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1~10話
ブドウ味のブドウ【中】
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………………
「もう…………しばらくブドウは見たくない……」
どうにか最後の一口を口に押し込み、残った皮を皿に置いてぐったりと倒れ込んだ。
種を除いても、大きな丼二杯分くらいの量があったのだ。
ずーっと味の変わらない、ブドウ味のブドウが!
「いくら美味しくても、この量は無理……うっぷ」
残すのは勿体ないからとなんとか完食したものの、口の中が甘ったるい。お腹が苦しい。しばらくは夢にまでブドウを見そうだ。
――あ、今まさに見ているのか。
それにしても、ブドウの汁で服も手も口まわりもすっかりベタベタになってしまった。
ポケットに入れていたトイレッ……ハンカチもどきで拭ってみたけれど、ハンカチもどきまでベタベタになっただけだった。
「はーぁ、お風呂入りたいなぁー」
大の字になって、遥か高くの天井を見上げる。
強く念じてみても願望が実現しないことは学習したので、もう試すつもりはないけれど。
だらだらと食後の休憩をとっていると、突然大きな物音が響いた。
ガチャッ
「!!!」
『部屋』のドアの開く音に、迷う暇もなくローテーブルから飛び降りる。
ローテーブルの高さは二階のベランダ程度で、下にはふかふかの絨毯。
華麗な着地とまではいかなかったけれど、これといった衝撃もなく無事に床に降り立つと、転がるようにローテーブルの脚の陰に身を隠した。
ドックン、ドックン、ドックン
騒ぎ立てる鼓動がうるさい。
こんなに大きな音を立てていては、家主にまで聞こえてしまいそうだ。
床を通じて、ずん、ずん、と家主の歩く震動が伝わってくる。
不意に止まった足音に恐る恐る様子を窺えば、鬼のような形相をした家主がじっとこちらを見下ろしていた。
「!?」
一瞬私のことを見ているのかと思ったけれど……家主の視線はどうやら、二人の間にあるローテーブルに注がれているらしい。
……あっ! ブドウの皮!!
皿の上によけた皮をそのまま置いてきてしまった!
これでは、何者かが勝手にブドウを盗み食いしていたことがバレバレだ。
まずい、まずい、まずい、どうしよう、どうすればいい!?
家主が、ローテーブルに向かって手をかざす。
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