拝み屋一家の飯島さん。

創作屋 鬼聴

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コツコツさん

ハイヒール。⚠︎

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私は目の前の男の
素っ頓狂な提案に目を丸くする。

普通、初対面の女子大生に家に泊めてとか言う?
顔がよくてもありえない。

私は丁重にその提案をお断りした。


「まぁ、そりゃそうですよねぇ。

でも、白石さん…じゃなかった。

『コツコツさん』が、
どこまで貴女の家に近づいてるか、
知らないことにはなぁ‥てのが実情で」

飯島さんは困った様に
ヘラヘラ襟足を撫でる。

「白石さんって?」

唐突に出た名前を不思議に思って、
私は飯島さんに聞く。


「あの踏切で死んだ女子高生って
俺の親戚なんですよ。

白石麻耶しらいしまやっていう。

だから彼女が被害者を出してるってのは…

ちょっと拝み屋として
責任感じるというか」


なるほど、
それで私に声を掛けてきたのかな?
完全に不審者か、
ナンパだと思ったけど少し納得した。


「じゃあ、俺のこと泊めなくていいんで、
家まで送ってもいいですか?
貴女の足が今日、捥がれたら嫌ですし。」

うーん…
あの道を一人で歩くよりはマシか、
変な人だけど。


「うーん、じゃあお願いします。」

そう答えると飯島さんは
さっきまでの真面目な顔をコロッと笑顔に
変えて、ニコニコと軽い返事をした。


「はーい!この飯島にお任せあれ。」


なーんか‥この人
勿体無いイケメンって感じだなぁ

もっとこうクールに振舞ったら
最高にカッコイイだろうに‥

ま、余計なお世話か。


小さく溜息をついて窓の外を見ていると
頼んでいた料理が運ばれてくる。

私の頼んだカルボナーラと
飯島さんの頼んだ、ワインとホッケ定食。

‥ワインとホッケ定食って合うのかな?

カルボナーラを食べながらそんなことを考えていると飯島さんが箸でこちらを指差す。

「あ、楓さーん
こんな時間にカルボナーラとか太りますよ」


余計なお世話。
この人、絶対モテないわ。
私は彼を無視して、もくもくと食べ進めた。


「ねぇ、楓さん、聞いてますー?」

飯島さんはわざとらしい困り顔。

…ん?あれ…??
名前…教えていないはずなのになんで知ってるんだろ。
コンビニで名札を見てたのかな‥?


食事を終えると二人で
暗闇の中に静まり返った住宅街を歩いた。
もうすぐあの踏切を通る。

踏切まであと100メートルぐらい‥
どんどんどんどん、踏切は近づく。

いや
自分たちが近づいて行っているんだけど、

点滅する赤い光と遠くから聞こえるカンカンという音が不安を増幅させ、
私の心臓はバクバクと脈打つ。

また、アレに追いかけられると思うと
気が重い。私は気分を変えようと
前を歩く飯島さんに話しかける。


「あの、飯島さんは拝み屋さん?なんですよね?

これってお金かかったりします?
私、今月キツくって‥」


「ああ、お金なんていらないですよ!
白石のことは俺の責任だし、
他ならぬ楓さんの為なんで‥

俺、貴女が気に入ってるんですよ?」


飯島さんはそう言って、私の手をとる。
触れるその指は細くひんやりとしていた。

「は‥はぁ、そうですか、ならよかった、」

‥悪い人じゃなさそうだけど
私の何を気に入ってんだろ?やっぱナンパ?
でもなぁ私そんな美人じゃないし…
今スッピンだし。ただ軽いだけかな。

本当につかみどこのない変な人…

ピンヒール履いてるし。
‥ピンヒール?ふと私は立ち止まる。


「‥‥‥」

「楓さん?どうしたんですか?」


私はある可能性を考えた。
よく考えれば彼の言動は妙だ。

名乗っていないのに名前を知っていたし…
私の家に行くのに
何故か、前を歩いて先導している。


なにより彼が歩くと‥


「コツコツ」と聞き覚えのある音がする。


『コツコツさん』は霊などでなく、
彼がストーカーか何かで‥
私をつけていたのではないか??
…証拠はないけど…それなら辻褄が合う


だとしたら今はとても危険だ。


「ちょっと…?どうしたんですか?
楓さん。具合でも悪いんですか?」


飯島さんは私の肩に触れて
顔を覗き込む。心配そうな表情をした彼の
美しい顔が不気味な赤い光に照らされている。

私の顔からは血が引き、
バクバクと心臓が鳴る。

冷や汗がダラダラと流れて
私は拳を握りしめる。確証はない。
でも、逃げるべきだ。


「あの、やっぱり、私…一人で帰ります」


そう言って、逃げ出そうと走り出した瞬間
飯島さんが私の腕をガシッと掴んだ。

まるで‥『逃がさない』とでもいうみたいに。


「大丈夫ですか?どうしたんです?」


飯島さんは怪訝そうに腕を掴む力を強める。
彼の爪が二の腕に食い込み、鈍い痛みと共に
背にゾワッとした悪寒が駆け上る。

「…えっと…その」

心の中の何かが激しく警鐘を鳴らしている。
怖い‥!
今すぐこの人から逃げないと‥!


「はっ離してくださいっ!!」


私は全力で飯島さんを振り払い、走り出す。


「ちょっと!?楓さん?!
待ってください!」


飯島さんが後ろから追ってくる。


コツコツコツコツコツコツッ‥!


ああ!いつもの音がする!!!
やっぱりあの人だったんだ…!!

なんで私に接触してきたの?!何をするつもりだったの??
涙目になりながら、全力で走った。

私は踏切のバーを潜って通る、
すると急に足音は早くなる


コツコツコツコツッコツコツッ!!!!


「はぁっ‥はぁっ!!」


息も絶え絶えに私は
マンションのエレベーターボタンを押す。
何度もカシャカシャと急かすように。

階段なんて手段すら忘れるくらい
必死だった。


「早くっ!はやくきて‥っ!」


後ろからまだコツコツと音がする‥!!

とにかく恐ろしくって、
逃げることだけを考えた。
チラチラと背後を振り返りながら必死で
ボタンを押しているとエレベーターの到着を知らせる電子音が鳴り、
開ききっていないドアに滑り込む。


中に入るとすぐに閉めるボタンを連打し、
窓付きの扉が閉まった時‥



ベチャッッ‥


外から‥そんな音がした。

「え…??」

私はゆっくりエレベータードアについた
窓を見る。



「っ‥!!!?」


その窓から血まみれの女性が
此方を睨んでいた。

その女性はセーラー服を着ていて
上半身だけの体でエレベーターの窓に張り付いている。

胴体の真ん中で彼女の体は途切れ
中から赤黒い何かが、
デロリと尾を引くように垂れている。

ひじで歩いていたのだろうか、
彼女のひじは、ボロボロになり、
骨が露出している。

この骨を使って這いずる音だったんだ‥

‥"コツコツ“っていうのは‥

間違いない‥これが


『コツコツさん』だ。


飯島ではない。じゃあ…彼は…??

喉を潰されたみたいに声が出ない
驚きと恐怖で歯をガチガチと震わせることしかできない。
冷たい汗がダラダラながれて、
全身の血が抜かれたような感覚が襲ってくる。


そんな中、コツコツさんは窓越しに
何かパクパクと口を動かしている。


『…て、‥に‥‥て‥』


コツコツさんが口を開くとゴポゴポと
血が流れていく。その光景はあまりに恐ろしく

「はぁっ…!!あぁ…!!!ひっ…」


私は恐怖のあまりその場で気絶した。



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