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1~10話
おさわりには制限時間を設けましょう【下】
しおりを挟むつんつん
ふにふに
「小さい……、やわらかい……」
………………
なでなで
すりすり
「可愛さには上限がないのか……?」
………………
…………
……
「あのー、まだですかね……」
頭を撫でまわされてぐらぐらと首を揺らしながら、いい加減げんなりとした声が出る。
「すまない、もう少しだけ」
この答えを聞くのも、もう何度目になるだろう。
誰だ、「いくらでもどうぞ」なんて言ったのは。
触れ方は優しく紳士的だけれど、ずっと触られている頭と顔と腕に関しては、たぶん一回りすり減った。
この分では消えてなくなるのも時間の問題である。
だらんと下げた手のひらをすくい取られ、大きな指先と握手握手。
「こんなに小さくてどうして動けるんだ……」
さあねぇ……。
クロの四本指を背にして座椅子のようにもたれかかった私は、遠い目をして飽くなき触れ合いの終わりを待つのだった。
ようやく撫でるのをやめたらしいクロの指先が、たすき掛けにしたリボンの裾をちょんとつつく。
「これはプレゼントの包みに使っていたものだろう。身につけるほど気に入ってくれたのか?」
「え? あー、えーと……」
リボンを握りしめ、後ろめたさに視線を泳がせる。
ちらりと至近にあるクロの顔を見れば、表情は険しくともその瞳の穏やかなことがよくわかる。
疑われるより、信じられるほうが辛いこともあるもので……。
「う……、その……これでフルーツを背負って、ドールハウスまで持ち帰るつもりだったんです……。すみません……」
まさに犯行計画の自供である。
なんでも食べていいと言ってくれた心優しいクロに対し、盗難を企てていた自分。
なんて酷い対比だ。
私はもう申し開きの言葉もなく、ガックリと項垂れて両手首を差し出した。
「? 何をしているんだ?」
「どうぞ、縄でも手錠でも……」
さすがに私サイズの手錠はないかもしれないけれど、毛糸の一本でもあれば十分縄代わりになるだろう。
ああ、いっそこのリボンを使ってくれたっていい。
呆気に取られたように目を瞬いたクロは、おかしそうに口端を上げ……てないかも。気のせいかも。
「ヒナを捕らえて手元に置けるというのは魅力的な申し出だが、あいにくこちらが礼をしたい立場なのでな」
私だってそんな申し出をした覚えはないのだけど!?
「そんなにフルーツを気に入ったのなら、ヒナ用にも盛り合わせを用意しよう」
専用のフルーツ! ――いやしかし、今の私にはフルーツよりも切実に欲しているものがある。
このチャンスを逃せば、もう手に入らないかもしれない……。
「……あのっ! 図々しいお願いをしてもいいですか!?」
「なんでも言ってくれ」
「お、お水を一杯いただきたいです……っ!」
寝起きから、喉が渇いて渇いて辛い! もう耐えられないっ!!
「――ああ、あのドールハウスは水が出ないんだったな」
こくこくと頷く。
明かりも火もつくのに、水だけは出ないのだ。
「下水道の設置が困難でやめてしまったんだ。水だけ出ても、流れる先がなくてはどうしようもないから――と、そんなことより水だったな。隣の部屋にあるんだが、一緒に行くか?」
「! 行きます! 行ってみたいです!!」
前のめりになってぶんぶんと頷く。
この夢の空間はどうやら、この部屋より外側にも広がっているようだ。
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