【完結】男運ゼロな高身長ド貧乳女の私が、過保護なスパダリイケメンに溺愛執着された理由

福重ゆら

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番外編 葵と悠斗の願いの話

番外編 葵と悠斗の願いの話 前編(※) side. アイデシア

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 温かい日差しの中、動物園に出掛ける夢を見た。
 前世はよく悠くんと訪れた場所。

 わたしの隣を悠くんが歩いている。
 悠くんは、黒髪マッシュヘアで黒目、スラっとした体型で、前世のままの姿だ。

「葵はさ、つむじも可愛くて……」

「わかります! 可愛くて、思わず撫でまわしたくなっちゃうんですよね!」

「そうそう!」

 悠くんと楓ちゃんが楽しそうに会話している。

 少し前まで、わたしは悠くんと楓ちゃんが恋仲だと思い込んでいた。
 悠くんと楓ちゃんが一緒にいるところを想像するたび、すごく胸が苦しかったのに。
 ……今は、ただただ恥ずかしい。

「ちょっと、2人共やめて。照れちゃうから」

 わたしが熱くなった頬を押さえてそう言うと、悠くんと楓ちゃんがこちらを見た。

「赤くなった葵、可愛いっ!」
「ほっぺた押さえる葵先輩、キュンとしますっ!」

 悠くんと楓ちゃんが、わたしに手を伸ばす。
 悠くんはそのままわたしを抱き締め、楓ちゃんは後ろから捕獲された。
 ……直樹くんに。

「楓、ダメだよ。楓が抱き締めていいのは俺だけ」

「ええ~~~! 直樹さん、私も、葵先輩を抱き締めたいですっ!」

 すると悠くんが、楓ちゃんに向かって言った。

「葵は僕のだからダメ! 直樹で我慢して!」

「そんな、悠斗さんまで~っ!」
「ちょっと、悠斗! 俺の扱い酷くない?!」

 楓ちゃんと直樹くんが同時に言うのを聞いて、わたしは思わず吹き出してしまった。

「ふふっ」

 すると、悠くんと楓ちゃんと直樹くんも吹き出して。

「ふっ」
「ふふっ」
「ははっ」

 そして、4人でクスクス笑い合った。


 ***


 わたしの意識がゆっくりと浮上する。

 前世の夢だ。
 でも、この4人で出掛けたことなんてないから、妄想に近い夢なのかな?

 寝起きのふわふわする頭で考えていたら、甘い重低音ボイスが今世のわたしの名を呼んだ。

「アイデシア、おはよう」

 声の方に顔を向けると、わたしの最愛の人がニッコリ笑っている。

「おはようございます。ユークリッド様」

 ユークリッド様は、わたしにおはようのキスをした。

 赤髪短髪ヘアで金色の瞳と筋肉隆々の身体を持つユークリッド様。
 彼の前世が悠くんだなんて、……いまだに信じられない。

「アイデシアは、今日もつむじまで可愛いな」

「ふふっ、ユークリッド様、今日の夢でも同じことを言ってましたよ。……前世の姿でしたが」

「アイデシアもか。実は、オレもその夢を見た」

「楓ちゃんと直樹くんも出てきました?」

「ああ、出てきた」

 ユークリッド様はそう言ったあと、わたしをぎゅうっと抱き締めた。

「お前を抱き締めていいのはオレだけだからな?」

「ふふふっ、……同じ夢を見るなんてこと、あるんですね」

 そして、先ほどの夢で、いたたまれない気持ちになったことを思い出した。

「長身の超絶美形の三人と私が一緒に歩くと、超人気モデル3人とマネージャーみたいな気分になりますね」

 ユークリッド様が目を瞬かせたあと、吹き出した。

「ははっ。そういえばお前、オレと直樹の3人で歩いてた時も『小人になった気分』だと言ってたな」

「そうなんですよ。しかも、立ち話の時、悠くんと直樹くんが上の方で話しちゃうと、会話に入れないんです」

「ははっ、そうだったのか」

「……懐かしいですね」

「ああ。懐かしいな」

「そういえば、直樹くんに『心から大事にしたいと思える子』は見つかったんでしょうか」

「うーん、どうだろうな。前世、オレが死ぬまでにはいなさそうだったが。……そういえばさっきの夢の直樹、葵の後輩に執着してる様子で意外だったな」

「意外、ですか?」

「ああ。直樹があんな風に何かに執着しているのを、オレは見たことがない」

「そういえば、初めて一緒に飲んだ日も、彼女に振られた直後なのに『そんなに落ち込んでない』って言ってましたもんね」

「そんなこともあったな」

「……でも、楓ちゃんと直樹くんって、知り合いじゃなかったですよね?」

「いや、オレが死ぬ二週間ぐらい前かな。葵の後輩を、俺の病室に連れて来たのは直樹なんだ」

「そうだったんですね!」

「その時の直樹の様子もいつもと少し違っていて……。さっきの夢の直樹の行動は案外、本物の直樹も取る行動なのかもしれない」

「わ~~~! 実現してたら、ものすごい美男美女カップルですねぇ!」

 私がそう言うと、ユークリッド様が私の頬を摘んで伸ばした。

「な、何でふか、ゆーふひっほはま……!」

「さっきから、直樹のことを超絶美形とか美男とか言うのが、気に入らん!」

「ええっ?!」

「葵の後輩のことも、超絶美形とか美女とか言うのも、気に入らん!」

「えええっ?! そっちも?!」

「という訳で、オレのことしか考えられなくしてやる」

「え……?」

 ユークリッド様はわたしの頬を摘んでいた手を広げて、ガシッとホールドした。
 前世は美しかった悠くんの細長い指は、今世はゴツゴツして逞しく横幅もしっかりあるので、わたしの顔はすっぽり包み込まれてしまう。
 そのまま妖艶な笑みを浮かべるユークリッド様は、わたしの顔をホールドしたまま、親指で器用にわたしの口を開いた。

 開いた口から牙を覗かせ、ユークリッド様の顔が近付いてくる。
 わたしの心臓はバクバク鳴り、これから与えられる期待で頭の中がいっぱいになった。

「ん……」

 唇が合わさり、そこから差し入れられた舌に歯列をなぞられたあと、舌を捉えられる。

「んっ……んーっ、んーーっ」

 その時、わたしは今の状況を思い出し、あわててユークリッド様の胸を押して、必死に顔を離した。

「……だ、ダメですよぅ。も、もうすぐ朝食で……んぁあっ」

 必死の抵抗むなしく、ユークリッド様の指はわたしの秘裂を下から上へとなぞった。
 そこは、昨夜の行為の名残で既に蕩けていて、今もどんどん蜜が溢れているのが自分でもわかる。

「ダメじゃないだろう? お前のここ、とろとろじゃないか」

 溢れた蜜を、花びらや秘芽に与えるようにかきまわされる。

「あ、……ゆ、ユークリッドさま、だめ……んぁっ」

 わたしの制止など全く聞いていないユークリッド様は、蜜口に指を差し入れた。

「こっちもとろけてふわふわだ」

「あ、あー、……ん、だめ……っ」

「アイデシアもこの状態のままだとつらいだろう? すぐ楽にしてやるから」

 向かい合ったまま、ユークリッド様のモノがわたしのナカへと差し入れられた。

「ふあああ」

 ユークリッド様の宣言通り、その後は他のことなんて何も考えられなくなった。
 だけど『すぐ楽にしてやる』という宣言は守られず、上になったり下になったりさせられて、処理しきれないほどの快楽を与えられ、最後は気を失ってしまった。


 ……ついさっき起きたばかりなのに!


 ◇


 やがて、激しい快楽の波から意識が戻る。
 まだふわふわと意識と無意識の狭間を行き来していると、ある想いが口をついて出た。

「……わたし、楓ちゃんに会いたいです」

「え?」

 そして、ユークリッド様は、わたしの頬をまた摘んで引っ張った。

「ひゃ、ひゃんへ……?」

「アイデシア、また懲りずにオレ以外のことを考えて……!」

「ええっ! だって、楓ちゃんがわたしのために、行動してくれたのを知らなかったから……、『ありがとう』って伝えたくて」

「……まぁ、それもそうか。葵の後輩は、今のオレたちのことを知らないんだもんな……」

 すると、ユークリッド様が少し思案するような顔をして、口を開いた。

「……もしかしたらだが、願えば叶うかもしれない」

「え?」

「オレが前世願ったことは、すべて叶ってるんだ」

「……あ! わたしもです!」

「オレも直樹に会えるなら、生まれ変わったことを伝えたいしな。……試してみるか」

「はいっ」

 わたしはさっそく目を瞑って、祈った。

 ーーー楓ちゃんに、会いたい。


 そして、わたしはそのまま、眠ってしまったようだった。


 ***


 気が付くと、わたしは真っ暗な空間の中にいた。
 辺りを見回すと、少し離れた場所にユークリッド様が立っているのが見える。

 わたしは慌てて駆け寄った。

「ユークリッド様!」

「アイデシア……!」

 ユークリッド様がわたしをギュッと抱き締める。
 なぜかその表情は、今にも泣き出しそうだった。

「アイデシア、悪かった……! 本当に、すまなかった……!」

「ユークリッド様? どうしたんですか?」

「お前の……前世最期の願いを聞いた」

 ユークリッド様の視線の先を見ると、動物園で一人佇む前世のわたしが映し出されていた。

 その瞬間、わたしの絶望で満たされた最期の願いが聞こえてくる。

 ーーー生まれ変わりたい。
 人間でいるのはもう嫌だ。
 人間以外の生き物になりたい。
 飼育される価値のある生き物になって、飼育されたい。

 そして、最後に小さく『悠くんとやり直したい』という願いが聞こえた。

 うっかり願ってしまったあと、慌てて打ち消した願い。
 わたしの願い、本当に全部、叶ったんだ……!

 するとそこで、わたしの映像が消えた。

 ユークリッド様は、深い後悔が滲む声で言った。

「お前にこんな想いをさせるなんて知っていたら、オレは……! 本当に、すまなかった」

「ユークリッド様、違うんです! この時はわたし、仕事で大きなミスをして落ち込んでいて。あなたのせいじゃないんです」

「だが、オレが葵の後輩に送ったメッセージを見たんだろう?」

「……そうですね。でもあれは、わたしが楓ちゃんにすぐ確認していたら、誤解しなくて済んだんです。だから、あなたのせいじゃないです」

「だが……!」

「それに、あのメッセージが本当は『わたしに会いたい』という意味だったと知って、わたしはすごく嬉しかったんですよ」

「アイデシア……」

 するとその時、暗闇の中に、病室のベッドに座る悠くんが映し出された。

「あっ、今度は悠くんが……!」

「次はオレか!」

 その瞬間、悠くんの悲痛な声が聞こえてきた。

 ーーー葵に会いたい。
 自由になりたい。
 大空を自由に舞いたい。
 そして、葵のもとへ飛んで行きたい。

「……!」

 悠くんとあの部屋で再会した時に、悠くんから聞いた願いだった。
 病で弱った悠くんの姿に、胸が締め付けられる気持ちになる。

 しかし、次の瞬間、予想外の出来事が起きた。

 悠くんの声で、小さく『ナースの葵に……』まで聞こえたところで、焦ったような顔をしたユークリッド様に耳を塞がれてしまったのだ。

「ユークリッド様……?」

 わたしは思わずユークリッド様をジロリと見た。

 ユークリッド様は苦笑しながら、それから数分経ってもなお、わたしの耳を塞いだままだった。

 私に聞かせられない願い。
 一体何を、そんなに長い時間願っていたんだろうか?

 すると、悠くんの映像が消えた。
 私の耳からユークリッド様が両手を離す。

「ユークリッド様? 何で耳を塞ぐんです?」

 わたしが聞くと、ユークリッド様が瞳を泳がせた。

「いや、それはだな、あはは……」

「もう!」

 そんなやり取りをしていると、わたしたちの前に新しい映像が映し出された。

 車の中にいる、女性と男性。
 2人とも、とても悲しそうに涙を流している。

 それが楓ちゃんと直樹くんだと気付いた瞬間、直樹くんの声が聞こえてきた。

「会えなくて寂しい気持ちの分、後悔してる気持ちの分、願おうよ。……悠斗と葵ちゃんが生まれ変わって、幸せになれますようにって」

 きっと、わたしと悠くんが死んだ後の出来事なのだろう。

 楓ちゃんは嗚咽で声が出せないみたいだ。
 その痛々しい姿に、胸が締め付けられる。

 楓ちゃんが頷くと、直樹くんが言った。

「どんな人生がいいかなぁ。……悠斗、子供の頃からずっと病弱で、我慢することが多かったんだって。……それで、余命を宣告された時、葵ちゃんの幸せのために、葵ちゃんへの想いも我慢しちゃったみたいなんだ」

 楓ちゃんがハッとした顔になる。
 すると、直樹くんはイタズラっぽく笑って言った。

「だからさ、次は思いっきり健康な体に生まれて、思いっきり俺様な性格になっちゃえばいいなって思うよ」

「ふっ……」

 楓ちゃんの口から息が漏れ、悲しみに満ちていた顔が、かすかに綻ぶ。
 直樹くんはそれを見て、ほんの少し安心したような表情を浮かべた。

「それでさ、我慢しないで『葵ちゃんを絶対離さない』ってさ、本音を言えるようになってほしい」

 楓ちゃんが目を見開いた。
 直樹くんはそんな楓ちゃんを優しく見つめながら、再びイタズラっぽく笑って言う。

「葵ちゃんはそんなアイツを見て、ちょっとびっくりしたりしてね。……最初は気付かないかもしれない」

「ふふっ……。……確かに、そんなことに、なったら、きっと……葵先輩でも、最初は、気付けないかも、しれませんね」

「だよね! ……でも、今度こそ、悠斗と葵ちゃん二人で、天寿を全うしてほしいな」

「……ですね。人間、なんかより……ずっとずっと、長い寿命の生き物に、生まれ変わって、今世の分も、ずっと一緒に、二人で幸せに、生きてほしいです……!」

「ははっ! 後輩ちゃん、その願い、最高! よし、じゃあ、さっそく願おうか」

「はい……!」

 楓ちゃんがこくんと頷き、2人は目を閉じる。
 すると、2人の願いが聞こえてきた。

 ーーー悠斗と葵ちゃんが一緒に生まれ変わって幸せに暮らせますように。
 悠斗が健康な身体と俺様な性格を手に入れて、今度こそ葵ちゃんに本音を言えますように。
 悠斗さんと葵先輩が、人間よりもずっと長い寿命の生き物に生まれ変わって、今度こそ天寿を全うしますように。

 少しだけ遅れて、『悠斗さんが成人したら記憶を思い出しますように』という願いが聞こえた。

「楓ちゃん……」
「直樹……」

 思わず涙が込み上げる。
 楓ちゃんと直樹くんが、こんな風に私たちのことを願ってくれていたなんて、全然、知らなかった。

 すると、次に予想もしていなかった願いが聞こえてきた。
 直樹くんの声だった。

『悠斗、お願いだ。葵ちゃんの誤解を解いてほしい。たぶん葵ちゃんは、悠斗が後輩ちゃんに送ったメッセージを勘違いしてる。葵ちゃんはそれで辛い想いをしたままだし、後輩ちゃんもそれで自分を責めて苦しんでる。だから生まれ変わって、葵ちゃんの誤解をちゃんと解いてくれ。頼む』

 わたしとユークリッド様は息を呑んだ。

 ……何で、今まで、気付かなかったんだろう。
 わたしが悠くんのメッセージの内容を見て誤解したことに、楓ちゃんが気付いている可能性に。

 楓ちゃん、ごめん。ごめんね。

 楓ちゃんはいつも、わたしのことを想って行動してくれたことを思い出す。

 わたしが諦めていた部内のセクハラにも、理不尽な部署ルールにも、楓ちゃんは1人で立ち向かってくれた。
 わたしが自分の健康を顧みずに仕事をするのを、何度も止めてくれた。
 悠くんに振られた絶望から逃げるために、仕事にのめり込むのをやめられなかったバカなわたしのために、悠くんに会いにいってくれて……。
 ミスして落ち込むわたしのために、離田主任に立ちはだかって、悠くんにメッセージまで送ってくれたのだ。

 そして、わたしと悠くんが死んだあとも、わたしたちのために願ってくれた。


 ーーー楓ちゃんに、会いたい。
 会って、感謝を伝えたい。



 そう強く願った次の瞬間、わたしは真っ白な空間にいて。
 そこには、会いたいと強く願った相手がいた。

 わたしは、名前を呼んだ。

「楓ちゃん!」
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