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11~20話
13d、私は準備の大変さをわかっていない
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前回私のやり方を観察していたガルは意気揚々とブラシを手に取ると、見よう見まねで髪を結びはじめた。
長い指に髪を梳かれ頭皮に触れられるのは気持ちよく、無骨な手が繊細なレースのリボンを扱う様にも妙にドキドキしてしまう。
しかしながら結い上がってみると、まとめそびれた髪はそこかしこから溢れ、リボン結びに集中するあまり結び目の位置も大きく横にズレ、その仕上がりは惨憺たる有り様だった。
その後解いては結び直すこと二十回。
段々と結うのは上手くなってきたものの、後半はリボン結びの輪が左右対称じゃないだとか結ぶ高さが少しばかり低すぎただとか妙なこだわりが出てきて、二十一回目にしてようやく、ようやく! ガルの納得いく仕上がりになったのだ。
綺麗にまとめ上げられた髪はツヤツヤと輝き、結ぶ位置も寸分違わず中央で、リボン結びは恐ろしいほどに左右対称だ。
何はともあれ日が暮れる前に完成して良かった……。
そして私はついに自分で出来る唯一の準備も失った。
「準備はできたか?」
「はい!」
私自身は何もしていないけれど。
ぴょんっと高い椅子から降りると、ガルの正面に回って手を伸ばした。
迷いなく抱き上げられ、いつものように左腕に乗せられる。
仕事帰りに髪用の香油やら絵本やらを買ってきてくれるガルだが、靴だけは未だに買うのを忘れるらしい。
服も食事も何もかもを与えられている私の立場からではこれ以上強請ることもできず、移動の時はずっとガルの腕の上だ。
最後にガルは戸棚からワインを一本取り出すと、剥き出しのまま片手に持って屋敷を後にした。
長い指に髪を梳かれ頭皮に触れられるのは気持ちよく、無骨な手が繊細なレースのリボンを扱う様にも妙にドキドキしてしまう。
しかしながら結い上がってみると、まとめそびれた髪はそこかしこから溢れ、リボン結びに集中するあまり結び目の位置も大きく横にズレ、その仕上がりは惨憺たる有り様だった。
その後解いては結び直すこと二十回。
段々と結うのは上手くなってきたものの、後半はリボン結びの輪が左右対称じゃないだとか結ぶ高さが少しばかり低すぎただとか妙なこだわりが出てきて、二十一回目にしてようやく、ようやく! ガルの納得いく仕上がりになったのだ。
綺麗にまとめ上げられた髪はツヤツヤと輝き、結ぶ位置も寸分違わず中央で、リボン結びは恐ろしいほどに左右対称だ。
何はともあれ日が暮れる前に完成して良かった……。
そして私はついに自分で出来る唯一の準備も失った。
「準備はできたか?」
「はい!」
私自身は何もしていないけれど。
ぴょんっと高い椅子から降りると、ガルの正面に回って手を伸ばした。
迷いなく抱き上げられ、いつものように左腕に乗せられる。
仕事帰りに髪用の香油やら絵本やらを買ってきてくれるガルだが、靴だけは未だに買うのを忘れるらしい。
服も食事も何もかもを与えられている私の立場からではこれ以上強請ることもできず、移動の時はずっとガルの腕の上だ。
最後にガルは戸棚からワインを一本取り出すと、剥き出しのまま片手に持って屋敷を後にした。
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