首輪 〜性奴隷 律の調教〜

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S side  誕生日会 ep1

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初めて律が自ら口にした願望が飯塚絡みなのは俺達を絶望させたが、招待状を受け取ってから3週間、律は特に取り乱したりする事も無く、表面上はいつもの大人しい犬のような静かさで過ごしていた。
ただ動物の帰省本能であの屋敷に戻りたがっているのか、何かのけじめなのか、まだ心は完全に飯塚のものなのか、律以外には真意のほどは誰にも分からなかった。

飯塚から再び寵愛を受けられる日が来るのを切望していた律に、そのポジションをそのまま与えられる新しい養子の誕生日会など、嫌がらせにしか思えないが本人が行きたいと言うのだから仕方がない。
外出が苦手で散歩にすら出られなかったのに、無理があり過ぎると瀬戸はずっとぼやいている。

招待状は俺のところにも届いていた。
律を手懐けられない俺へ見せ付けるような封書に殺意を覚えたが、これで堂々と律の隣に居られる。
あとは律が飯塚を見た瞬間、泣いたり喚いたりして戻りたいと言わない事を祈るばかりだった。

当日の朝、その日の為に仕立てさせた正装の律は、見た目の若さ故に服に着られている感は否めないが、幼い頃に叩き込まれた躾の賜物か、俺のような成り上がりには到底真似出来ない種類の滲み出る品の良さのようなものを常に纏っている。
そして食生活の改善からか、健康的で年相応の肉付きを漸く取り戻しつつあるようだった。

最後まで瀬戸は律を行かせる事を渋っていたが、本人の意志が固く、説得を諦めたようだった。
俺にもこの選択が、取り返しの付かない後悔に繋がりそうな予感はあった。
だがこれで律が飯塚に縋るような事があるなら、それはもう仕方の無い事のような気がした。他人から見ればどれだけ一方的に虐げられるような関係であったとしても、本人が納得しての事ならもう止める術は無い。

飯塚の屋敷へ向かう車中、一見普段と同じように黙ったままに見える律の目が、ほんの少し生気を取り戻しているように見えた。
二十歳の誕生日の日に追い出された律が、どんな気持ちで新しいガキのバースデーパーティーなんかに参加するのか、俺には見当も付かない。


ただエンジンの音だけが響く車内。そして見えている景色の道幅が徐々に広くなると同時に、周囲の家の一つ一つの敷地が大きくなり始め、庭やら広いガレージに置かれた外車のある屋敷やらが目立ってきた。
余所者を排除する気配に満ちた、古くからの高級住宅街の嫌味な空気の中を車がゆっくりと進んで行く。
周囲を見ると何台かのリムジンが俺達と同じ方向へ向かって走っている。
仰々しい門を抜け、車は飯塚の私有地に入ったが、そこから屋敷までの距離が長く、左右を美しい樹々に挟まれた道を延々と進む。
死にかけの重傷の律を乗せてこの道を走った日の事が頭を過った。

漸く本館が見えて来た所で、係員に案内されて俺達は車を降りる。
運転手に大体の時間を告げるが、そんなに長居をするつもりはなかった。
十年近く前、律を初めて見た場所と同じ所で、今日のパーティーは行われるようだった。

既に受付は始まっていて、会場内は賑やかな雰囲気だった。
大物政治家からテレビで見た気がする有名起業家や、やんごとなき血筋の関係者まで、たかがクソガキのお誕生日会の為に集められた面子に、飯塚の金と人脈とそれに群がる人間の多さを目の当たりにしてうんざりする。

律を連れて会場内に入ると、数人の男達の目が律の方へ注がれるのが分かる。
この場に居る何人かは、確実に飯塚の公然の秘密の会の関係者で、律と関係を持っていた人間も少なくないだろう。
律への視線は俺が前に立つ事で阻めるが、その好奇の目がその次はこちらにも当然注がれた。
好き好んで飯塚から払い下げの中古品を買った変わった男、というレッテルは腹立たしいが我慢出来る。
律にべったりと向けられる、まだ律を自分のものだと言いたげな、下卑た馴れ馴れしい視線に比べれば。

かつての自分の家に帰った筈の律は相変わらず大人しい。
顔見知りでもおかしくないウェイターから、他人行儀にジュースの入ったグラスを受け取り、隣で俺の影のように静かに佇んでいた。

広い会場の前方にステージを設けた立食式のパーティーだが、それでも人の多さが目立った。会場全体にわざとらしい程子供っぽい、風船やら光る紙やらの装飾が施されていて吐き気がする。
そんな事を考えていると、会場の照明が落とされ、ステージにライトが向けられる。
お遊戯会のような気の抜けた音楽でバースデーソングが流れると、そこに飯塚とその腕に抱かれた小さな子供が現れた。

俺はそのガキの幼さに目眩を覚える。
多く見積もっても5、6歳であろう幼児が、足の悪い初老の男に抱かれながらスポットライトの下で笑っている。

俺は本物の吐き気を覚えながら、横目に律を見る。
律は遠くの景色を見るような目でその残酷な光景を眺めながら、泣きそうなのか笑いそうなのか分からないような表情で周囲に合わせて小さく拍手していた。

ステージのガキは無邪気に笑い、あどけない声でマイクに何か言っている。馬鹿が過ぎるのかまだ自我というものがないのか、何を言っているのか理解出来ない。辛うじて名前が凛と言うことだけが聞き取れた。
飯塚がそのガキを気に入った理由は良く分かる。
カールした色素の薄い髪、大きな目、白い肌、丸い頬、日本人離れした抜きん出た容姿の良さは、周囲の中の誰かが「天使のよう」と形容したがその通りだった。
律も系統は違うが幼い頃から顔立ちは整っていたし、今でもその端整さは失われていない。ただ年齢が飯塚の趣味の範疇を超えただけだった。

誕生日ケーキがステージに運ばれ、凛が蝋燭の炎を消そうとするが一人では消しきれず、それを飯塚が手伝って吹き消すという気味の悪い茶番が大勢に見守られながら行われた。
こんな茶番でも、この会場の大勢が付き合う価値が十分にある飯塚の金とコネクションには恐れ入る。

蝋燭が吹き消され、会場が拍手に包まれてフロアのライトがゆっくりと明るくなり始める。ステージを見ながらエロジジイ、と心の中で呟いた時、斜め後ろに軽い衝撃が走る。

振り返るとさっきのウェイターが、グラスの倒れたトレイを持って慌てて俺のジャケットを拭おうとしている。
自分の脇腹あたりがワインの派手な赤色に染まっていた。慌ててジャケットを脱ぎ、下のシャツまでは染みていない事を確かめる。
律は一際不安そうな眼差しで此方を見ている。予想外のアクシデントが苦手だと、瀬戸には何度も聞かされていた。

「大丈夫だ、直ぐ戻るから此処に居ろ」
飯塚の腕の中のペットのように、自立出来ない子供のように、俺は律を連れ回したりしたくなかった。
この会場に律を人間扱いしなかった連中がたくさん居るせいで、俺は殊更にそれを周囲にアピールしたくなってしまう。

律が分かりました、と呟くと同時に俺は車に替えのジャケットがあるか運転手に電話しながらトイレまで小走りに向かった。

そしてこの時の自分の行動の軽率さを、俺は悔やむ事になる。
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