ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

南田 此仁

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41~50話

よろしくお願いします【上】 ※

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 歯列を割って侵入した舌が、探るようにそろそろと上あごを撫でてくすぐったい。
 様子をうかがいながら奥へ奥へと入り込んだ舌は、とうとう奥で縮こまっていた私の舌先に触れた。

 ねだるようにちょんちょんと突つかれて、恐る恐る舌を差し出す。
 すぐさまにゅるりと絡めとられ、擦り上げられれば、濡れた粘膜同士が擦れる未知の感覚にゾクゾクと痺れが走った。

「んっ……」

 息をしようとしただけなのに、鼻にかかった吐息が洩れる。

 こんなの知らない。
 触れているのは口なのに、心ごと甘く包み込まれるような、身体の奥がむずむずしてくるような、こんな感覚。

 咄嗟に身体を引こうとすれば、腰を抱く腕に力が籠もり、うなじまでしっかりと支えられて逃げ場を失う。

「んん……っ」

 クロの胸に置いた手で、すがるようにぎゅっとシャツを握りしめる。

 一つ一つ確かめるように口腔をなぞり、最後に濡れた唇をひと舐めしてから、唇が離れた。

「――っぷはぁ」

「っは……ヒナは甘いな」

「あまい……?」

「ああ、癖になりそうだ」

 呼吸も整いきらないうちに、再び乱れた呼吸ごと呑み込まれる。


 渇きに水を求めるかのようにもっともっととむさぼられ、ようやく解放されたときにはすっかりと息が上がっていた。

「っは……、はぁ、はぁっ……」

 荒く息をつきながら、何も考えられずにぼんやりと離れていく唇を見つめる。
 その下で、ゴクリと喉仏が上下した。

「ヒナ……。心も身体も、時間ごとヒナのすべてが欲しい」

 冬空のようなアイスブルーの瞳が抑えきれない熱に揺らめく。
 湧き上がる衝動を必死に押しとどめているような余裕のなさが、どうしようもなく愛おしく思えてしまうのだから、私も大概重症である。

「…………クロのもくれるなら、いいですよ」

「お安い御用だ」

 私を腕に抱いたまま、クロがすっくと立ち上がった。





 ギシ、と僅かな音を立ててマットレスが沈む。

 照明を遮るように覆い被さられ、仰向けに寝そべった身体に大きな影が落ちる。
 背面にはベッド、正面にはクロ。顔の左右に手をついて見下ろされれば、クロのおりとらわれてしまったかのような錯覚を覚えた。

「――身体の調子はどうだ?」

 いつもとは違うアングルから見上げるクロの姿に、ドキドキと胸が高鳴る。

 きっと、私が少しでも不調を訴えたならクロは止まってくれるだろう。
 けれど――

「痛みも違和感もなくて、元気いっぱい……です……」

 ミディルアードが配合したと言っていた治癒薬の効果だろうか。
 ブラック企業勤めのせいで芯までこびりついていた肩こりも綺麗さっぱりなくなって、今日への不安でなかなか寝つけなかったことによる睡眠不足の気だるさまで消えた。
 今なら短距離走の自己ベストを更新できそうなほど、ちょっと恨めしいくらいに快調である。
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