ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

南田 此仁

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21~30話

苦労人は突然に【中】

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「あ、あのっ! 今まで用意していただいた服やトイレなんかは全部私のせいなんです! ヤシュームさんには大変ご迷惑おかけしてしまって申し訳ありません!! それから『妖精』の話ですけど、私は別に妖精――」

「生きてる!!!?」

 クールな見た目とは裏腹に感情表現豊かなヤシュームは、弾かれたように後ずさって寝室の扉にビタンと貼りついた。

「そっ、その、それ……」

「『それ』ではない。『ヒナ』だ」

「ヒっ、ヒナ様は生きていらっしゃるのですか!?」

「……まあ、はい。一応」

 生きてますよーのアピールに、ぐるぐると両腕を回してみる。

「幻影魔法ではなく……?」

「城内でその手の魔法が使えないことは知っているだろう」

「…………」

 ヤシュームはずり落ちたメガネを直すと、恐る恐るこちらに顔を近づけた。

「本当に生きてる……」

 先ほどから生きてる生きてる言われるものだからちょっと不安になってきて、こっそりと自分の胸に手を当てる。

 トク、トク、トク……

 よかった、ちゃんと生きてた。




 クロは私を手のひらに乗せたままベッドに腰かけ、ヤシュームはベッドサイドの椅子の上で、どうにかクロの説明を飲み込もうと唸っていた。

「突然『例の部屋』に……」

「ああ。一切の魔力を持たず、俺への害意もない」

 「そのうえこんなに可愛い」というクロの言葉に反応を返す者はいない。

「しかし、いくらなんでも就寝時までお側に置くというのは……」

 ヤシュームは懸念するような、腑に落ちないような、複雑な表情を浮かべて言った。

 突然現れた得体の知れない存在に対して、こちらのほうが自然な反応だろう。クロがあっさりと何もかも受け入れすぎなのだ。
 それにヤシュームのこれは、クロの身を案じているからこそだとわかる。

「ヤシューム。先ほどから長らく俺と話しているが、魔力酔いはどうだ?」

「そういえば……? 不思議とまだ、魔力酔いが起こりませんね」

 ヤシュームは己の状態を確かめるかのように胸に手を当てたあと、じとりとした眼差しをクロに向けた。

「まさか、療養期間中だというのに多量の魔力を消費されたのですか?」

「そう早合点するな。ヒナが俺の魔力をしてくれているんだ」

「吸収……?」

 メガネの奥の濃紺の瞳が、真っ直ぐに私を見据える。

「えっと、肌に触れると魔力を吸収してしまうみたいで……」

 こうして話している現在も、クロの手のひらの上で絶賛魔力吸収中である。
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