訛りがエグい田舎娘に扮した子爵令嬢のわたしが、可愛がった子犬に何故か求婚される話を聞きたいですか?

バナナマヨネーズ

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第一章 旅立ち(3)

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 アルシオーネの衝撃の言葉に石化したのは一瞬で、最初にセバスティアンが我に返って、アルシオーネを引き留める言葉を口にしていた。
 
「お嬢様、出稼ぎだなんてダメです。私めが何とか工面しますから、お考え直しください」

 しかし、アルシオーネに思いとどまって欲しいという思いを込めて言葉を発するも、逆に諫められてしまう結果となっていた。
 
「駄目よ。今だって、ほとんどお給料を受け取ってもらっていない状況じゃない」

 いつもは、困ったような眉をほんの少し吊り上げたアルシオーネは、セバスティアンを「めっ!」と叱るように言ったのだ。
 しかし、異論があるセバスティアンは、反論としては如何なものかと言うような反論を口にしていた。
 
「お給料だなんてとんでもない。お嬢様のお世話が出来ること自体がご褒美なのです。逆にお世話させていただくのに、お金をお支払いしたいくらいなのですからね!」

 セバスティアンのまさかの言葉に、アルシオーネは、「なにそれ……」と若干引き気味になってしまったのは仕方がなかったのだ。
 しかし、セバスティアンを援護するかのようにコックォもどうしようもない持論を持ち出してきたのだ。
 
「そうだぜ! お嬢が俺の料理を口にしてくれて、更には、美味しいって可愛く笑ってくれるだけで最高に幸せなんだよ! お嬢の幸せが俺にとっての給料なんだよ!」

「コックォ! 良く言いました! まさにお嬢様のお可愛らしい微笑みがあれば私は何もいらないのです!」

「マジでそれな!!」

 二人が互いを同士と手を取り合ってしまうのを見て、アルシオーネは、困り顔で頭を抱える事態となっていた。
 しかし、このままでは話が全く持って前進しないという確信があったアルシオーネは、コホンと、小さく咳払いをした後に顔を上げて異様なほどに盛り上がっている二人の会話を遮っていったのだ。
 
「セバスティアンとコックォがわたしのこと大切に思ってくれているのは十分理解できました。ですが、わたしはどこにでもいる普通の娘なので、寄せられる期待が大きすぎてしまうと、ちょっと辛いです……。でも、二人の気持ちは十分に分かりました。でも、それとこれとは別の話です!」

 一旦言葉を切ったアルシオーネは、何か言いたそうにしている二人に目で「聞いてください」という意思を込めて見つめた後に、ゆっくりっとした口調で話を再開させたのだ。
 
「聞いてください。借金を日々返済をしていますが、よく分からない利子がついて未だに大部分が残っている状態です。お父様のお知り合いの方がどのような契約の元借金をされたのか今になっては知ることが出来ません。そして、今のペースでは永遠に返済には至らないように思ったのです。でも、ここにいては何も変わらない……。それであれば、王都に出てバンバン稼げばいいと」

 そこまで言ったアルシオーネは、両手を広げて子爵たちに気持ちを伝えたのだ。
 
「わたし、今まで作ったお薬を使って王都で稼ぎます! 大丈夫です。みんなわたしのお薬は良く効くと言ってくれました。なので、自信のあるお薬を売って売って売りまくってお金を稼ぐんです!!」

 こぶしを握ってそう熱弁するアルシオーネに向かって、とんでもないとばかりに子爵は声を上げていた。
 その表情は、蒼白になっており、何かに怯えたかのようなものだった。
 
「駄目だ! お前のような美しい娘が王都に行ったら、絶対に変な男に目を付けられて……。あああ……。考えたくもない」

 嘆くようにそういう子爵を援護するかのようにセバスティアンとコックォも激しく頷いて同意を示した。
 しかし、自分の容姿を普通以下と思い込んでいるアルシオーネは、「もう、大げさよ」とまったく取り合わなかった。
 それどころか、見た目ではなく立場が問題なのだと勘違いを加速させることとなったのだ。
 子爵家の令嬢が王都で金儲けなど、みっともないということなのだろうと。
 そう考えたアルシオーネは、名案を閃いたというように瞳を輝かせた後に、「お父様、わたしは上手くやれるということをお見せします」と言って、一度執務室を出て、とある準備をしに研究室に向かったのだった。
 
 執務室に残された子爵たちは、互いに顔を見合わせて困惑顔だったが、数分でアルシオーネが戻ってきたのだが、その姿を見てあんぐりと口を広げる事態となったのだ。
 
 部屋に戻ってきたアルシオーネは、美しい真珠のようだった肌を浅黒いものに変えて、どうやったのか顔の輪郭も丸く変わっていたのだ。
 化粧を施したのか、ソバカスの散る頬と鼻、そして眠たそうに見える腫れぼったくなった瞼は、まるで別人のようだった。
 さらには、アルシオーネの言葉遣いが衝撃すぎて、誰も何も言えなくなってしまっていたのだ。
 
「おんまだせだがや。おっとう、せばすてあん、こっこー。こんがんばったら、でいじょうぶだば?」
(お待たせいたしました。お父様、セバスチャン、コックォ。これなら、だいじょうぶですよね?)

 アルシオーネの口から飛び出したには、トライベッカ領の一番端にある、ハッジーノ村の領民が口にする地方訛りだったのだ。
 何とか言っていることは理解できるが、本場さながらの流暢な訛りに呆気に取られてしまっていたのだ。
 しかし、それに気が付いていないアルシオーネは、コテンと首を小さく傾げていた。
 その仕草は、アルシオーネがどんな姿になっても、どんなにきつい訛りを口にしても、子爵たちには可愛らしい仕草だったのだ。
 その、いつもの可愛らしい仕草を見て我に返った子爵たちは、アルシオーネが何故そんな格好をしているのか分からずに説明を求めようとしたが、それよりも前にアルシオーネが自らその理由を口にしたのだ。
 
「わーが、子爵んどこの娘っ子だって、分かんねば、でいじょうぶだば。恥かかせねーですむ」
(わたしが、子爵家の令嬢だと知られないようにすれば大丈夫ですよね。そうすれば、恥を晒してしまうことを避けられます)

 アルシオーネのきつい訛りを何とか理解した子爵は、冷や汗を全身に掻きながらも困惑したように問いかけた。
 
「アルシオーネ? 私は別に、恥だなんて……」

 子爵の困惑を正しい意味で理解していないアルシオーネは、自信満々に胸を張って言ったのだ。
 
「わーんちも、貴族だってば。面子守んのもでいじだ。ほーなら、王都行っでも、わーはじょうずにすっけーから」
(わたしの家も貴族家であることに変わりありません。体面を守ることも大切です。これなら、王都に行っても上手くやっていけると思います)

 胸を逸らすように、自信満々にそう言うアルシオーネの姿は、アルシオーネを心底可愛がっている子爵たちには、とても可愛らしいものに映ったのだ。
 しかし、これとそれとはまた別の話だったが、一度決めたらそれを貫こうとするアルシオーネを良く知っている三人は、もう彼女を止めることは難しいと気が付いていたが、それでも、何かのはずみで気が変わってくれることを期待し続けたのだ。
 そして、アルシオーネが王都に立つ直前まで無駄な説得を続けたのは言うまでもなかった。
 
 こうして、アルシオーネは、お金を稼ぐという目的を持って、トライベッカ領を出て、王都に向かったのだった。

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