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11章 禁則領域 『異世界創造の主要』
書の3前半 思い出さない『二度と思い出される事の無い』
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■書の3前半■ 思い出さない I never will do not remind
潮の匂い……を、嗅いでいるような幻覚。
黒い海、それは海じゃない。だって黒い、臭い、潮の匂い?腐った匂い、気持ち悪い。
断崖絶壁、コンクリートの岸、手の届かない波……触れるも汚らわしい、汚い。
それでも波が打ち寄せるその音は聞き慣れている。
寄せては返す、波の音。それだけがリアル。
ごめんね、こんな所まで付き合わせちゃって。
長い髪をその、汚らわしい匂いの中に晒して……姉は距離を置いて背後に突っ立っているこちらを振り返って来る。
何を話しながらここまで来たのか憶えていない。思い出せない。……いや、実際にはそうではなく。
思い出したくない。
俺はその様に、反復している夢から逃げようと試みるんだけど……その時に心に負ったであろう傷の存在はどうしても忘れる事が出来ず、痛みと共に何度も繰り返す。
ねぇ、なんだかデートしているみたいよね。
彼女はそのように冗談で言ったって事は分かっている。分かってはいるが、頼む。
巫山戯んな、って俺はそう思って逆上してしまう。
今もそれは変わってない。
実に一方的な思い違いと妄想の果て、その場にいる事、姉と同じ空気を吸っている事に耐えられなくなって俺はその場から走って逃げた。
大変だったぜ、姉貴に車で拉致られて港の端っこまで来ていたからな。
ましな路線は敷かれて無いしタクシーも走ってないしコンビニもないし。そもそも金もそんな持ってなかったし。さらに雨なんかも降ってきたし。
無事某路線駅にたどり着いた時の安堵は凄まじいものがあった。どっと疲れが襲って来たが、まだ油断は出来ないと自分を律したもんだ。ここの路線無駄に高ぇんだよ!決して裕福ではない俺はうっかり駅を乗り過ごしたりしないように緊張を保って自分の家に帰った。金の余裕が真面目になかった。
部屋に帰ってしっかり扉を閉め、鍵を掛け、チェーンを巻いて携帯電話の電源もオフにして布団を頭の上から被って、自分がやらかした事の幼稚さにどん底まで落ちたような気分を味わった。
当時のバイトも無断欠勤で即クビだ。
彼女の気配がこの町から消えるまで、俺は一歩たりとも自宅を出なかった。
その間尋ねてくる者を全て拒否した。
いやま、それ程長い期間じゃないんだけど。
俺が引きこもった日数は一週間未満。そもそも備蓄食糧が乏しい。数日が限界なのだ。
そのまま誰も来なければ俺はどうなっていただろう?しかし、そうは成らず色々な都合で起き上がれなくなっていた俺は、合い鍵を持っているナッツが訪ねて来た事によりなんとか少しだけ持ち直したのを覚えている。
奴も年がら年中入り浸ってきている訳じゃない、仕事忙しい時はゲームどころじゃないみたいだし。その時はたまたま久し振りーという感じで訪ねてきたと思う。まさか俺が精神的に死んでいるとは思っていなかったようで相当驚かせ、慌てさせ、心配をかけさせてしまった。
起き上がる気力もなく布団の中で、消えて無くなってしまいたいと何度も自分の存在を否定しては考える。
どうやったら俺はこの世界から消えてしまえるだろう?
そんな不毛な事を頭の中だけで繰り返し考えていた。
てか、なんでそれを思い出す。
赤い夕焼けが差し込む中俺は目を覚まし、今見た夢を反復して額を抑えた。
もしかして、それがトリガー引いてねぇかって事でも言いたいのか?……くそ、嫌な思い出だ。
引き金になった現実の出来事……確かに、それはあるかもしれない。
この俺の鬱突入物語はソレで終わってないのだ。これは単なる入り口にすぎない訳で、ここから全てが狂ったと言えばそうかもしれない……と、今さらだが冷静に考える事が出来る自分にちょっと驚いている。
俺はその、きっかけとなったであろう事を忘れていた。
思い出さないようにしていた。思い出したくなかった。
俺の『義理の姉』が言った冗談に過剰反応して逃げ出した後日、後日だぞ?最悪な連鎖だと思わないか?
阿部瑠が踏み込んできやがったんだ。
俺の、死にかけた心の中に。
もちろん阿部瑠は俺のそんな事情など知らんし、俺の精神状態がどういう具合なのかなど知るはずがない。
俺は、奴の告白を受け取れなかった。
受け付けなかったのだ、精神的にそんな余裕があるはずが無い。
怖くて怖くて、それどころじゃぁなかったのだ。
断って彼女を失望させた後、俺は何をやっているんだろうと漠然と頭を抱えたのは言うまでもないよな。
全ての言い訳は後で生まれた。
知っているよ俺、理由とかは全部、全部……全てが終わってから辻褄合わせに『作られる』んだ。
俺は奴を振った理由に当る物語を後から作って取っつけて、それが真実だと自分自信を騙そうとしたんだ。
自分でもどうしてそういう結末を選んだのかよく分からない。
原因となったであろうつまらない出来事を、俺は負った傷の痛みから存在しないと決めつけていたのだから……正しい答えなど出るはずもない。
その後も騒動は終わらず、俺がどれだけの鬱状態に陥ったか、それ程想像に難しくはないだろうと思う。
友人達には感謝している、が。当時はその感謝という感情さえ俺は抱く事が出来ず、友人らは実にウザいと自分の殻の中に閉じこもった。大抵の奴は、その割れやすい卵をどのように扱って良いものか途方にくれるんだろう。
今は分かっている、自分で作った殻、あるいは蛹の繭。それは俺自身でかち割って外に出なきゃいけない行けないと云う事。だからこそ溶けてグチャグチャになっている俺に対し、友人らは静かに距離を置いて一切触れずにおいてくれたんだ。
ただ唯一ナッツだけが、俺の作った殻を壊す事も構わずに外側から、さっさと出てこいと叩き続けてくれた。
いや、そんなに乱暴なイメージじゃないかもしれないが、あの時中にいた俺には乱暴にも思えた。
実際ナッツは軽くノックをし続けたに過ぎないのかもしれない。
全てが存在を無視してくれる中、奴だけがこまめに俺の部屋を尋ねてきては当たり障りのない程度で、調子はどうだと声を掛けてくれた。ただ、それだけ。
一度だけ説教臭い事言ったかな。
誰にも言いたくないようなバカらしい自分だけの世界ってのは……誰にでも在るものだよ、とか何とか。俺の独り言だから背負うなよって前置きしてさ。
完全に鬱入ってぶっ倒れた俺に向けて、ナッツが色々あの手この手で応援してくれたのを思い出している。
ただ、それからどうやってなんとかバイトが出来るまでに立ち直ったのか良く憶えていない。
同時に……当時何をそんなに煮詰まって考えていたのかも。
思い出している。
それは、思い出す事が出来る過去に昇華出来たという事なのだろうか……と。夢の中に混じり込んできた夢を反復し、俺は布団を除けて無意味に畳みながら起き上がる。
義理の姉?そんなの俺に居たんだ?って……居て悪いか?
……あれは困った生物だよな。
紙切れ一枚、届けられた契約の元家族になった赤の他人だ。好意は持ててもそこから深くは踏み込めない。踏み込んでは行けない。
義姉に対する俺の好意は、成就しないという理屈でもって歪み、嫌悪と拒絶に取って代わった。
その気持ちは今も変わらない。
気持ち、とかいうのは……俺の外側にある世界じゃないな。俺がどうこうしなければならない、俺の世界のモノだ。
勝手に変化はしない。俺が変えたいと願わない限り。
でも、姉貴に対する感情は変わらないのではない、変えようがかったんだ。俺が変えてもいい世界が、俺が変える事が出来ない世界に合致しない、相応しくないのだから仕方がない。
だから俺は、俺が抱いた感情を憎んだ。
変えられない世界に合わせ、俺が俺の世界を歪ませた。
怖いはずだ。
圧倒的な大きさの世界、その中にある圧倒的に小さな自分。
思い通りにならないに上にヘタするとこっちが影響受けて変わらなきゃ行けなくなるんだ。逃げたくもなる。
恋するも愛するも辛い、面倒だ。怖い。
またそうやって自分の世界を歪ませなければ行けなくなるのではないか、と思うと……俺には無理だった。誰かと番い、他人を隣に許し、そいつと一緒になるなんて大きな負担でしかなかった。ナッツみたいに好きで隣に居てくれるんじゃない。そいつは、阿部瑠は……俺の隣に居たいだけじゃない。奴の隣に俺が居て欲しいと願ったんだ。奴が俺の隣に座るだけじゃない。俺も奴の隣に腰掛けなきゃ行けないって事だ。
俺にはそう云う自主的な行動力が欠如していて、そうやって近づいていって他人が俺を認めてくれるのか、と云う事に不安一杯で。
弱虫でチキンで、一度の挫折からちゃんと立ち上がれていない俺にはきっとそんな、相互同等な関係は無理。
そう云う事だろ?
まるで、夢の中で誰かにそう言われたようで。
はっはっは……実にくだらん。
仮想世界から現実世界についてあれこれ干渉されるなんてどうかしているぞ、俺。
でもそれで、どうして世界の中から居なくなってしまいたいなんて思い詰めたのかはもう、思い出せない。
……うん、別に思い出さなくてもいいよなそんな気の病のどん底にあった時の気持ちなんて。
数年ぶりに俺は、一方的に送られてくるだけだったメールに返信を送る事にした。
くだらんと思いつつも実はしっかり、尻を叩かれちまってるよ。夢で見て、思い出した過去の出来事に……さ。
俺は苦笑しながら何年ぶりなのかさえ良く把握していない、血の繋がった妹への携帯アドレスに返事を送った。まずその前にゴミ箱振り分け設定を解除をしないとな……っと。
ええと、着信拒否にはしない所に俺のチキン属性が生きております。
思いの外素直に、苦もなく文章は出来た。そしてそれを、穏やかに送り出す。
送信画面を眺めて……迷惑だと思われる事はないだろうとひたすら苦笑が漏れる。きっかけはずっと欲しかったんだな、俺。
しっかし、女ってのはマメだよなぁ。すぐに返事返って来やがるし。
顔文字で表わされた喜びを見て俺は、安堵する。
健気な妹の気持ち、俺……分かってた。
阿部瑠とその姉カインの繋がりが素直に理解出来たのと同じく。兄弟姉妹ってのに流れている絆は特殊を飛び越えて不思議だ。
散々鈍感だとか言われたり、他人の気持ちなんか知るかと思っている俺だが……妹の気持ちは分かる。分からない、って事はない。俺が一方的に無視しているというのに懲りずに、あいつはずっと俺に、俺が一方的に疎遠にした家族の近況報告メール送って来やがるのだ。
……健気だろう?俺は一切返信を返してないんだ。ただ宛先不明で戻ってくる事はない、それだけで満足して俺の妹は、ずうっと俺にメールを送付し続けているんだぜ。
母親が再婚するまで俺らは二人の兄妹だった。親父がいない所為かな?間違いなく妹はお兄ちゃんっ子って奴だった気がする。ゲーム命のダメな兄貴だというのにずいぶん慕ってくれてさ。お陰で俺も色々やせ我慢が出来る時代もありました。
今は、辞めましたけど。
我慢しない事にして逃げまくる事にしたから俺は、妹とも距離を置いていた。
俺は再び我慢をしようと思う。
お兄ちゃんに戻る、手始めにそっから始めようと思った。
あぁ、休閑に余談でも挟みますがナッツさん家の兄弟はすこぶる仲が悪いンですよ。
ナッツは末弟なんだけど、兄と相性悪い上に趣味も違う。兄はゲーム・マンガジャンルに全く理解がないのだそうだ。意味もなく見下している所があるらしく、ナッツは兄貴の事は悪くしか言わない。逆に理解のない兄を下げすんでバカにしているくらいだ。憎み合ってるのとは根本的に違う。話題に上がると猛烈に存在を拒絶するタイプで、普段はそんな兄がいるということすら触れない。空気だ、互いに存在を無視しているように俺には思える……すさまじい、殺伐とした兄弟であったりする。
さらにバラしちゃうと姉は子ども連れて出戻ってきたとかで、そんな家族関係に辟易して一人暮らししてますからなぁ。
おかげでナッツは、俺と妹の仲が良い事をいつも羨ましがってた。
なわけで、奴は割と妹萌え属性があったりするぞ。ここだけの話だッ!
兄弟仲の良さは、俺に姉が出来てその果てに、崩壊した。崩壊させたのは俺で、姉でも妹でも父・母でもない。
……俺は姉貴が嫌いなんじゃない。ぶっちゃけよう、むしろ好きなんだ。
好きすぎて歪んだ。我慢出来ずに逃げ出す事にしたんだ。
あと、義理父もそんな悪い人じゃない……と思う。あんまり押しの強い人じゃない感じだったかな?お人好しな雰囲気があったかも。余り長く一つ屋根の下で暮らしていないので俺は、父親ってのがいまいち分からなかったりする。
実父は妹が生まれた頃に……事故で死んだし。
母親が嫌いというわけでもない。大好きって程依存はしてねぇけどな。一応、息子らしい嫉妬心はあったりして再婚するって話聞いて再婚かよ!という風にはなったけど。俺がゲームばっかりしている上に就職活動が完全に失敗したので色々危機感抱いたのかもしれん。それで再婚決意したんじゃないだろうか?
そう考えてしまうと悪く言うのはあまりにもガキっぽい気がして何も言えなかった。
むしろ母親の方が俺に依存している所はあったかもしれない。……いや、よくわからんけど……俺は、誰にも縋れないという感覚は少しあったような気がする。
そういう環境で生きてきて、姉が出来て、その姉がすげぇしっかりしてたりしたらどうよ。
やっぱ、好きになっちゃうだろ?家族的に依存癖あるんだし、べったりいきそうになる訳です。
家族になったのが遅すぎた。
家族として出会うべきじゃなかった。好きな人が出来て、それを昇華出来ないと次の恋は出来ないもんなんだな。俺は男で、一人に縛られるなんてもったいないとか考えているくせに不思議と……肉欲ではない、精神的な依存はそうではないみたいで。
誰にも転嫁出来ない思いをずっと抱える事になった。必死に他の女好きになろうと思ったけど無理だった。辛うじて……二次元?その当たりは別腹?必死に自分の萌えを開発しようとしたイタい時期がありました。
自分で勝手に破局した事にして、俺は姉貴と距離を置いていた。
それでもなかなか諦めない自分の気持ちに俺はどんどん自分が嫌になっていった。
ある日それがひっくり返った。
愛が憎に変わり、俺が俺に向けていた感情と、俺が姉に向けていた感情が逆転し……その感情の変化に惑った俺は逃げたんだ。
んー、そんな感じか。
今まで考えもしなかった、ひたすら逃げの一手だった事情を脳内整理してみている。……なんだかスッキリして来た。
昔程、姉に傾倒はしなくなった気がする。
大丈夫だ、今なら……逃げ出さずに姉貴の顔は見れる、気がする。
姉貴、きっと俺の態度に傷ついただろうなぁ。勝手な感情の所為で家庭を壊してしまった俺。その原因が自分にあるって姉貴は多分……気が付いているだろう。きっと傷ついている。
今更気が付いた訳じゃない……知っていた。
好きなのに、俺はあの人をもの凄く傷つけてしまった。
だからもう誰も傷つけたくない。それは理想で、その後阿部瑠にも同じような事してしまって。なんでこんなにアホな事を反復せねばならんのだと鬱になったんだ。
思い出しちまって今、かなりはっきり自覚している事がある。言ってすっきりしちゃっていいか?
やっぱり比べてみたら誰より俺は……姉貴が好きだ。
その感情があるから恐らく、誰も受け入れたくないのかもしれない。俺は割と姉貴への感情を諦めてない。
もちろん、だからといって誰かを振る理由にはならんよな。シスコンかよ!とか笑われるだけだ。笑われるに留まらないな、キモいアンタ、まで言われてしまう。
でも俺らは好きで姉弟になったんじゃねぇんだぞ?
義理の姉弟は一応、結婚は出来るのだがそんなの説明するのもアホらしいというか行きすぎているというか恥ずかしいというか。とにかく、世間一般的には姉弟の恋愛はタブーだ。
例外があるのだよ、などと裏技を仄めかしても、裏技であるが為に問答無用で拒絶する奴も多数いるだろう。
思いを告げてもいない、ただ一方的に逃げまどった恋。
終わりにしよう、姉貴とはただの姉弟の関係に戻るんだ。いや、最初からそうだけど。俺がそれを逸脱しようとしたから悪いわけで……少し、我慢すればそれでよかったわけで。
冷静に考えたら分かる。阿部瑠とのいざこざであれこれ言い訳考えた末に俺は、悟った。
あのしっかりとした姉貴に依存したいだけの俺は、男として姉貴に見合うはずがない。ダメだ。寄りかかるだけなら弟でいいじゃねぇか。別に誰も悪いとは言ってないし姉貴は、そんなダメな俺をちゃんと受け止めてくれると思う。
親友に依存し生きている、そんな俺の所に突然押しかけてきた阿部瑠。彼女を支えるだけの技量が俺にはない事を、親友との比較で思い知っている俺。
……俺は親友のナッツみたいには出来ないから、阿部瑠を受け入れるのが怖くて、自信が無くて……彼女を拒絶したんだろう。
なんで親友であるナッツの方に行かないんだろうって思ったりしたんだ。
アインは俺に条件を出した。
ちゃんと就職してなきゃダメ、と。
それは、そこら辺の事情は恋愛の前には関係ないのではなく……実際見合うに重要な所だと俺も思う。アインはしっかりリアルを見ている。謝る所じゃない。恋愛という空想の世界に生きるのは危険だ。
愛があればなんとかなる、世界が救われるだなんて事は無い、それは実にリアルではない。ゲーム世界とかドラマとかの中ではアリかもしれんけど。
現実を見なさい、とアインには言われている気がしたんだ。
仮想世界を経て少なからず、この人には寄りかかれるかもしれないと惚れてしまった人の言葉。
俺が彼女に近づいてしまった分、彼女の言葉は深く俺の胸に刺さった。痛い、痛いくらいに事実を突き付ける……ありがたい、警告の言葉だ。こういう事を言ってくれる人はある意味貴重なんだぞ、とナッツが言っていた。そうかもしれない。
レッドは夢を見ているのかもしれない。
トビラから続く、境界がどこだか分からない、夢の延長線上に俺を見ているのかもしれない。
ボクなら何も条件出しませんけどね、と……告げたあいつは。かつて俺が陥った盲目の状態と同じく、ただひたすら夢の世界を突っ走ってはいないか?
よかろう、ならば俺がガツンと奴の目を覚ませてやろう。
仮想にいる夜兎とは違うのだよヤトとは。
俺は、現実ではどこまでも佐藤ハヤトだって事を思い知らせてやろうと……そのように理屈を立ててみる俺だ。
ようするに、超ヘタレだぞ覚悟しやがれって事になる。それで破局するならそれでいいじゃん。思えば、関係が壊れるのがこれほど怖くない相手はいない。
不思議だ、レッドから嫌われても何も嫌だとは思わない気がする。阿部瑠から嫌われるのは嫌なのに。
そうやってお互い愛想尽かさず、何故だか上手く行くようだったらその時は、騙されていたのはレッドじゃなくて俺だって事だろう。
めんどくさいとか、そんな風に思わなかったのならきっと……思っているよりも馬が合いましたという結論でいいんじゃねぇの?
そのようなお膳立ての上。
俺はついに、念願の彼女居ない歴に終止符を打ったのであった。
ここでめでたしめでたし、とはいかない。
何しろこの冒険の書は恋愛シミュレーションゲームのソレではない。
どことなくぎこちなく契約完了となった俺達ではあるが……むしろ問題はこれからですよね、と双方ため息なのだ。
さ、俺はちゃんと支援体制整えましたから!あとはナッツさんの活躍に期待いたしましょう!
アルバイターとニートはフリータイムが結構あるからさくさく事が進むのだが、会社員と大学生はそう云う訳にも行かない。残念ながら修羅場は来週以降に持ち越しになったらしい報告をナッツから聞いている。
じゃぁ、その前に俺達トビラへログインしないとだ。
嫌が応にも一堂に会すのに、俺らの事情を阿部瑠相手に全員で黙ってなければいけない。
もちろん、それは俺とレッドが正式にお付合いをする事になりましたという事だが……うん、さっさと言ってやればいいのかもしれないけれどな。
それはまずナッツが動いた後の方が彼女の為だという、マツナギとアインのアドバイスがあってだな。それに従うことにしたのだ。
俺には女の気持はよく分からん、俺は男だし、女の事は女の方が分かるだろうと思うのでその忠告を素直に聞く事にした訳である。で、これはなぜか女の子の気持ちというものにものすごく疎いレッドも同じく。それでいいのかお前は……。
……不思議だ、今度は中の事情がリアルで繰返されているっぽいぞ。
いや、似ているだけで同じではない。
ああ、そうそう。実はテリーにだけは口が軽そうだという理由で……俺とレッドが付き合う事になった事情とかは話していない。
というか、本来はそんなに全員に事情をバラすつもりはなかったんだけどなぁ。なんかあっさりバレちまったんだよ。
レッドはマツナギとメージンの宿題とかの面倒見てるだろ?でその場に俺もちゃっかり居座っているだろ。
……女子大生目敏すぎる……。
すぐに俺らの間にある違和感に気が付いてそこで、あっさり事情が露見しました。で、阿部瑠は勿論の事、テリーにも言うな、その事情はこの通りだと説明して、黙っていて貰う事にしてある。
テリーの口の軽さを重々分かっているマツナギは快く了解してくれました。で、何で女子はそういう話でここまで楽しくなれるのかよく分からんが……散々経緯とかを根掘り葉掘り聞かれましたとも……。
メージンにはまだちょっと刺激が強すぎたかもしれない。すまんなぁ、のろけで。
さて、今この場で一番重圧受けているのは……俺やレッドではなく実はナッツなのだが。奴はすごいよな、何も無いかのようにいつもの通りだ。……俺には真似出来そうにない。
俺はログインを控えリアル顔を一同に会した状態で、マトモに阿部瑠の顔を見れそうにない。
アインさんとマツナギは自重した方が良いです。俺をコソコソ伺っては小声で話し合うのは止してください。
阿部瑠だってあれで、目敏い女子なんだぞ?
4度目のログインを控え、早い夕飯を平らげた所……阿部瑠が雰囲気のおかしさに俺をつついて耳打ちしてきた。
「あんた、何かあった?」
チキンな俺に緊張するなという方が無理だ。あと、その訊き方はズルい。
「な、何もナイヨ?」
「ふぅん、何かあったんだ」
俺の否定は即ち肯定と取られるらしい。仕方がない、俺嘘吐き技能レベル低いしなぁ。言葉に信用性がないのは分かっている、上手く答えられる程騙しの技能についてもレベルはそんな高くないのだ。
「お姉ちゃんも首かしげてるのよ、アインの様子がおかしいって」
「いや?別におかしくないだろ?」
「アンタ、何かやった?」
「アインの様子がおかしいので、なんで俺の所為になる」
これは……どうやらダミーに引っかかっているようですね。あ、だからアインはわざとらしさを出しているのか?だとするなら気を回してくれて感謝だ。……ダミーちらつかせておかないとマズいくらい俺とレッドの態度はバレバレって事?うへ、お手数おかけいたします。そんなレッドは阿部瑠と顔を合わせるのを恐れてなるべく彼女に近づかないようにしている。実に賢明だ。
「彼女が反応するって事は、そういうネタな事でもあったって事じゃない。……なっつんはそういうの一切顔に出さないしさ」
その通り。奴はパーフェクトだッ!
社員食堂なので、食器が乗ってるお盆を返さなければいけない。
俺と阿部瑠はあえて最後に席を立ち、その間に小声で話していた。俺だって出来るなら阿部瑠の視界に入らない所に逃げたいのだが、奴がターゲットに入れてくるのだから逃げようがない。
「あんた、トビラの中でアインの事……好きとか言ってるし」
躊躇しながら言わんでもいいわい、俺はその様子に思わず苦笑してしまう。
「小動物は反則だよなぁ、あれは好きにもなるだろ」
そして、そのように答えをはぐらかしておいた。
「ヤト、」
「そうだな、どうにも顔をチラチラ見られている気はするが……アレだろ?また余計な妄想でも働かせてるんじゃねぇの?」
実際問題その可能性も十二分にあって俺は怖い。
トビラを潜る。
前回ログアウトはどこだったのだろう?R・リコレクトしてみたが結局はっきり分からなかった。そのあたり、まだグランドセーブが落ちてないのかもしれない。
ログインして見りゃ分かるだろう。4回目だ、いい加減ログとの付き合いにも慣れてきた。無理に思い出そうとしたって思い出せないモノは何をしても思い出せない。
全部を思い出す必要なんて無い。それは、思い出さなくても良いんだ。
鎧を着て、戦士ヤトとなった俺はそのように斜め上の経験値振り分け窓を眺めながら思い出している。
俺が降り立つ肉体はもはや、偽物だ。経験値をいくら振り込んだ所で……世界が正常化した暁にはそれらも全て消え失せるだろう。
一応ダメ元で足掻いては見るつもりではいるけど高望みはしないで置こうと思う。あと、ダメだからといってログインしないで、入る前から諦めるって訳にもいかない。
自分の命の価値が極限にまで下がり、見事に勇者へのジョブチェンジ条件を満たしている俺だ。成ってやるさ、イタい勇者になってやろうじゃねぇかよ。
勇者ってのは生きている間に名乗るべき称号じゃねぇ。
死んで初めて被せられるもんだ。
誰かの望みや、祈りに依存しない。俺は俺の望みで魔王八逆星を倒す。
そうする事で世界が救われる。そうする事で、俺が大切だと思う者が、その思いが守られる。
命を捨てる理由が必要ならば、魔王討伐はこれ以上にない理由になるだろう。もちろん、だからイタタなんですけどね。
俺は魔王八逆星の連中と大差ない所まで来ているよな。
奴らなんか酷いだろ、命を差し出す理由が必要だからと悪事働いている所がある。最悪だ、勝手にやってろと言いたい所なのだが……誰か相手にしてやらないとまずいんですよね、世界を成り立たせるバランス的に。
魔王と勇者の供給と需要が合致してしまったのだ。
俺は苦笑して……経験値を全て能力値に振り込んでいく。ファンブルして経験値マイナスにはならんように在る程度の経験値は残し……あとは、戦士ヤトの『可能性』につぎ込んでおいた。
もぅ、ここまできたらどんな結果に落ち着いてもいいや。
俺のこの笑みは多分、そういう種類のものだと思う。
トビラを潜る。
狂おしい程のこの思いは何だ?
心の底から沸き上がってくる果てしない飢えに似た感覚。
その根本にある喪失感、どこまでも落ち込んでいくような錯覚。
なんだ?これは、一体どこから流れ込んでくる?
定まらない視点を泳がせる。音が聞こえない。ここはどこだ?
大丈夫だ、俺は無事戻ってきた。
トビラの中に、八精霊大陸の世界へ。
囚われている、そんな漠然とした不安を感じ即座否定する。
違う、俺の両手は自由だ。
何処にも行けない、そんな事はない。どこにも閉じこめられてはいない。
かつて闘技場で飼われていた身分は脱した。
自由だ、圧倒的自由、面食らう程の、何をすればいいのか途方に暮れる程の。
ようやく視点が定まって俺は、顔を上げた。
音が聞こえないんじゃなくて、もの凄い静かだっただけ、か。
薄暗い、建物の中。
瞳孔が光の調整を行い……広い空間の中に無数の鎧を纏った者達が倒れているのが見いだせる。
……ん?なんだ、ここは?
潮の匂い……を、嗅いでいるような幻覚。
黒い海、それは海じゃない。だって黒い、臭い、潮の匂い?腐った匂い、気持ち悪い。
断崖絶壁、コンクリートの岸、手の届かない波……触れるも汚らわしい、汚い。
それでも波が打ち寄せるその音は聞き慣れている。
寄せては返す、波の音。それだけがリアル。
ごめんね、こんな所まで付き合わせちゃって。
長い髪をその、汚らわしい匂いの中に晒して……姉は距離を置いて背後に突っ立っているこちらを振り返って来る。
何を話しながらここまで来たのか憶えていない。思い出せない。……いや、実際にはそうではなく。
思い出したくない。
俺はその様に、反復している夢から逃げようと試みるんだけど……その時に心に負ったであろう傷の存在はどうしても忘れる事が出来ず、痛みと共に何度も繰り返す。
ねぇ、なんだかデートしているみたいよね。
彼女はそのように冗談で言ったって事は分かっている。分かってはいるが、頼む。
巫山戯んな、って俺はそう思って逆上してしまう。
今もそれは変わってない。
実に一方的な思い違いと妄想の果て、その場にいる事、姉と同じ空気を吸っている事に耐えられなくなって俺はその場から走って逃げた。
大変だったぜ、姉貴に車で拉致られて港の端っこまで来ていたからな。
ましな路線は敷かれて無いしタクシーも走ってないしコンビニもないし。そもそも金もそんな持ってなかったし。さらに雨なんかも降ってきたし。
無事某路線駅にたどり着いた時の安堵は凄まじいものがあった。どっと疲れが襲って来たが、まだ油断は出来ないと自分を律したもんだ。ここの路線無駄に高ぇんだよ!決して裕福ではない俺はうっかり駅を乗り過ごしたりしないように緊張を保って自分の家に帰った。金の余裕が真面目になかった。
部屋に帰ってしっかり扉を閉め、鍵を掛け、チェーンを巻いて携帯電話の電源もオフにして布団を頭の上から被って、自分がやらかした事の幼稚さにどん底まで落ちたような気分を味わった。
当時のバイトも無断欠勤で即クビだ。
彼女の気配がこの町から消えるまで、俺は一歩たりとも自宅を出なかった。
その間尋ねてくる者を全て拒否した。
いやま、それ程長い期間じゃないんだけど。
俺が引きこもった日数は一週間未満。そもそも備蓄食糧が乏しい。数日が限界なのだ。
そのまま誰も来なければ俺はどうなっていただろう?しかし、そうは成らず色々な都合で起き上がれなくなっていた俺は、合い鍵を持っているナッツが訪ねて来た事によりなんとか少しだけ持ち直したのを覚えている。
奴も年がら年中入り浸ってきている訳じゃない、仕事忙しい時はゲームどころじゃないみたいだし。その時はたまたま久し振りーという感じで訪ねてきたと思う。まさか俺が精神的に死んでいるとは思っていなかったようで相当驚かせ、慌てさせ、心配をかけさせてしまった。
起き上がる気力もなく布団の中で、消えて無くなってしまいたいと何度も自分の存在を否定しては考える。
どうやったら俺はこの世界から消えてしまえるだろう?
そんな不毛な事を頭の中だけで繰り返し考えていた。
てか、なんでそれを思い出す。
赤い夕焼けが差し込む中俺は目を覚まし、今見た夢を反復して額を抑えた。
もしかして、それがトリガー引いてねぇかって事でも言いたいのか?……くそ、嫌な思い出だ。
引き金になった現実の出来事……確かに、それはあるかもしれない。
この俺の鬱突入物語はソレで終わってないのだ。これは単なる入り口にすぎない訳で、ここから全てが狂ったと言えばそうかもしれない……と、今さらだが冷静に考える事が出来る自分にちょっと驚いている。
俺はその、きっかけとなったであろう事を忘れていた。
思い出さないようにしていた。思い出したくなかった。
俺の『義理の姉』が言った冗談に過剰反応して逃げ出した後日、後日だぞ?最悪な連鎖だと思わないか?
阿部瑠が踏み込んできやがったんだ。
俺の、死にかけた心の中に。
もちろん阿部瑠は俺のそんな事情など知らんし、俺の精神状態がどういう具合なのかなど知るはずがない。
俺は、奴の告白を受け取れなかった。
受け付けなかったのだ、精神的にそんな余裕があるはずが無い。
怖くて怖くて、それどころじゃぁなかったのだ。
断って彼女を失望させた後、俺は何をやっているんだろうと漠然と頭を抱えたのは言うまでもないよな。
全ての言い訳は後で生まれた。
知っているよ俺、理由とかは全部、全部……全てが終わってから辻褄合わせに『作られる』んだ。
俺は奴を振った理由に当る物語を後から作って取っつけて、それが真実だと自分自信を騙そうとしたんだ。
自分でもどうしてそういう結末を選んだのかよく分からない。
原因となったであろうつまらない出来事を、俺は負った傷の痛みから存在しないと決めつけていたのだから……正しい答えなど出るはずもない。
その後も騒動は終わらず、俺がどれだけの鬱状態に陥ったか、それ程想像に難しくはないだろうと思う。
友人達には感謝している、が。当時はその感謝という感情さえ俺は抱く事が出来ず、友人らは実にウザいと自分の殻の中に閉じこもった。大抵の奴は、その割れやすい卵をどのように扱って良いものか途方にくれるんだろう。
今は分かっている、自分で作った殻、あるいは蛹の繭。それは俺自身でかち割って外に出なきゃいけない行けないと云う事。だからこそ溶けてグチャグチャになっている俺に対し、友人らは静かに距離を置いて一切触れずにおいてくれたんだ。
ただ唯一ナッツだけが、俺の作った殻を壊す事も構わずに外側から、さっさと出てこいと叩き続けてくれた。
いや、そんなに乱暴なイメージじゃないかもしれないが、あの時中にいた俺には乱暴にも思えた。
実際ナッツは軽くノックをし続けたに過ぎないのかもしれない。
全てが存在を無視してくれる中、奴だけがこまめに俺の部屋を尋ねてきては当たり障りのない程度で、調子はどうだと声を掛けてくれた。ただ、それだけ。
一度だけ説教臭い事言ったかな。
誰にも言いたくないようなバカらしい自分だけの世界ってのは……誰にでも在るものだよ、とか何とか。俺の独り言だから背負うなよって前置きしてさ。
完全に鬱入ってぶっ倒れた俺に向けて、ナッツが色々あの手この手で応援してくれたのを思い出している。
ただ、それからどうやってなんとかバイトが出来るまでに立ち直ったのか良く憶えていない。
同時に……当時何をそんなに煮詰まって考えていたのかも。
思い出している。
それは、思い出す事が出来る過去に昇華出来たという事なのだろうか……と。夢の中に混じり込んできた夢を反復し、俺は布団を除けて無意味に畳みながら起き上がる。
義理の姉?そんなの俺に居たんだ?って……居て悪いか?
……あれは困った生物だよな。
紙切れ一枚、届けられた契約の元家族になった赤の他人だ。好意は持ててもそこから深くは踏み込めない。踏み込んでは行けない。
義姉に対する俺の好意は、成就しないという理屈でもって歪み、嫌悪と拒絶に取って代わった。
その気持ちは今も変わらない。
気持ち、とかいうのは……俺の外側にある世界じゃないな。俺がどうこうしなければならない、俺の世界のモノだ。
勝手に変化はしない。俺が変えたいと願わない限り。
でも、姉貴に対する感情は変わらないのではない、変えようがかったんだ。俺が変えてもいい世界が、俺が変える事が出来ない世界に合致しない、相応しくないのだから仕方がない。
だから俺は、俺が抱いた感情を憎んだ。
変えられない世界に合わせ、俺が俺の世界を歪ませた。
怖いはずだ。
圧倒的な大きさの世界、その中にある圧倒的に小さな自分。
思い通りにならないに上にヘタするとこっちが影響受けて変わらなきゃ行けなくなるんだ。逃げたくもなる。
恋するも愛するも辛い、面倒だ。怖い。
またそうやって自分の世界を歪ませなければ行けなくなるのではないか、と思うと……俺には無理だった。誰かと番い、他人を隣に許し、そいつと一緒になるなんて大きな負担でしかなかった。ナッツみたいに好きで隣に居てくれるんじゃない。そいつは、阿部瑠は……俺の隣に居たいだけじゃない。奴の隣に俺が居て欲しいと願ったんだ。奴が俺の隣に座るだけじゃない。俺も奴の隣に腰掛けなきゃ行けないって事だ。
俺にはそう云う自主的な行動力が欠如していて、そうやって近づいていって他人が俺を認めてくれるのか、と云う事に不安一杯で。
弱虫でチキンで、一度の挫折からちゃんと立ち上がれていない俺にはきっとそんな、相互同等な関係は無理。
そう云う事だろ?
まるで、夢の中で誰かにそう言われたようで。
はっはっは……実にくだらん。
仮想世界から現実世界についてあれこれ干渉されるなんてどうかしているぞ、俺。
でもそれで、どうして世界の中から居なくなってしまいたいなんて思い詰めたのかはもう、思い出せない。
……うん、別に思い出さなくてもいいよなそんな気の病のどん底にあった時の気持ちなんて。
数年ぶりに俺は、一方的に送られてくるだけだったメールに返信を送る事にした。
くだらんと思いつつも実はしっかり、尻を叩かれちまってるよ。夢で見て、思い出した過去の出来事に……さ。
俺は苦笑しながら何年ぶりなのかさえ良く把握していない、血の繋がった妹への携帯アドレスに返事を送った。まずその前にゴミ箱振り分け設定を解除をしないとな……っと。
ええと、着信拒否にはしない所に俺のチキン属性が生きております。
思いの外素直に、苦もなく文章は出来た。そしてそれを、穏やかに送り出す。
送信画面を眺めて……迷惑だと思われる事はないだろうとひたすら苦笑が漏れる。きっかけはずっと欲しかったんだな、俺。
しっかし、女ってのはマメだよなぁ。すぐに返事返って来やがるし。
顔文字で表わされた喜びを見て俺は、安堵する。
健気な妹の気持ち、俺……分かってた。
阿部瑠とその姉カインの繋がりが素直に理解出来たのと同じく。兄弟姉妹ってのに流れている絆は特殊を飛び越えて不思議だ。
散々鈍感だとか言われたり、他人の気持ちなんか知るかと思っている俺だが……妹の気持ちは分かる。分からない、って事はない。俺が一方的に無視しているというのに懲りずに、あいつはずっと俺に、俺が一方的に疎遠にした家族の近況報告メール送って来やがるのだ。
……健気だろう?俺は一切返信を返してないんだ。ただ宛先不明で戻ってくる事はない、それだけで満足して俺の妹は、ずうっと俺にメールを送付し続けているんだぜ。
母親が再婚するまで俺らは二人の兄妹だった。親父がいない所為かな?間違いなく妹はお兄ちゃんっ子って奴だった気がする。ゲーム命のダメな兄貴だというのにずいぶん慕ってくれてさ。お陰で俺も色々やせ我慢が出来る時代もありました。
今は、辞めましたけど。
我慢しない事にして逃げまくる事にしたから俺は、妹とも距離を置いていた。
俺は再び我慢をしようと思う。
お兄ちゃんに戻る、手始めにそっから始めようと思った。
あぁ、休閑に余談でも挟みますがナッツさん家の兄弟はすこぶる仲が悪いンですよ。
ナッツは末弟なんだけど、兄と相性悪い上に趣味も違う。兄はゲーム・マンガジャンルに全く理解がないのだそうだ。意味もなく見下している所があるらしく、ナッツは兄貴の事は悪くしか言わない。逆に理解のない兄を下げすんでバカにしているくらいだ。憎み合ってるのとは根本的に違う。話題に上がると猛烈に存在を拒絶するタイプで、普段はそんな兄がいるということすら触れない。空気だ、互いに存在を無視しているように俺には思える……すさまじい、殺伐とした兄弟であったりする。
さらにバラしちゃうと姉は子ども連れて出戻ってきたとかで、そんな家族関係に辟易して一人暮らししてますからなぁ。
おかげでナッツは、俺と妹の仲が良い事をいつも羨ましがってた。
なわけで、奴は割と妹萌え属性があったりするぞ。ここだけの話だッ!
兄弟仲の良さは、俺に姉が出来てその果てに、崩壊した。崩壊させたのは俺で、姉でも妹でも父・母でもない。
……俺は姉貴が嫌いなんじゃない。ぶっちゃけよう、むしろ好きなんだ。
好きすぎて歪んだ。我慢出来ずに逃げ出す事にしたんだ。
あと、義理父もそんな悪い人じゃない……と思う。あんまり押しの強い人じゃない感じだったかな?お人好しな雰囲気があったかも。余り長く一つ屋根の下で暮らしていないので俺は、父親ってのがいまいち分からなかったりする。
実父は妹が生まれた頃に……事故で死んだし。
母親が嫌いというわけでもない。大好きって程依存はしてねぇけどな。一応、息子らしい嫉妬心はあったりして再婚するって話聞いて再婚かよ!という風にはなったけど。俺がゲームばっかりしている上に就職活動が完全に失敗したので色々危機感抱いたのかもしれん。それで再婚決意したんじゃないだろうか?
そう考えてしまうと悪く言うのはあまりにもガキっぽい気がして何も言えなかった。
むしろ母親の方が俺に依存している所はあったかもしれない。……いや、よくわからんけど……俺は、誰にも縋れないという感覚は少しあったような気がする。
そういう環境で生きてきて、姉が出来て、その姉がすげぇしっかりしてたりしたらどうよ。
やっぱ、好きになっちゃうだろ?家族的に依存癖あるんだし、べったりいきそうになる訳です。
家族になったのが遅すぎた。
家族として出会うべきじゃなかった。好きな人が出来て、それを昇華出来ないと次の恋は出来ないもんなんだな。俺は男で、一人に縛られるなんてもったいないとか考えているくせに不思議と……肉欲ではない、精神的な依存はそうではないみたいで。
誰にも転嫁出来ない思いをずっと抱える事になった。必死に他の女好きになろうと思ったけど無理だった。辛うじて……二次元?その当たりは別腹?必死に自分の萌えを開発しようとしたイタい時期がありました。
自分で勝手に破局した事にして、俺は姉貴と距離を置いていた。
それでもなかなか諦めない自分の気持ちに俺はどんどん自分が嫌になっていった。
ある日それがひっくり返った。
愛が憎に変わり、俺が俺に向けていた感情と、俺が姉に向けていた感情が逆転し……その感情の変化に惑った俺は逃げたんだ。
んー、そんな感じか。
今まで考えもしなかった、ひたすら逃げの一手だった事情を脳内整理してみている。……なんだかスッキリして来た。
昔程、姉に傾倒はしなくなった気がする。
大丈夫だ、今なら……逃げ出さずに姉貴の顔は見れる、気がする。
姉貴、きっと俺の態度に傷ついただろうなぁ。勝手な感情の所為で家庭を壊してしまった俺。その原因が自分にあるって姉貴は多分……気が付いているだろう。きっと傷ついている。
今更気が付いた訳じゃない……知っていた。
好きなのに、俺はあの人をもの凄く傷つけてしまった。
だからもう誰も傷つけたくない。それは理想で、その後阿部瑠にも同じような事してしまって。なんでこんなにアホな事を反復せねばならんのだと鬱になったんだ。
思い出しちまって今、かなりはっきり自覚している事がある。言ってすっきりしちゃっていいか?
やっぱり比べてみたら誰より俺は……姉貴が好きだ。
その感情があるから恐らく、誰も受け入れたくないのかもしれない。俺は割と姉貴への感情を諦めてない。
もちろん、だからといって誰かを振る理由にはならんよな。シスコンかよ!とか笑われるだけだ。笑われるに留まらないな、キモいアンタ、まで言われてしまう。
でも俺らは好きで姉弟になったんじゃねぇんだぞ?
義理の姉弟は一応、結婚は出来るのだがそんなの説明するのもアホらしいというか行きすぎているというか恥ずかしいというか。とにかく、世間一般的には姉弟の恋愛はタブーだ。
例外があるのだよ、などと裏技を仄めかしても、裏技であるが為に問答無用で拒絶する奴も多数いるだろう。
思いを告げてもいない、ただ一方的に逃げまどった恋。
終わりにしよう、姉貴とはただの姉弟の関係に戻るんだ。いや、最初からそうだけど。俺がそれを逸脱しようとしたから悪いわけで……少し、我慢すればそれでよかったわけで。
冷静に考えたら分かる。阿部瑠とのいざこざであれこれ言い訳考えた末に俺は、悟った。
あのしっかりとした姉貴に依存したいだけの俺は、男として姉貴に見合うはずがない。ダメだ。寄りかかるだけなら弟でいいじゃねぇか。別に誰も悪いとは言ってないし姉貴は、そんなダメな俺をちゃんと受け止めてくれると思う。
親友に依存し生きている、そんな俺の所に突然押しかけてきた阿部瑠。彼女を支えるだけの技量が俺にはない事を、親友との比較で思い知っている俺。
……俺は親友のナッツみたいには出来ないから、阿部瑠を受け入れるのが怖くて、自信が無くて……彼女を拒絶したんだろう。
なんで親友であるナッツの方に行かないんだろうって思ったりしたんだ。
アインは俺に条件を出した。
ちゃんと就職してなきゃダメ、と。
それは、そこら辺の事情は恋愛の前には関係ないのではなく……実際見合うに重要な所だと俺も思う。アインはしっかりリアルを見ている。謝る所じゃない。恋愛という空想の世界に生きるのは危険だ。
愛があればなんとかなる、世界が救われるだなんて事は無い、それは実にリアルではない。ゲーム世界とかドラマとかの中ではアリかもしれんけど。
現実を見なさい、とアインには言われている気がしたんだ。
仮想世界を経て少なからず、この人には寄りかかれるかもしれないと惚れてしまった人の言葉。
俺が彼女に近づいてしまった分、彼女の言葉は深く俺の胸に刺さった。痛い、痛いくらいに事実を突き付ける……ありがたい、警告の言葉だ。こういう事を言ってくれる人はある意味貴重なんだぞ、とナッツが言っていた。そうかもしれない。
レッドは夢を見ているのかもしれない。
トビラから続く、境界がどこだか分からない、夢の延長線上に俺を見ているのかもしれない。
ボクなら何も条件出しませんけどね、と……告げたあいつは。かつて俺が陥った盲目の状態と同じく、ただひたすら夢の世界を突っ走ってはいないか?
よかろう、ならば俺がガツンと奴の目を覚ませてやろう。
仮想にいる夜兎とは違うのだよヤトとは。
俺は、現実ではどこまでも佐藤ハヤトだって事を思い知らせてやろうと……そのように理屈を立ててみる俺だ。
ようするに、超ヘタレだぞ覚悟しやがれって事になる。それで破局するならそれでいいじゃん。思えば、関係が壊れるのがこれほど怖くない相手はいない。
不思議だ、レッドから嫌われても何も嫌だとは思わない気がする。阿部瑠から嫌われるのは嫌なのに。
そうやってお互い愛想尽かさず、何故だか上手く行くようだったらその時は、騙されていたのはレッドじゃなくて俺だって事だろう。
めんどくさいとか、そんな風に思わなかったのならきっと……思っているよりも馬が合いましたという結論でいいんじゃねぇの?
そのようなお膳立ての上。
俺はついに、念願の彼女居ない歴に終止符を打ったのであった。
ここでめでたしめでたし、とはいかない。
何しろこの冒険の書は恋愛シミュレーションゲームのソレではない。
どことなくぎこちなく契約完了となった俺達ではあるが……むしろ問題はこれからですよね、と双方ため息なのだ。
さ、俺はちゃんと支援体制整えましたから!あとはナッツさんの活躍に期待いたしましょう!
アルバイターとニートはフリータイムが結構あるからさくさく事が進むのだが、会社員と大学生はそう云う訳にも行かない。残念ながら修羅場は来週以降に持ち越しになったらしい報告をナッツから聞いている。
じゃぁ、その前に俺達トビラへログインしないとだ。
嫌が応にも一堂に会すのに、俺らの事情を阿部瑠相手に全員で黙ってなければいけない。
もちろん、それは俺とレッドが正式にお付合いをする事になりましたという事だが……うん、さっさと言ってやればいいのかもしれないけれどな。
それはまずナッツが動いた後の方が彼女の為だという、マツナギとアインのアドバイスがあってだな。それに従うことにしたのだ。
俺には女の気持はよく分からん、俺は男だし、女の事は女の方が分かるだろうと思うのでその忠告を素直に聞く事にした訳である。で、これはなぜか女の子の気持ちというものにものすごく疎いレッドも同じく。それでいいのかお前は……。
……不思議だ、今度は中の事情がリアルで繰返されているっぽいぞ。
いや、似ているだけで同じではない。
ああ、そうそう。実はテリーにだけは口が軽そうだという理由で……俺とレッドが付き合う事になった事情とかは話していない。
というか、本来はそんなに全員に事情をバラすつもりはなかったんだけどなぁ。なんかあっさりバレちまったんだよ。
レッドはマツナギとメージンの宿題とかの面倒見てるだろ?でその場に俺もちゃっかり居座っているだろ。
……女子大生目敏すぎる……。
すぐに俺らの間にある違和感に気が付いてそこで、あっさり事情が露見しました。で、阿部瑠は勿論の事、テリーにも言うな、その事情はこの通りだと説明して、黙っていて貰う事にしてある。
テリーの口の軽さを重々分かっているマツナギは快く了解してくれました。で、何で女子はそういう話でここまで楽しくなれるのかよく分からんが……散々経緯とかを根掘り葉掘り聞かれましたとも……。
メージンにはまだちょっと刺激が強すぎたかもしれない。すまんなぁ、のろけで。
さて、今この場で一番重圧受けているのは……俺やレッドではなく実はナッツなのだが。奴はすごいよな、何も無いかのようにいつもの通りだ。……俺には真似出来そうにない。
俺はログインを控えリアル顔を一同に会した状態で、マトモに阿部瑠の顔を見れそうにない。
アインさんとマツナギは自重した方が良いです。俺をコソコソ伺っては小声で話し合うのは止してください。
阿部瑠だってあれで、目敏い女子なんだぞ?
4度目のログインを控え、早い夕飯を平らげた所……阿部瑠が雰囲気のおかしさに俺をつついて耳打ちしてきた。
「あんた、何かあった?」
チキンな俺に緊張するなという方が無理だ。あと、その訊き方はズルい。
「な、何もナイヨ?」
「ふぅん、何かあったんだ」
俺の否定は即ち肯定と取られるらしい。仕方がない、俺嘘吐き技能レベル低いしなぁ。言葉に信用性がないのは分かっている、上手く答えられる程騙しの技能についてもレベルはそんな高くないのだ。
「お姉ちゃんも首かしげてるのよ、アインの様子がおかしいって」
「いや?別におかしくないだろ?」
「アンタ、何かやった?」
「アインの様子がおかしいので、なんで俺の所為になる」
これは……どうやらダミーに引っかかっているようですね。あ、だからアインはわざとらしさを出しているのか?だとするなら気を回してくれて感謝だ。……ダミーちらつかせておかないとマズいくらい俺とレッドの態度はバレバレって事?うへ、お手数おかけいたします。そんなレッドは阿部瑠と顔を合わせるのを恐れてなるべく彼女に近づかないようにしている。実に賢明だ。
「彼女が反応するって事は、そういうネタな事でもあったって事じゃない。……なっつんはそういうの一切顔に出さないしさ」
その通り。奴はパーフェクトだッ!
社員食堂なので、食器が乗ってるお盆を返さなければいけない。
俺と阿部瑠はあえて最後に席を立ち、その間に小声で話していた。俺だって出来るなら阿部瑠の視界に入らない所に逃げたいのだが、奴がターゲットに入れてくるのだから逃げようがない。
「あんた、トビラの中でアインの事……好きとか言ってるし」
躊躇しながら言わんでもいいわい、俺はその様子に思わず苦笑してしまう。
「小動物は反則だよなぁ、あれは好きにもなるだろ」
そして、そのように答えをはぐらかしておいた。
「ヤト、」
「そうだな、どうにも顔をチラチラ見られている気はするが……アレだろ?また余計な妄想でも働かせてるんじゃねぇの?」
実際問題その可能性も十二分にあって俺は怖い。
トビラを潜る。
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