拝み屋一家の飯島さん。

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えんのした様

えんのした様の噂

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パソコン画面には

黒い背景に白字で


"えんのした様の噂"


と書いてあった。


それを見て了さんは首を傾げる。

「"えんのした様"…。
えんのしたって、あの『縁の下』ですか。
縁側の床下の。」

新堀さんはそれを聞いてこくりと頷く。

「はい!そうっす。
まずは、廃屋の概要からお話しますね!

今回調査する廃屋は、
既に市のものになってて、ダムの建設の為に
解体する予定だったのですが…

解体しようとすると怪我人が多発!

作業員の何人かが黒い人影を
見たそうっす。」


それを聞いて、禊さんが
あぐらをかいた膝に
頬杖をついた。


「ふぅん…よくある話だね…
その影が"えんのした様"なのかな?」


無関心そうなポーズを取っているけど
目が面白いくらい輝いてる…


『ソワソワ』っていう
擬音をつけたいくらい。


「さぁどうでしょう?
一つの建物とはいえ、
怪異が同居している時もありますからね。」


了さんが至って冷静に返すと
新堀さんが続きを話し始める。


「解体が進まず
市が手をこまねいていると、

付近の子供達の間で
噂が流れ始めたんです。

それこそ!

"えんのした様の噂"っす。


廃屋の縁の下に
ボールを無くした子供の霊がいて、

誰かが、廃屋近くで遊んでいると


『返してください。返してください。』


と声が聞こえるんだそうです。


その子の探しているボールを返すと
願いが叶う、けれど


間違ったボールを中に投げ込むと

血塗れのボールが返ってくる。

そのボールを受け取ってしまうと、
その子の霊に殺されて
永遠にその子の遊び相手にさせられる…


…らしいです。」



それを聞いて禊さんが
背もたれにドサっともたれながら言う。

「ふうん…なんか意味わかんないね…
てか、縁の下の地面が坂になってるだけじゃ?」

何故か解らないが彼は急に
えんのした様への関心を無くした様だ。


「俺もそう思いましたけど、

現にこれをやった子供が
5人ほど行方不明のようですよ?
調べてみる甲斐はあります。」


了さんはノートパソコンのパネルを
トントンと叩いた。


すると画面がスクロールされて
行方不明の子たちの
写真がずらりとでてくる。


それを禊さんはグイッと覗き込む。


「5人…か、
偶然で片付けるには多いね」


二人は平然と資料に目を通す。


資料の中には参考なのか
ミイラやら人形やら
謎の呪文?が書かれたもの…
防空壕や廃マンションの写真とか…


まぁつまり、ありとあらゆる
気味の悪い写真が載っている。


「…二人とも…
いつもこんな仕事してるの…?」


「ええ、俺はたまにしますね。
こういうのとか、
神社仏閣とか、病院等の祓いとかです。

除霊系は得意ですから。

禊の方は人を呪殺したりする仕事をしてますね。適材適所ってやつです。」


「え…呪殺…」


「ちょ…ちょっと…了くんそれは語弊があるよ…」


禊さんはちょっと困った顔をした。
了さん対照的に
ニヤニヤと意地悪く笑う。


「語弊はありませんよぉ?

禊は小学校のクラスメイトを全員殺した、
生まれついてのスーパー呪殺師じゃあ
ないですかぁ??」



「え…?…そ…そうなの???」


私がアワアワキョロキョロしていると
了さんが膝に置いた私を後ろから
ギュッと抱き直す。


「ちょ…了くん…変な勘違いさせないで…
アレは…いじめられてて…!
ほら…死んでない奴もいるし…」


「楓さん。禊はねー、その力で
政治家なんかを殺したりしていまして、
飯島家の稼ぎ頭なんですよ?

怖いですねー?
近づいちゃダメですよ。」


そう言って了さんは私の頭を撫でる。


「もういいでしょ…それは…
ほら…資料見よ…。」


「はいはい。」


更に資料はスクロールされて
薄暗い廊下や古ぼけた仏壇、

ぼろぼろの廃屋全体の写真等が
が映し出される。


最後に例の縁の下の写真。


写真に映る縁の下は
どこまでも続いているように真っ暗だ。

気味の悪い写真ではある…
でも、変なところはない。


「うーん。行ってみないと
わからないですねー」


「そだね…僕にも、
ただの廃屋に見える…」


資料をスクロールし終えると、

その下には小さな文字で
"制作 新堀かえで"


「…へぇー新堀さんも私と同じ
"カエデ"なんだ。」


その画面を見ながら私は割とどうでもいい事実を知った。


「そーなんですよ!! 

しかも!了様が電話で
"俺、楓さんと結婚する事にしました"
なんて言うから!大騒ぎだったんす!!

ああー…了様イケメンだし、
玉の輿チャンスかと思ったのにー
残念…」


いやいや…了さんには
"イケメン"なんかじゃ
カバーできない欠点あるよね??

新堀さん的にはOKなの??


…代わってもらえるなら
代わって欲しい…。


そう思いながら呆れていると
了さんがまた私を抱きしめる。
脇腹を抱え込む手がくすぐったい。


「この俺が、新堀程度に惚れるわけ
無いでしょうが。ありえませんよ。」


「えー私だって
同じ"カエデちゃん"すよー?
ダメっすか?」


「ダメに決まってます。
俺にはもう水島楓さんしか
見えませんよ。俺一途なので。」


了さんは私の頭を優しく掴むと
そのまま引き寄せておでこにキスした。

…恥ずかしい…


「…今まで
取っ替え引っ替えだったくせに…」


禊さんかボソッと言う。
了さんは少しだけムッとした表情を作る。


「昔の話ですよ。ねぇ楓さん?

俺、とっても一途ですよね!
とっても優しいですよね!」

了さんの圧が凄い。


「…え、いやまだ会ってから
1週間も経ってないし…なんとも」


「もう!やだなぁ!楓さんたら!

楓さんがまだ五体満足なのは
俺の優しさと愛じゃないですか!ね!」


優しさと愛のラインが低い…

でも、禊さんは納得した様に

「まぁ、確かに。」

と頷く。確かになの??


そんな会話をしていると
唐突にカーナビの無機質な声がした。

『まもなく、目的地に到着します。
運転お疲れ様でした。』


そうして、車はザリっと砂利を蹴飛ばす音を立てて止まった。


『えんのした様』のいる廃屋の前で。


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みんなの感想(13件)

音無砂月
2022.07.08 音無砂月
ネタバレ含む
創作屋
2022.07.10 創作屋

いつもご感想ありがとうございます😄

了の中でもまだ、楓への感情が掴みきれていない。自分が彼女を特別に思っている事が不思議で仕方ない感じですね。

了はああ見えて不器用な男なので。


これからは大幅に、ホラーとロマンスに舵を切っていきたい所存です。

禊は了のことを恐れている様であり、
舐めている所もあります。
彼がどう動くかは今後のお楽しみです。

解除
音無砂月
2021.12.27 音無砂月

立て続けの更新、ありがとうございます\(^o^)/
仕事中だったから早く休憩時間になれと思ってました。

飯島家の恐ろしさがよく分かったけど、了が死霊に渡すとは思えないです。

解除
音無砂月
2021.12.25 音無砂月

了は以外と抜けてますね😅

禊の企みが気になります。
二人の関係にも大きく関わって来そう。

創作屋
2021.12.26 創作屋

ご感想本当にいつもありがとうございます!とっても励みになっております😊

了は本当に抜けているのか
わざと隙を見せているのか分からないところがありますねー。

禊のほうは
何故、楓に手を貸すかが
ポイントになってきますね。

解除
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