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1~10話

おさわりには制限時間を設けましょう【上】

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「……ヒナ。そうして魔力を吸収してくれるのはありがたいが、あまり無茶はしないでくれ」

「吸収?」

 クロの言葉に首を傾げる。

「ああ。先ほどからずっと俺の魔力を吸い取ってくれているだろう? による痛苦が解消されて、俺は楽になるが――――もしや無意識か?」

 ハテナを浮かべながら呆けていると、クロにもが伝わったらしい。

「えーと……はい、たぶん」

 今現在何もしている意識はないので、何かしているというなら無意識なのだろう。

「体内になんらかの違和を感じるはずだ。――今もほら。手のひらに触れた部分から、熱を散らす大気のように、閉ざされた部屋の戸を開け放つように、ずっと魔力を吸収し続けてくれている」

「うーん……?」

 心配そうに近づけられた指先に、手を伸ばしてペタリと触れてみる。
 触れた手のひらからもドクドクと、いつも通り心地よい『ぬるま湯』の流れ込む感覚。

「あっ、が魔力?」

「ああ、おそらく。いくら魔力干渉を受けない存在だといっても、他者の魔力を取り込むのは相当な負荷だろう。制御できるのなら吸収を絶ったほうがいい」

「え? でも私が『吸収』をやめたら、クロはまた苦しくなっちゃうんですよね?」

「俺はもう慣れている」

 ……それは嘘だと思う。
 あんなに苦しげにうなされて、私が触れた途端ほっとしたように安らかな寝息を立てはじめるくせに。

 侵入者で窃盗犯の怪しい妖精もどきなんて、もっと自分に都合よく利用してしまえばいいものを。
 よくわからないけれど、痛苦を伴うという『魔力抑制』だって、周囲の人に魔力干渉とやらをしないためにやっているのではないだろうか。
 あまりにも自己犠牲的すぎて心配になってきた。

「やめ方もわからないし……それに、大丈夫ですよ! 全然嫌な感じはしないです! むしろ、ぬるめの温泉みたいで気持ちいいくらい」

 大きな指先に頬をすり寄せる。
 ……うん。温かくて穏やかで、不快感や身体に害を及ぼされそうな感覚なんて微塵もない。

「そんなにも親和性が高いのか?」

 壊れ物にでも触れるかのようにそろそろと頬を撫でられて、くすぐったさに目を細める。
 そんなに不安そうな顔をしなくても、私はなんともないから安心してほしい。

「……もう少し触れていてもいいだろうか?」

「ふふっ、いくらでもどうぞ」
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