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51~最終話

【最終話】この世界で手に入れたもの【上】

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 走りながら手袋を脱ぎ捨てる。
 これで私も不敬罪だろうか。

 鼓動がいやに遅く聞こえる。
 ざわめきが皮膚を撫で、すべての動きが緩慢に見える。

 永遠にも感じる一瞬。
 自分だけが世界から切り離されたかのような錯覚。

 すべらかな手のひらが吸い寄せられるように壇上のクロに向き、紅い唇が開く。

 ほんの指先だけでいい。僅かでも触れられたなら。

「マフェク――」

 残り数歩の距離を、むき出しの手のひら目掛けて飛び込んだ。


 いっぱい吸い込む――――!!!



 ドサッ



 マリエラと私が同時に崩れ落ち、一拍遅れてマリエラに騎士の剣が突きつけられた。

 勢いで飛び出したものの、未だに状況はよくわかっていない。
 わかっていないけれど、とりあえず――。

「気持ち悪ぅ……」

 スカートに腹部をされるのに耐えきれず、ごろりと仰向けになってきらびやかな天井を見上げる。

 古くなった油をガブ飲みしたようなとてつもない不快感だ。
 胃のあたりがムカムカとして、気持ち悪さがり上がる。吐きそう。

 『親和性が高い』ことがどれほど重要か、マリエラの魔力を今ならわかる。
 相性、とっても大事…………ガクッ。

「ヒナ! 無事か!?」

 見上げた天井にクロの顔が覗く。

「クロ……、うぅ、無事でよかった……」

 ダメ、たくさんしゃべると吐く。

 ことさら慎重に私の上体を抱き起こしたクロは、私が無傷で意識もしっかりしていることを確認すると、マリエラを捕縛する騎士の一人へと視線を向けた。

「状況は」

「はっ! クィンコット公爵令嬢がクローヴェル殿下へ向けなんらかの魔法発動を試みたところ、こちらのご令嬢が駆けつけて発動を阻止した模様です!」

 マリエラは意識のない様子でぐったりとして、真っ青な顔をした両親が愕然と見守るなか抵抗もなく両腕を縛りあげられている。

 えっ――マリエラ、死んじゃってない……よね? 何も考えずに思いっきり吸い込んじゃったけど、魔力がゼロになると死んじゃうとかないよね!? 捕縛してるってことは動く可能性があるってことだよね!? 生きてるよね!? ねっ!!?

「ぅ……」

 縛られる苦しさからかマリエラが洩らした微かなうめき声に、私はほぅーっと心から安堵の息をついた。
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