 光が収まると、水葵の姿は変貌を遂げていた。
 青い鱗に全身を包み、瞳孔は縦に伸びている。
 口は大きく裂けて、ノコギリ状の歯が並ぶ。
 鮫のような尻尾が生え、背中には太い背鰭が生えている。
 腕や脛にも鋭利な鰭が生えている。

 原理は不明だが、それらが服を巻き込み融合している、破れたりは一切していない。

 これが『人魔融合』。

「なんだそれは」
「わあ! 私も見るのは初めてです!」

 一花は興奮気味に言った。

「俺とコイツの信頼関係あってこそなせる人間と魔物の融合だぜ」
「······融合」

 この能力は水葵の能力ではなく、一つ目魚の能力だ。
 他の一つ目魚はこの能力を持っていない、能力者の魔物版というわけだ。

 まるでアイツのようだ。水葵の姿を見て、真冬は、魔人クロジカを思い出す。
 青の魔人がそこにいた。

 パンッ。

「がッ、あ?」

 音速を超えたことを知らせる音がした。
 突如、真冬は全身を駆け巡る激痛に襲われた。至る所から血が噴き出す。堪らず膝をつく。
 一瞬で袋叩きにされたのだ。
 足場の悪さなど関係ないといわんばかりの『最速』。

「見えないほど速いのは同じですが、手数が桁違いのようですね。もう勝負は決しましたか?」
「いや、まだだねリトルガール」
「え、あ!」

 水葵の腕鰭の先が『崩壊』している。

「くッ、いってぇ」
「見えてはいないハズなんだけどね。カンってやつかい?」
「さぁな、もう一回やってみろよ。マグレかもしれない、ぜ?」

 真冬はフラフラと立ち上がる。両手から『崩壊』のオーラが噴き出す。

 わかってきた、キザ野郎の能力が。

「さらに速く、もっと速く。『最速』で行くよ」
「チンタラしてないで掛かってこい」

 パンッ。

「ぐッあぁ」

 またしても真冬から鮮血が噴き上がる。
 そして、同様に水葵の鰭も崩壊が進む。

「意外といい勝負してますね。鮫島さんは『崩壊』のオーラに邪魔をされて致命傷を与えられないようです。一瞬とはいえ、崩紫さんも全く動けないわけではないですからね」

 水葵は、肩まで溢れる『崩壊』のオーラが邪魔をして、重い一撃を繰り出せないのだ。

 それに加え、真冬には上位耐性の『崩壊耐性』がある。
 これは『崩壊』以外にも、打撃、斬撃といった全ての耐性が上がるものなのだ。
 並の人間なら、袋叩きにされた時点で失神している。

 追い詰められているのは水葵も一緒なのである。だが。

「面白い! 刹那の油断が死に繋がる! こんな面白いこと他にあるかい!?」

 興奮気味にそう叫ぶと、ギョーンと腕鰭を白い鱗のピックで引っ掻く。
 腕鰭は三分の一が、ボロボロと崩壊している。
 取っておきの『人魔融合』を早々に使ったのも、一つ目魚が崩壊のオーラに直接晒されるのを防ぐためだろう。

「さぁ、来い。次だ」

 真冬は、ペッと血を吐き捨て、低く唸るように言った。
 血染めの眼光が、水葵を捉えて離さない。

 完全に理解した。キザ野郎の『最速』は零かMAXしかないんだ。それに微調整も効かない。俺以外は知らないが、俺の『崩壊』は手で触れないと発動しない。あとのオーラは防壁でしかない。
 キザ野郎が能力を発動させるタイミングより少し先に拳を打つ。そうすれば向こうが勝手に当たりに来る。次はもっと深く打ち込んでやる!

 ブルりと水葵が震えた。目の覚めるような殺気を感じ取ったのだろう。

「はは! はははは! きょ、曲が降りてきそうだ!」
「てめぇの鎮魂歌でも囁いてろ! キザ野郎!」

 来ないならこっちから行ってやる! 真冬は駆け出す。

「鮫島さん! 避けないと死にますよ!」
「はは! 避ける? そんなもったいないことできるわけがないぜ!」
「どうぅりゃああッ!!」

 水葵は避けない。
 真冬の拳が水葵の顔面にヒットした。と、同時に『崩壊』のオーラが流れ込む。

「ぐぼえっ! ごれだっ! ごれをまっでいだっ!」

 パンッ。

 水葵は腕だけを『最速』にさせる。

 ここから先は、あっという間の出来事だった。
 ただの殴り合い。
 方や『最速』のラッシュ。方や『崩壊』の一撃。

 何度も聞こえる、音速を超えたことを知らせる音。

 『崩壊』に限らず、能力の解除方法は基本、能力者が自らの意思で解除するか、能力者自身が死ぬか、または意識が途絶えることで解除される。

 つまり、先に死んだほうが負けなのだ。

「ぅオラあ!」

 何千発か喰らい、やっと真冬は二発目を水葵の胸に叩き込む。

 鱗が硬ぇ、意識も飛びそうだ······。崩壊の進みが遅く感じやがる。

 刹那の戦いで意識が極限まで引き伸ばされているのだ。
 研ぎ澄まされた意識でも、水葵の『最速』となった腕を捉えることはできない。

「はッははは!」
「ぅウラぁ!」

 三発目。突き抜けるアッパーカット。
 三発目が終わると同時に、ドバっと大量の血液が真冬から噴き出す。
 水葵も顔と胸の崩壊が進み、グラつく。
 胸の鱗が砕け散った。

「これで最後だッ」

 踏み止まった真冬が、トドメの四発目を打ち込む、その瞬間。
 水葵の持っている、白い鱗のピックが輝いた。

「な、なんですか! この光は!」

 一花はあまりの眩しさに手で顔を覆う。輝きはどんどん増していく。
 光が届く前に、時空蛸が一花を触手で絡めとり隙間に引きずり込む。

 光が収まる。と、そこには、
 真冬と水葵が、クロスカウンターの体勢のまま、固まっていた。

 速くもないし、崩れもしない。
 水葵の『最速』が、真冬の『崩壊』が消えている。

 水葵に至っては『人魔融合』すら解けている。一つ目魚は隣で気絶している。

「な、なんだ?」
「は、はは」
「何をした!」
「伯龍のじいさんからもらった鱗か、ただのピックかと思っていたが、『無効』の能力もついてたってわけか」

 水葵が握る白い鱗は粉となり消えた。

「伯龍の······だと!?」

 四宝組の先代、伯龍の能力は『無効』。光を浴びた者の能力を一時的に消し去るものだった。

「なんでお前がそれを」

 真冬は水葵の襟を掴み持ち上げる。

「いたた、もらったって言っただろ? 前にピックを無くしたって言ったら、一枚抜いてくれたんだぜ」
「······そうか」

 伯龍はそういう人だ。真冬は納得した。

「今の光は先代の『無効』の光ですか?』

 狭間から出てきた一花が尋ねる。

「そうだよ、リトルガール」
「へぇ、じゃあ、今は二人とも能力が使えない状態なんですね」

 ハッと二人は顔を見合わせる。
 互いにボロボロだ。真冬は両腕に傷は少ないが頭と胴体に傷が集中している。
 水葵は崩壊が解除されたとは言え、内部のダメージが大きい。

 あと、数秒殴りあってたら二人とも死んでいたかもしれない。

「崩紫!」
「なんだよ」
「どうする?」
「どうするったって······」

 喧嘩していたら水を差された。昔はよくあったなと真冬は思い出す。
 伯龍がいた頃も、仲間と考え方の違いから殴り合いの喧嘩をしたものだ、あの光で何度止められたことか。

「やめだ、あの光をみたら戦意もなくなった。それでもやりたいってんなら話は別だがな」
「俺もだ。歌いたくなってきた」
「はい、殺し合いは終わりですねー。それで、あの子はどうするんですか?」

 一花がまだ倒れているナナを指差す。

「連れてけよ、崩紫」
「あ? なんだ、潔いいな」
「連れて行こうにもこの腕じゃな」

 負担の掛かる『人魔融合』、それに『崩壊』で蓄積したダメージ。服の上から見えこそはしないが、手から滴る血の量を見れば傷の度合いがよくわかった。

「そうか、じゃあ連れてくーー」

 そのとき悪寒が走った。真冬は一花のほうを反射的に見る。

「あはは」

 一花は不敵に笑う。

 右耳の後ろにつけてあった、半分しかない骨の仮面を、今は顔の右半分を隠すようにつけている。
 仮面越しの右目は赤く大きく見える。一花の戦闘態勢である。

「闇園······」

 そうだ、まだ闇園がいた。どうする、この体でやるしかないか。真冬が覚悟を決めて拳を構える。

「待った」
「鮫島さん?」

 鮫島が二人の間に割って入る。

「リトルガール、君の仕事は瀕死の俺を連れていくことさ」
「はい? うーん」

 一花は腕を組み真剣に悩んでいる。

「よし、キザ野郎をもっと痛めつけてやる」

 一分一秒を争うほどの重体にしてやる。真冬は、そう張り切っているが、水葵は十分に重体だった。

「わかった、やってくれ崩紫」

 なぜか、水葵もそれにノり、両腕を広げている。

「鮫島さん何言ってるんですか! さっきまで殺し合っていたじゃないですか」
「なんでだろうな、俺にもわからないぜ」
「あーもう、わかりましたよ。鮫島さんを連れていきますから、崩紫さんは、その子を連れてどっか行ってください」


 こうして真冬はナナを救い直すことに成功したのであった。




______




 空間の隙間、その内部。
 暗い隙間の中を時空蛸が高速で移動している。

 先頭の触手の上に立っている一花は、進む先をランタンで照らしている。

「······ター······るぅ」

 後方から声がする。一花は呆れ顔で見る。水葵が触手に寝そべって歌を口ずさんでいるのだ。一つ目魚は胸に乗せてある。

「はぁ、歌うのは勝手ですけど、体に障りますよ?」

 一花は、ため息をつき。ジト目で言う。

「······は、こんなのかすり傷だぜ······」
「強がりはよして寝ててください」
「なぁ······ペンと紙持ってないか?」
「ありますけど」

 一花は素直に渡した。

「曲ができそう、なんだ」
「バカヤロウですねー。本当に死にますよ?」
「俺が死んだら、遺作として取っておいてくれ」
「なんだか崩紫さんのようなことを言いますね」

 水葵は血を飛ばしながら笑う。心底楽しそうだ。

「一つだけ疑問が」
「んん? 喋らない方がよかったんじゃないのかい?」

 水葵は片目を瞑りニヒルに笑う。

「どっちみち喋るでしょうに、イジワルしないでください」
「すまないリトルガール、なんでも聞いておくれ」
「なぜ心臓を刃物で一突きとか、そういうことをしなかったんですか?」

 水葵は、あーっと、バツの悪そうな顔をしている。

「それ以外にも『最速』をもってすれば、もっと上手く立ち回れたはずです」
「面白くないから」
「はい? それだけですか?」
「それだけだよ、つまらないからだ。こんな能力を持っていると一瞬でケリがついてしまう」
「とんだバカヤロウですよ、貴方は」
「ま、いいさ。って、思いついた曲を忘れてしまったじゃないか! 話しかけないでくれ!」
「こいつ振り落としてやろうかな」

 一花が低い口調で言う。もう話す事は無いと言わんばかりに進行方向を凝視する。

「崩紫、生きてればまた熱いバトルができるな」

 ギョーーン、と。水葵はギターのような魔物を鳴らした。




______




 二人が消えた直後、真冬はその場に倒れた。
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