ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

51～最終話

【最終話】この世界で手に入れたもの【下】

　ようやく拍手が収まってくると、クロがこちらを向いた。

「ヒナ、ここへ」

　いよいよだ。
　大丈夫。紹介は全部クロがしてくれるし、私は微笑みを浮かべて姿勢よく立っていればいいだけ。
　サラッと紹介されたあとは舞台端で大人しくしていよう。

　クロの待つ壇上へ向け、幅広の階段を上る。
　いつしか拍手はやんで、広いホールには私の足音だけが響いている。


　――いきなりこの世界に放り出され、自分の置かれた状況に涙した日もあった。
　小さなサイズのせいで大変な目にもあったけれど、それ以上に楽しいこともたくさんあった。

　クロの隣がなによりも安心できる場所になったのはいつからだったろう。
　クロはいつだって私を想い、助けてくれて。気が付けば、もうクロのいない世界なんて考えられなくなっていた。

　穏やかで、温かな、愛に満ちた優しい人。
　それはきっとこれからも、永遠に変わることなく。


　最後の一段に足をかけ、差し出されたクロの手をとると、そのままグンッと引かれて視界が浮き上がった。

「えっっっ！？」

　咄嗟にしがみつけば、先ほどまでフロアから見上げていた豪華な王冠が目の前にある。
　その下にはもちろんクロの頭があって……、私がしがみついているのはクロの首筋で……、私は今、クロに抱き上げられているらしい。
　そんなまさか！！？

「今ここに、クローヴェル=ヘシュラウ=フィド=ラストアと、ヒナ=シロサキとの婚約を発表する！　危険をかえりみずに我が命を守ってくれた、勇敢な婚約者だ！」

　ワァッと、空気を圧すほどの大歓声が起こった。
　口々に祝福の声も上がっている。

　歓迎してもらえて嬉しい限りだ。――しかし。しかしである。

「クロ、私の頭ずがっ！　頭ずが高すぎます！　下ろしてください！」

　頭の中では『頭ずが高ーい！　控えおろーう！』という口上が流れている。

　戴冠式のルールなんて全く知らないけれど、『王冠』よりも高い位置にいていいはずがないことくらいわかる。
　クロの腕を引っ張りながら小声で訴える私へ、クロはニヤリと口角を上げてみせた。

「隙を見せればつけ込まれると、今まで『趣味』可愛いもの好きを隠してきたが……。可愛い婚約者はいくら愛でようと、誰にも文句を言われない」

「！！」

　なにもこんな場面で趣味を発揮しなくても！


　羞恥に染まり見下ろした視線の先で、おじいちゃんのカプセルが嬉しそうにキラリと光った。




　　　　　　　――　完　――




　◇　◆　◇　◆　◇

　あとがき

最後までお付き合いいただきありがとうございました。
読んでよかった、と思っていただける作品になっていれば嬉しいです。

そして実は……
クロにはボイスデータが存在します😳🎙️
１～２分程度の短いものですが、イメージ通りの声の方を発見して有償依頼したものです。
詳細は近況報告に載せておきます。


まだ投票権お持ちの方いらっしゃいましたら、完結祝いにぜひ投票お願いいたしますヽ(*ﾟДﾟ*)ﾉ㊗️