美少女に【抜かれた】俺は賢者タイムで無双する

暁ノ鳥

文字の大きさ
8 / 10

第8章

しおりを挟む
 絶望。
 その一言が、今の俺たちの状況を完璧に表していた。

 どう考えても、詰んでいる。
 チェックメイトだ。
 
 魔獣の赤い瞳が、俺たちをゴミでも見るかのように見下ろしている。
 その口元が、ニィ、と歪んだ。
 嘲笑っている。
 こいつ、俺たちの絶望を喰らってやがる。

 ああ、終わった。
 短い異世界ライフだったな。

 レイナ、すまん。
 俺がもっと強ければ……。

 俺が全てを諦めかけた、その時だった。

 ガシャン! と、背後で何かが崩れる大きな音がした。
 さっきの炎攻撃の衝撃で、天井の一部が崩落したらしい。

 その音に、魔獣の二つの頭が、一瞬だけ、ほんの一瞬だけそちらを向いた。
 隙が、できた。

「今だ!」

 俺の体は、思考よりも先に動いていた。
 アドレナリンが全身を駆け巡り、信じられないような力が湧いてくる。

 俺はレイナの腕を掴むと、全力で引きずった。
 
「レン!?」
「いいから、こっちだ!」

 目指すは、広間の隅に山となっている、崩れた柱の瓦礫の山。
 あそこなら、少しは身を隠せるかもしれない。

 レイナを引きずり、瓦礫の影に転がり込むように身を滑り込ませる。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 狭い瓦礫の隙間で、俺とレイナは体を寄せ合い、息を殺す。
 心臓が、肋骨を叩き割って飛び出しそうなくらい、激しく鼓動している。

 レイナの荒い呼吸が、すぐ耳元で聞こえる。
 瓦礫の隙間から外を窺うと、魔獣が苛立ったようにあたりを嗅ぎまわっている。
 俺たちを見失ったわけじゃない。
 どこに隠れたか、探しているのだ。

 時間がない。
 長くはもたない。

 どうする。どうすればいい。
 何か、何か手は……。

 脳をフル回転させる。
 前世の知識、ゲームの攻略法、なろう小説の主人公ムーブ。

 だが、どれもこれも、目の前の圧倒的な「死」の前では、机上の空論に過ぎなかった。

 いや、一つだけ。
 一つだけ、ある。

 俺が、この化け物を打ち破る可能性のある、たった一つの方法が。

 だが、それは……。
 それは、あまりにも……。

 俺は、すぐ隣で肩で息をするレイナを見た。
 彼女の額には汗が滲み、その瞳には悔しさと、死への恐怖が浮かんでいる。

 彼女を、死なせたくない。
 この、太陽みたいな少女を、こんな場所で終わらせていいはずがない。

 覚悟を、決めろ。
 羞恥心と、仲間の命。
 天秤にかけるまでもないだろうが。

 俺は震える声で、彼女の名を呼んだ。
 
「……レイナ」
「……なに?」
「頼みが、あるんだ」
「頼み? こんな時に?」

 レイナが、怪訝な顔でこちらを見る。当然の反応だ。
 
「分かってる! 分かってるけど、これしか方法がないんだ!」
 
 俺の声は、自分でも情けないと思うくらい裏返っていた。
 
「俺には……特殊な能力がある。あれを、あの化け物を倒せるかもしれない、力が」
「本当なの!?」
 
 彼女の瞳に、わずかに希望の光が宿る。
 その光が、逆に俺の心を締め付けた。

 その期待に、俺は応えなければならない。
 どんなに、恥ずかしくても。

「でも、その力には……とんでもない条件があって……」
「条件?」
「ああ……その……なんて言えばいいか……」

 言葉が、喉の奥に張り付いて出てこない。
 顔が、燃えるように熱い。
 羞恥で死にそうだ。
 いや、このままじゃ本当に死ぬ。

 どっちの死を選ぶ? 答えは決まってる。

「はっきり言って! もう時間がないのよ!」
 
 レイナが、俺の肩を強く掴んだ。
 その必死な表情に、俺は腹を括った。

 もう、どうにでもなれ。
 俺は一度だけ固く目をつぶり、そして、俺の二つの人生における、史上最大級に屈辱的で、絶望的な告白を、一気に吐き出した。

「――俺は、抜いてもらった後でしか……射精した直後しか、魔法が使えないんだ!!」

 言った。
 言ってしまった。

 俺の秘密を、この、出会ったばかりの美少女に、全てぶちまけてしまった。

 シーン、と、瓦礫の隙間に、気まずい沈黙が流れる。

 魔獣の唸り声すら、遠くに聞こえるようだ。
 俺は恐る恐る目を開けて、レイナの顔を見た。

 彼女は、固まっていた。
 そのエメラルドグリーンの美しい瞳を、これでもかというくらい見開いて。

 ぽかんと、桜色の唇が半開きのまま。
 
 その表情は、驚きとか、怒りとか、呆れとか、そういう次元を遥かに超越していた。
 それは、未知の宇宙的真理に触れてしまった人間の、純度百パーセントの「無」の表情だった。
 
「……は?」

 やがて、彼女の唇から、かろうじてそんな単音が漏れ出た。

 その、あまりに間の抜けた一言を合図にしたかのように。
 
 グルオオオオオオッ!

 俺たちの隠れる瓦礫のすぐ向こうで、魔獣が勝利を確信したかのような、獰猛な咆哮を上げる。
 俺の告白は、ただただ気まずい空気を作っただけで、何の意味もなさずに終わるのか――。

 レイナの、呆然とした顔が、迫り来る炎の光に赤く照らし出されていた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

処理中です...