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第一章
大切な物
しおりを挟む「暗くなってきましたし、そろそろ帰りましょうか」
シル達と別れた後、辺りは薄暗くなってきている事に気づく。そろそろ帰らなければ、リゼも心配するだろうとアスフレッドは思った。
「アスフレッドさん、今日はありがとうございました。」
「いえいえ。私も楽しかったですよ。」
ルミエールは、街を自由に見て回れた事がとても楽しかった。ルミエールが楽しそうに微笑んでいるのを見て、アスフレッドも笑みがこぼれる。
(そういえば、朝にアスフレッドが「お昼に、お仕事に行かなくてはいけない」と、話していた様な……。シル達と話していて、すっかり忘れていたわ!!)
「アスフレッドさん! お仕事は大丈夫なんですか!?」
「え? ハハハッ。忘れてましたね。まぁ、大丈夫でしょう……」
「……全然、大丈夫では無いですが??」
アスフレッドがそう言ったと同時に、アスフレッドの肩を怒った様な表情をしながら一人の女性が掴んでいた。
女性には、触り心地の良さそうな耳と。怒っているからか、長い尻尾がピンっと立っている。
「痛い痛い! リー! 力強すぎます!!」
「……私、お昼までに来て下さいと言いましたよね? ちゃんと、伝えましたよね?」
アスフレッドの肩を、強い力で掴んでいるこの女性はリー・ヤンヌ。アスフレッドの、秘書をしている猫の獣人だ。
リーが怒っているのを見て、ルミエールは焦った様な表情で二人の間に入る。
「リーさん! アスフレッドさんに、街を案内して貰ってたんです!」
「だから、怒らないであげて欲しい……。引き留めてしまっていたのは、私だから。」と言うと、リーはニコリッと此方を見て微笑んだ。
「ルミエールちゃん大丈夫ですよ? 街を案内してる事については、怒ってないんです。だって、ルミエールちゃん初めて王都に来たんですから。」
(え? その事について、怒っているんじゃないのかしら??)
何について怒っているのか分からず、ルミエールは不思議そうに首を傾げる。
アスフレッドは「またか。」と、言う表情でリーを見ている。
「ただ! この人が会議に来れないと言うことを連絡せずに、ルミエールちゃんと出掛けているなんて……。連絡手段があるんだから、連絡して下さい! 後、ルミエールちゃんとお出掛けとか羨ましい!!」
「連絡しなかったのは、謝るよ。でも、ルミエールちゃんとのお出掛けは誰にも譲れないよ。」
この二人は何故か、いつも言い争いをしていた。子供達と何処かに一緒に出掛けるとなったら、どちらが一緒に行くかを言い争い。誰かのお誕生日があると、プレゼントで競いあい。お菓子を作り、渡すと二人で奪い合うのだ。
二人とも、ルミエールや教会にいた子達を凄く可愛がってくれていた。二人が教会にくると、いつもの事だから呆れて笑っていた。いつも、シスターや教会に居た子達も二人を見て、よく呆れてたのだ。
「ルミエールちゃん。次は、私とお出掛けしましょうね?」
「はい! リーさんとお出掛けするの、楽しみにしています」
そう言うと、リーのしっぽは嬉しそうに揺れている。
リーが、二年前に教会に来てくれた時にお出かけしたから。一緒にお出かけするのは、ルミエールは久しぶりだった。
リーはいつも、可愛い雑貨や服が売っているお店を知っているから、一緒にお出かけするのが楽しいのだ。
アスフレッドは、美味しいお菓子や食べ物を売っている所に詳しい。
「ふふっ。嬉しいわ。……あら? ルミエールちゃんが着けているそのネックレス……。」
(ネックレス? あぁ、そうか。リーさんやアスフレッドさんは、このネックレスを見るの初めてだっけ?)
いつも首元がしまっている服を着ているから、このネックレスは見えない。ネックレスには黄色の石がついている。この石は、見方によっては虹色に見える不思議な石なのだ。
シスターが、ルミエールを発見した時には手に持っていたらしい。その事を、二人に説明する。リーやアスフレッドは、その石を見て。何かを思い出そうとしていた。
「あぁ! 思い出しました!! 番がいる竜人や獣人には、馴染みが無かったので忘れてましたよ!」
「もしかして、前に行ったエルフ達が持っていたやつかい?」
「はい。これは、防御や気配遮断などの効果がある石ですね。私達が持つと、番の気配が分からなくなってしまうので。竜人や獣人の間では、出回ってないんですよ。まぁ、魔力が高いブラン様や獣王様には効かないと思いますが。でも、竜人であるルミエールちゃんが持っているなんて不思議ですね~」
「確かに。下手したら、ルミエールちゃんの番が見つからなくなってしまうね……。でも、何か考えがあってルミエールちゃんのご両親が、持たしたかもしれないからね。大事に持っときなさい」
「……はい。」
ルミエールは、これがそんなに珍しい石とは知らなかった。
(……顔も知らない両親が残してくれた石。両親と繋がりがあるのはこれしかないから、大切にしないと……。)
そんな事を思いながら、首から下げていた石を握りしめた。
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