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41~50話

49b、ご主人様は泣きそうな理由をわかっていなかった

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風呂から上がりマヤの傷の具合を診てやれば、もうどこに傷があったのかもわからないほど綺麗さっぱりと傷痕は消えていた。

「ああ……傷はすっかり綺麗になったな」

昨日まではまだほんの薄っすらと赤みを残していた場所を指で辿る。
腫れも、皮膚表面の違和感もない。

「……ガル様が毎日手当てしてくれたお蔭です」

「マヤの肌に痕が残らなくてよかった」

白く滑らかなマヤの小さな背中に、赤く腫れ上がった傷はあまりにも痛々しかった。
傷が消えたからといってマヤの受けた痛みがなかったことになる訳ではないが、それでもやはり僅かな痕も残さず傷が治ったのは喜ばしい。

つるりと白い背を眺め、ホッと胸を撫で下ろす。

「…………〰〰」

マヤがこの屋敷に来て初めて、包帯を巻かぬままの素肌に寝衣を着せた。

着替えを終え、いつもならぴょんと椅子を下りるはずのマヤが今日は顔を俯けたまま動かない。

「マヤ?」

声をかけても反応はない。
どうしたというのだろう?

マヤの正面に回ると、俯けた頬に手を添えてそっと顔を上げさせた。

「マヤ、どうした? そんな泣きそうな顔をして……まだ痛みがあるのか?」

瞳を濡らしぎゅっと唇を引き結んだマヤは、痛むのかと言う俺の問いに小さく首を振った。

痛みではない。
ああ……それならば。
マヤを悲しませる原因など、もう、一つしかないではないか。

「では……泣くほど嫌だったのか……。本当にすまない」

『マヤを傷つけることはしないと誓う』など大層な口を叩いておいて、俺自身がマヤを傷つけ悲しませているではないか。
理性を保てず口付けるなどという、愚行を犯して。

優しいマヤはこんな俺さえも傷つけまいと、言を否定するようにさらに首を振る。
心遣いはありがたいが、その否定を信じて安心できるほど楽観的にはなれなかった。

今にも泣き出しそうな顔をしているというのに……。
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