【完結】男運ゼロな高身長ド貧乳女の私が、過保護なスパダリイケメンに溺愛執着された理由

福重ゆら

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番外編 葵と悠斗の願いの話

番外編 葵と悠斗の願いの話 後編 side. ユークリッド

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 オレの意識がゆっくりと浮上する。

 目を開けると、オレの最愛は、まだ眠りについていた。

 夢の中で、前世の親友と葵の後輩に会っていたからだろうか。
 それとも、前世の名前で呼び合っていたからだろうか。

 思わず自分が前世の『悠斗』のように錯覚して、最愛の前世の名が口をついて出た。

「……葵」

 瞬きを一つすると、そんな錯覚は吹き飛んだ。
 うっすらと紫色を帯びた銀色の髪を耳にかけようとすると、先が尖った可愛い耳が露わになる。

 オレは改めて、最愛の名を呼んだ。

「……アイデシア」

 アイデシアは、ピクリと身じろぎし、ゆっくりと瞳を開けた。

「……ユークリッド様」

 小鳥が囀るような可愛らしい声で名を呼ばれ、オレは間違いなく今世の『ユークリッド』なのだと実感する。

「アイデシア、起きたか」

 すると、アイデシアはがばりと身を起こし、瞳をキラキラさせて言った。

「超絶美男美女カップル、爆誕してましたね!」

 オレは思わず額を押さえた。

「……起きて開口一番がそれか」

「だって! 前世のわたし、直樹くんに楓ちゃんを紹介したいなって、ずっと思ってたんです!」

「それは初耳だな。紹介すればよかったじゃないか」

「でも、直樹くんは『彼女欲しくなさそう』って悠くんから聞いてたし、楓ちゃんは『彼氏はいらない』って言ってたから……」

「おいおい、『彼氏はいらない』って……! アイツ、葵をオレから略奪するつもりだったんじゃないか?!」

「楓ちゃんは、そんなことをする子じゃありませんよ!」

「いいや、そんなことはない! アイツ、さっきもお前を抱き締めていたじゃないか! 別れ際だってお前に手を出そうとして……」

「違います! 先に手を出したのは、わたしです!」

「なんだとっ?!」

「再会してすぐ、楓ちゃん、泣きながら座り込んでしまって。それで、わたしが楓ちゃんを抱き締めたんですっ」

「はぁ?! お前、オレ以外の奴を抱き締めたのか?!」

「だって、楓ちゃんの姿があまりに痛々しくて、居ても立っても居られなくて……」

「お前を抱き締めていいのはオレだけだって、今朝言ったばかりじゃないか! 今すぐオレを抱き締めろ!」

「えええっ?!」

「ほら、アイデシア。ここで膝立ちになってオレを抱き込め」

「えっ?! ……あ、あの、恥ずかしいので、服を着てからでもいいですか?」

 その質問に、オレはニッコリ笑って答えた。

「ダメに決まってるだろう?」

「ええ~……」

 アイデシアはしぶしぶ膝立ちになり、両手を広げた。

「こんな感じ……ですか?」

「ああ」

 ふわふわの双丘にオレが顔を埋めると、アイデシアがオレの後頭部に腕を回す。
 その動きで、オレはふわふわに包み込まれた。

 夢の中で、アイデシアは服を着ていた。
 だから、葵の後輩は服越しでしか、このふわふわを感じれなかったはずだ。

 オレは、この素晴らしくふわふわの肌に、直で触れられるのだ。

「……最高だ」

「何を言ってるんですか……」

 アイデシアが呆れた声を出す。

 前世の『悠斗』だったら、葵に呆れられるのが怖くて、こんなバカなこと、絶対にできなかったなと思う。
 直樹に言われた『これで良かった』という言葉を痛感した。

 とはいえ前世のオレがしたことは、葵を死に向かわせるほどに傷付け、生まれ変わった後もアイデシアを苦しめた。
 それだけではなく、葵の後輩や直樹まで傷付けていたのだ。

 1人だけ記憶を忘れて生まれ変わり、のうのうと自由気ままに生きてきたオレを、前世のオレなら許すことなどできなかっただろう。

 だけど今、オレがアイデシアとの幸せを堪能することが、オレが傷付けた3人が心から望んでいることなんだと思うし、今世のオレはそれが出来る図太さを持っている。

「……ユークリッド様、どうしました?」

「ふわふわで幸せだ」

「もー、ユークリッド様は……!」

 アイデシアの呆れ声には、『しょうがないな』という確かな愛情も含まれている。

 こんな何気ないやりとりが幸せなのだ。
 改めて『これで良かったのだ』と痛感し、引き続きアイデシアのふわふわの肌を堪能した。


 ◇


 心ゆくまでふわふわを堪能したところで、玄関でガチャリとドアが開く音がした。

「アイデシアー! ユークリッド君ー! おはよー! 朝食持って来たよー!」

 すると、アイデシアが声を張り上げた。

「おはようございます!」

「食卓に置いたよー! ではまたねー!」

「ありがとうございます!」

 そして、ガチャリと玄関のドアが閉まる音がした。 
 アイデシアは、オレに向かって言う。

「では、朝食にしましょうか」

「ああ」

 その瞬間、悪戯心が湧き、オレはアイデシアの胸の膨らみをはむっと口に含んだ。

「ユークリッド様?! 何をなさってるんですか?!」

「朝食」

「『朝食』?! 朝食は食卓ですよ?! もうっ、何を言ってるんですか!」

 顔を真っ赤にして慌てるアイデシアが、オレの悪戯心を更にくすぐる。

「こっちも美味そうだな……むぐっ」

 悪戯心が赴くまま、アイデシアの胸の蕾を口に含もうとしたら、その前にアイデシアの両手で口を塞がれた。

「ダメです! 朝食にしますよ!」

「ええ~、オレの主食はアイデシアなのに……」

「もうっ! 本当に何を言ってるんですか!」

 すると、アイデシアがオレの口から手を離し、立ち上がろうとした。
 オレは膝の下に腕を入れ、縦抱きの状態で立ち上がる。

「では、朝食に行こうか」

「……降ろしてくださいよぉ」

「ダメだ。それで、朝食のあとは今の続きをしよう」

「ええっ! 続き?!」

 アイデシアが頬を両手で押さえる。
 そんな姿が愛しくて堪らない。

 こういった軽口も、前世のオレなら言えなかったのだ。
 こんな可愛い反応をする葵の姿を見逃していたなんて、なんと勿体無いことをしていたのかと思う。

 そこで、オレは前世できなかったことを新たに一つ思い出し、口を開いた。

「……アイデシア、指輪を買うか」

「え? 指輪ですか?」

「ああ、結婚指輪だ。直樹に『早く買え』と言ったんだけどな。ドラゴンは人間のような結婚制度はないが、オレもアイデシアと付けたいと思った」

「……!」

「アイデシア、どうした?」

「……つ、付けたい、です」

 みるみるうちにアイデシアの美しい紫水晶に涙の膜が張り、そこからポロポロと涙が溢れる。

「おい、アイデシア、何で泣く?!」

「あ、あの、……前世からずっと憧れていたので」

「そうか。じゃあ絶対買おう」

「わたし、金色の石が付いた指輪が良いです」

「何でだ? 普通、ダイヤモンドじゃないのか?」

 前世のオレは、マンションだけでなく婚約指輪や結婚指輪も、葵にプロポーズするかなり前から下調べしていたのだ。
 確か、婚約指輪だけでなく結婚指輪に石を入れる場合も、ダイヤモンドが多いという記憶があった。

 そんなことを思い出していると、オレに縦抱きにされているアイデシアが、オレの瞳をまっすぐに見て言った。

「わたし、ユークリッド様の瞳、大好きなんです。……だから、ユークリッド様みたいな美しい金色の宝石の指輪がいいなと思って」

 そんな嬉しいことを言われ、自分でも顔が綻んでしまうのがわかった。

「……そうか。オレも、お前の美しい紫の瞳が好きだ。だからオレもアイデシアの瞳のような石を探すことにするかな」

 オレの言葉に、アイデシアが嬉しそうに微笑んだ。
 だけどすぐ何かに気付いたように、ハッとした表情を浮かべた。

「でも、指輪だと、ドラゴン型になる時に外さなければいけないのが、少し残念ですね」

「ああ、そうだな」

「ピアスなら、外さなくても大丈夫でしょうか?」

「ん? 指輪じゃなくていいのか?」

「そうですね、指輪に憧れはあります。でも、ドラゴン型になっても、ずっと身に付けていられる物があるなら、そちらの方がいいなと思いました」

「なるほどな。……しかし、ドラゴン型の時に耳にピアスが付いてると、生物を管理するタグみたいじゃないか?」

「ふふっ、……そうですか?」

 アイデシアは想像したのか、クスクス笑っている。

「ああ。他の場所にするとすれば、舌とか臍とかか。真面目な癒やし系のアイデシアの舌にピアスとか……想像しただけでエロすぎるな……」

「もぉっ! 変な想像しないでください!」

「いや、でも、アイデシアの身体に穴なんか開けたくないし、そもそも外から見えないと、周りへの牽制ができないな。そういう意味では指輪が一番か」

「ええっ! 牽制のために付けるんですか?!」

「当たり前だ。アイデシアに近付く害虫は、少しでも減らしておくに越したことはない」

「そんなのいませんよぉ……」

「いや、お前は自分で気付いてないだけで、前世も今世も結構モテる」

「えっ?! 前世は全然でしたし、今世は研究所に引きこもっていたので、誰とも接してないですよ?!」

「お前はな、なかなか告白できない前世のオレみたいな男に好かれやすいから、気付かなかっただけだ。今世だって、お前の繁殖相手を募集していた、あの忌々しいチラシに雄ドラゴンどもが群がっていたぞ?」

「えぇっ?! そうだったんですか?!」

「前世、付き合い始めてからは、オレが常に周りを牽制してたからな。大学ではなるべく一緒にいるようにしてたし、就職してからは会社に迎えに行くことで、オレの存在をアピールしてた。……それで思わぬ伏兵まで牽制していたとは気付かなかったが」

「『思わぬ伏兵』って、……まさか楓ちゃんのことですか?」

「他に誰がいる?」

「ユークリッド様は楓ちゃんを警戒しすぎですって!」

「いいや、そんなことはない。先程お前と話すアイツを見て、アイツを放っておいたら、前世のオレにとって一番の脅威となっていたと確信した」

「……はっ! そういえば! 楓ちゃん、会社では何度もわたしのことを助けてくれたんですけど、本当に綺麗でカッコよくて、『まるで白馬に乗った王子様みたいだなぁ』と何度も思ったんです」

 回想しながらうっとり頬を染めるアイデシアを見て、オレは盛大に焦った。

「ほら、やっぱり脅威じゃないか! ……多少無理やりだったが、アイツが直樹と結婚するよう仕向けて正解だったな」

「え?! ……あれは、直樹くんのためじゃなかったんですか?」

「もちろん直樹のためでもあるが、オレのためでもある。あんな奴を野放しにして、葵を追いかけてこの世界まで来られたりしたら困るからな!」

「もー……ユークリッド様は……」

「アイツみたいな奴を牽制するためにも、絶対に指輪だ! きっとこの世界には、オレたちがドラゴン型に変身した時に、ドラゴンの指に合わせて形状が変わる指輪も存在するはずだ」

「そんな都合の良い指輪、あるんでしょうか……?」

「ああ、探せばきっとあるに違いない。……だってここは、オレたち4人の願いを全て叶えてくれた『何でも願いが叶う、都合の良すぎる世界』なんだから」

「ふふっ、……確かに、『何でも願いが叶う世界』ですね」

「『天寿を全うする』などのまだ叶っていない願いもあるが、……オレは何があっても叶えるつもりだ」

「ふふっ……はいっ! 叶えましょう!」

「ああ、絶対だ」

 オレはその誓いを胸に、アイデシアに口付けた。
 唇を離すと、アイデシアは蕩けるような笑みを浮かべた。
 前世から、オレが大好きだった笑みだ。

 すると、アイデシアが何か思いついたように口を開いた。

「あの、ユークリッド様、わたし、もう一つ、したいことがあって」

「何だ?」

「楓ちゃんと直樹くんの幸せを願いたいです」

「ああ、願うか。2人の願いがこっちの世界に届いたんだ。オレたちの願いも、向こうの世界に届くだろう」

「はいっ」

 そして2人で瞳を閉じて、強く願った。
 オレたちを幸せにしてくれた、2人に届くように。


 おわり
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