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31~40話

その姿を求めて《クロ視点》【中】

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 小さく可愛いものは好きだ。
 動物でも、ぬいぐるみでも、人形でも。
 自分とは何もかもが違う。か弱さに庇護欲をそそられ、愛されるために存在しているのだと体現するかのような可愛らしい見た目に心惹かれる。

 突如として現れたその少女は、類を見ない愛らしさと現れた場所の特異性から、神の遣わした存在だと思った。

 吸い込まれそうなほど澄んだ黒曜石の瞳は、恐れも媚びの色もなく、ただありのままの俺を映す。
 その手に触れられれば、風の通り抜けるような解放感と味わったことのない安らぎを与えられる。

 ほんの少し力を込めれば手折れてしまいそうなほど小さく華奢な身体をした少女は、そのか弱い見た目に反して芯が強く、守られるどころか出逢って間もない俺の痛苦を心配し、助けになりたいと言ってくれた。

 小さく可愛いものは好きだ。
 しかし美しくももろいガラス細工に、本気の愛を注ぐことはない。
 比類なき輝きと鉱物の強さを誇る宝石のような美しさにこそ、心置きなく愛のすべてを注げるのだ。

 その愛するヒナが、消えた。




 万が一を考え、床に目を配りながら足早に廊下を進む。

 魔力干渉防止のため近辺に護衛はつけていないが、部屋に通ずる廊下の端々に衛兵を置いている。
 衛兵の巡回する庭に面した外壁を這い登って窓から侵入するのでもない限り、不審者が廊下の衛兵に見つからず執務室に到達することは難しい。

 ヒナ一人では部屋の重厚な扉は開けられないし、隠し部屋にも入れない。
 現れたときと同様に突然出ていったのだという可能性からは、意図的に目をらす。
 ならば、考えられる可能性は一つ。

 魔術師棟の方向へと歩を進め、廊下の先に衛兵を認める。

「ミディルアードがここを通らなかったか」

「はっ! 四半刻ほど前にこちらを通過し、魔術師棟の方角へと向かわれました!」

 温室から研究室のある魔術師棟へ向かうのであれば、わざわざ遠回りしてまでこの廊下を通る意味はない。
 予感が確信へと変わる。

「ご苦労」

 足先が、強く床を蹴った。
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