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11~20話
『ノー』と言えるお腹【下】
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……コンコンコンコン
「ヒナ、そこにいるか?」
律儀にも、ドールハウスの玄関の方からノックの音がする。
今いる部屋には窓があるので、クロが外から覗き込めばすぐに私の所在が確認できるだろう。
玄関扉にももちろん鍵などついていないし、そもそもこのドールハウス自体クロの所有物なのだから、勝手に扉を開けたところで誰に責められるものでもない。
それなのに、わざわざノックをしてこちらからの返答を待っていてくれるクロの、なんと紳士的なことか。
「今行きまーす!」
パタパタと階段を駆け下りてガパッと玄関扉を開けると、屈むように顔を寄せるクロと目が合った。
「お待たせしました! 休憩時間ですか?」
執務室に戻ってからまだあまり経っていないけれど、先ほどは仮眠をとれずじまいだったので、改めて寝に来たのだろうか?
「いや、昼食の誘いに来たんだ。よければ一緒に食べないか?」
「お昼ごはん……」
お腹に手を当てて聞いてみる。
朝、置いてあったプレゼントにはしゃいでサラミやチーズをしこたま食べた。
先ほども、紅茶との食べ合わせが気に入って勧められるままにクッキーをたらふく食べた。
よって、お腹からの答えは『ノー』だ。
「すみません……。すごくすごーくご一緒したいんですが、今はお腹いっぱいで……」
こんなことなら、クッキーを食べるのをセーブしておくんだった……。
数日ぶりのまともな食事を逃す羽目になったことに、答えながらもしおしおと萎れていく。
「そうか。では夕食ならどうだろう?」
「! いいんですか!?」
「他の者にはヒナの存在を知らせていないため、俺の皿から取り分ける形になってしまうが……それでもよければ」
「いいですいいです! やったぁー!」
「――――」
喜びにぴょんぴょんと跳ねていると、クロの指が無言で撫でくりまわしてきた。
なでなで、さすさす、ふにふに、くりくり……
「――はっ! すまないヒナ。触れる許可をもらっても……?」
「……いいれふけろ」
太い二本指にむにゅりと両頬を寄せられたまま、思わず遠い目をしてしまったのは不可抗力である。
「ヒナ、そこにいるか?」
律儀にも、ドールハウスの玄関の方からノックの音がする。
今いる部屋には窓があるので、クロが外から覗き込めばすぐに私の所在が確認できるだろう。
玄関扉にももちろん鍵などついていないし、そもそもこのドールハウス自体クロの所有物なのだから、勝手に扉を開けたところで誰に責められるものでもない。
それなのに、わざわざノックをしてこちらからの返答を待っていてくれるクロの、なんと紳士的なことか。
「今行きまーす!」
パタパタと階段を駆け下りてガパッと玄関扉を開けると、屈むように顔を寄せるクロと目が合った。
「お待たせしました! 休憩時間ですか?」
執務室に戻ってからまだあまり経っていないけれど、先ほどは仮眠をとれずじまいだったので、改めて寝に来たのだろうか?
「いや、昼食の誘いに来たんだ。よければ一緒に食べないか?」
「お昼ごはん……」
お腹に手を当てて聞いてみる。
朝、置いてあったプレゼントにはしゃいでサラミやチーズをしこたま食べた。
先ほども、紅茶との食べ合わせが気に入って勧められるままにクッキーをたらふく食べた。
よって、お腹からの答えは『ノー』だ。
「すみません……。すごくすごーくご一緒したいんですが、今はお腹いっぱいで……」
こんなことなら、クッキーを食べるのをセーブしておくんだった……。
数日ぶりのまともな食事を逃す羽目になったことに、答えながらもしおしおと萎れていく。
「そうか。では夕食ならどうだろう?」
「! いいんですか!?」
「他の者にはヒナの存在を知らせていないため、俺の皿から取り分ける形になってしまうが……それでもよければ」
「いいですいいです! やったぁー!」
「――――」
喜びにぴょんぴょんと跳ねていると、クロの指が無言で撫でくりまわしてきた。
なでなで、さすさす、ふにふに、くりくり……
「――はっ! すまないヒナ。触れる許可をもらっても……?」
「……いいれふけろ」
太い二本指にむにゅりと両頬を寄せられたまま、思わず遠い目をしてしまったのは不可抗力である。
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