ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

南田 此仁

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51~最終話

一にレッスン、二にレッスン【中】

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「高いヒールを履いてこそ、すらりと美しいシルエットが完成するのです。――しかしながら、そうですわね。今は急場しのぎでも体裁を取り繕うことが先決。今回に限っては、ヒールが低く動きやすさを重視した履物にするのがよろしいでしょう。ドレスも極力足の動きを妨げないデザインのものを」

 先生が視線を投げかければ、ヤシュームは心得たとばかりに頷いてサラサラとメモを取った。

 現在このレッスン室にいるのは、私と、マナーの先生と、お守り役のヤシューム、それに甲冑姿の護衛騎士が扉の側に二人。
 私のことは婚約発表のときに大々的に知らせたいとのクロの意向で、外から見えないようレッスン室のカーテンは閉めきられている。

 私はレッスン用のヒールから、クロに貰った普段履きの靴へと履き替えて先生の元に戻った。

「さて、そろそろ殿方と踊ってみましょう。わたくし相手より実際のも掴みやすいでしょうから。――ではトルズ様、お願いいたします」

「私ですか!?」

 突然白羽の矢を立てられたヤシュームがすっとんきょうな声を上げた。

「他にどなたか適任がいらして? まさか騎士のお二人に、護衛任務を放棄して踊れとでもおっしゃるのかしら?」

「いえ……、そんなつもりでは……」

 早々に舌戦ぜっせんの敗北を悟ったヤシュームが、メモを懐にしまいながらとぼとぼと私の前に立つ。

「あの、付き合わせちゃってすみません! 今日は手袋をしてるので、魔力吸収については安心してください」

 不慮の接触による魔力吸収を防ぐため、ダンスに限らずレッスン中は常に手袋を着けている。
 先生にもその辺りの事情は伝わっているようだけれど、手のひらから魔法を発動するこの国においては元々、魔法の濫用を防ぐため式典における手袋の着用が義務づけられているとのこと。
 例外は、結界に魔力を注ぐ役割を持つ王様ただ一人。

 安心させようと手袋の両手をかざしてみてもヤシュームの憂い顔は晴れない。

「問題はそれだけでは……」

「?」

 パンパンッ、と手を打つ音が響く。

「はい、ホールド!」

 先生のかけ声に、反射的に口をつぐんでピシッと背筋を伸ばす。
 ヤシュームも、弱ったような顔をしつつも慣れた動作でホールドの姿勢をとった。
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