ワナビスト龍

理乃碧王

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第五筆 龍のリアルな日常!

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 DXの通知欄には『クソリプ』のお知らせは止まらなかった。
 ここで一つクソリプのことを説明しよう。
 それは『クソなリプライ』の略称のことである。
 内容が全く見当外れで気分を害する言葉、あるいは相手を罵倒するだけの暴言など。
 SNSにおいてFF外 (相互フォロワー以外)から来る不快な返信のことである。

 これは余談であるが、このようなクソリプに対してやり合うバトルを『レスバ』と呼ぶ。
 芸術の域を極めれば一流ラッパーの如く美しく見える。

 例を出すと、大物メジャーリーガーである『D氏』がその一人。
 一般人の素人見解に対してのツッコミ、揚げ足取りは名人芸であった。
 が、これは一流レスバトラーだからこそ出来る芸当だ。
 殆どのレスバは周囲を不快にさせるだけのことの方が多いのは注意したい。

(ストギル系の批判はご法度……)

 龍は深く反省しながら軽トラを運転する。
 あの炎上から暫くして鎮静化したが、あの後が大変だった。
 男一匹ウルフ大将など自作に低評価爆撃を受けたのだ。
 しかし、それと同じくして僅かながらのブクマも入った。
 現在、男一匹ウルフ大将の総合評価ポイント「24点」。(うちブクマ2)
 ゼロから僅かながら数値が上昇したのだ。

(炎上も悪くないな)

 龍はポジティブな気持ちになった。
 ストギルを腐す過激な発言であったが、それはそれで応援する人もいることを知ったのだ。
 経緯はどうあれ、全く評価されなかった自作にブクマやポイントがついたことは非常にめでたい。

(帰ったら自作に取り掛かるぞ)

 さて、今日の龍のコーディネートをご説明しよう。
 龍の服装は黒と茶色を基調とした渋い作業着だ。
 それはまさしくマカロニウエスタンのガンマン。
 これは龍が所属する『ヤマネコ運輸』の宅配ドライバーだけが許される正装。
 云わば、新選組の隊服と同じ『誉れ高きもののふ』の装い。

 ここで賢明な諸君らはお気づきだろう。
 龍のお仕事は『配送ドライバー』なのだ。
 そして、今回はみんなが大好き日常回だぞ。

「車を止め、タイムカードを切れば業務は終了だぜ」

 軽トラを所定の場所に駐車する龍。

「シュバッ!」

 颯爽と降り向かう場所は事務所。
 そこでタイムカードを押せば全ては終わる。
 帰ったら即席麺を食しながら作品の続きを書くのだ。
 だが、ここで思わぬ事態が起こった。

「ちょっと阿久津川君」
「こ、古田島マネージャー!」

 龍の前にスレンダーな女性が現れた。
 モテない男子諸君が好きそうな黒い髪。
 そして、メガネをかけた姿はキン肉〇ンスーパーフェニックスを想起させ知性を我々に感じさせる。

 彼女の名前は古田島梓、二十八歳独身。
 このヤマネコ運輸H支部配送センターのマネージャーを務める若き管理職、エリートだ。
 古田島のお仕事は配送業務全体を統括する役職。ドライバーの業務進捗やトラブル対応を行うのである。
 従って、この古田島は龍の上司に当たるのはおわかりだろう。

「な、なんでございましょうか」

 龍は平身低頭、恐縮した態度になる。
 この古田島、見た目は美人の部類に入るだろう。
 これが漫画やアニメだったら『ご褒美』なのだろうが、リアルだと嫌なものである。

 考えてみて欲しい。
 細かいことにうるさく、常に怒った顔をしている人に毎日ガミガミ言われたどうだろう。
 それがイケメン、美人でも気分が悪いものは悪い。
 時代は褒める時代、共感の時代なのだ。

「……クレームがあったわよ」
「ク、クレーム?」
「指定の時間外に送られてきたっていう内容よ。それも5分も遅れたって」
「……」

 5分くらいいいじゃあないか、と龍は思った。
 だけど、この心の声を古田島に聞かれたら殺されると思い沈黙を守る。

「何か言うことは?」

 詰める古田島、それは寝技で徐々に相手を追い詰めるブラジリアン柔術だ。
 龍は頭を下げながら、チラリと古田島の目を見る。
 キラリと光る眼鏡の奥の瞳はキツイ。

「……怒られませんでしたけど」

 配送したどの御宅でも、ニコニコ笑顔で判を押してくれた。
 龍はどの御宅で五分遅れの配送したかは全く覚えていない。
 それだったら直接、その時にクレームを入れて欲しいものだと思った。
 しかし、ザ・プロフェッショナルの古田島の目は釣り上がる。

「クレームは後から来るものなの! プロならきちんと仕事してね!」

 怒られてしまった。
 龍は体を九十度に曲げて謝るしかなかった。

「す、すいませんでした。次からは気をつけます」

 働くって大変なことなの。
 お金を稼ぐって大変なことなの。
 だけども、これも生きるため、Web小説を書き続けるためだ。
 そして、目指すは『書籍化作家』だ、そうなれば俺の勝利。

 書籍化したら自作が一冊の本となり店頭に並ぶ。
 次に面白過ぎる俺の作品はメガヒットを飛ばすはずだ。
 小説だけでなく、コミカライズ、アニメ化、ドラマ化、映画化すればこっちのもの。
 そうすれば夢の印税生活、この古田島に怒られる生活ともおさらばできる。
 あわよくば、声優もしくは女優かアイドルと結婚できればいいな。
 そんなアホでスイートな妄想を抱き、龍は帰宅するのであった。

「ふぅ……今日はバッドな気分だが書くぞ」

 龍は男一匹ウルフ大将の続きを書き始める。
 前回、他の作品を研究することで理解わかったことがある。

「グルメだ、グルメのシーンを書くぞ!」

 何でも最近は『異世界グルメ』なるものが流行っているらしい。
 ネットで調べたから間違いない、それにグルメを題材にした作品をランキングでもチラホラ見た。
 いいものは取り入れようと龍は考えたのだ。

「じゃがいもっと……」

 龍はじゃがいもを使用した料理シーンを書いた。
 これは主人公狼介が山籠もりの修行中、魔物からゲットしたじゃがいもで『じゃがバター』を作るという回である。

「じゃがバター……食べたいな」

 北海道の壮大な自然を脳裏に浮かべる龍。
 その昔、縁日で食したじゃがバターの美味さを思い出していた。
 これが後にとんでもない事態を起こすことも知らずに――。
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