ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

南田 此仁

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51~最終話

犯人の退場【下】

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「……これはこれは。使用人のしつけが行き届いておらず、たいへんなご無礼をいたしました」

「なに謙遜することはない、実によく躾られているぞ。あの家令に口を割らせるのは苦労しそうだ。――だが、行商人の口を塞ぎきるのは難しかったようだな」

「…………」

「隠しだてすれば王太子暗殺計画の共犯とみなす、と脅せばすぐに吐いた。我が婚約者へ贈られたは、卿が直々に買い入れたそうじゃないか」

 うん? 花なんて贈られた覚えはないけれど……??

「……はて。わたくしめが花を買い求めたとて、それがどうして婚約者殿に贈られたものだと断定できましょう」

「コカリスの花は生育環境によって僅かに花弁の色を変える。今回のほのかに青味がかった紅色の花弁は、温暖な土地で育ったものの特徴だそうだ。事件近辺で、南方からやってきたコカリスを扱う商人は一人」

 『コカリス!?』と見物人から小さく悲鳴が上がる。
 どんな花だろう? もしかして、毎日クロの部屋の花瓶に活けられていた花のうちのどれかが、私宛の贈り物だったのだろうか?

「…………」

「過去の暗殺未遂事件についても再調査を進めている。今に別件の証拠も挙がるだろう」

「…………なぜ」

 宰相は奥歯を噛みしめ、ギリ……ときしむような不快な音が鳴った。

「仕事の手腕は高く買っていたのだ。政敵である俺を狙うに留めておけばよかったものを、貴公はなんの罪もない我が婚約者の命までも狙った。――守るべき『民』の命を軽視するものに、国政は務まらぬ」

「――っはは。注意を逸らすための一手が逆鱗に触れてしまうとは」

その呟きは、自分の犯行を認める発言に他ならない。

「バーグ卿を北塔に連れていけ」

二人の騎士に囲まれ、宰相は静かにその場を辞した。


「……みな、この場で見聞きしたことは他言無用である」

 クロの言葉に見物人たちは口々に了承の意を返すと、己に飛び火するのを恐れるようにそそくさとその場を離れていく。

 あとには、数人の護衛騎士と、呆然と立ち尽くす私だけが残された。
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