訛りがエグい田舎娘に扮した子爵令嬢のわたしが、可愛がった子犬に何故か求婚される話を聞きたいですか?

バナナマヨネーズ

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第二章 運命の出会いは突然に?(1)

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 アルシオーネは、辻馬車を乗り継ぎ、およそ二週間ほどで王都、トゥヨーに辿り着いていた。
 王都に着くまでの道中は平穏無事なものだった。
 
 王都に着いたアルシオーネは、着いたその足で商業ギルドに向かっていた。
 商売をするうえで、加入していて損はない組織だった。
 加入するのに色々と審査はあるものの、それを乗り越えられれば、商売する上で何かと助けになってくれるのが商業ギルドだった。
 例え、加入できなくとも、色々と商売に関する悩み事の相談にも乗ってくれる場所の為、まずはそこに行くとこをセバスティアンから言われていたのだ。
 セバスティアンは、元王国騎士団副団長という立場だったことと、商業ギルドのギルドマスターとは旧知の仲ということで、アルシオーネのために紹介状も書いていたのだ。
 その内容を知っていればアルシオーネは決してそれを商業ギルドに渡すことはなかっただろう。
 しかし、他の人に当てた手紙を覗き見るなどという考えを持っていないアルシオーネは、渡された手紙を疑うこともなくたどり着いた商業ギルドの受付の女性に渡していたのだ。
 
 商業ギルドの受付嬢は、日々いろいろな人を見てきたが、アルシオーネを見て最初に思ったのは、「なにこの田舎娘は?」だった。
 汚れてはいないが、異様にくたびれた古臭いワンピースに田舎者丸出しの化粧っ気のない素朴な顔。手入れなど一切していないような荒れた浅黒い肌。くすんだピンクがかったバサバサの髪は緩い三つ編みにして、両肩から前にたらされていた。
 そして口にした言葉は訛りがエグすぎて何を言っているのか分からないものだった。
 しかし、よく見ると仕草一つ一つがどことなく可憐なものに思えてくるのが不思議だった。
 極めつけは、なかなか言葉が通じず、話が進まないことに困ったように首を傾げるその姿は、受付嬢の心をざわつかせるものだった。
 野暮ったい田舎娘のはずなのに、守ってあげたいと思わせるその仕草を見た受付嬢は、胸を押さえて荒い息を吐いて、心の中で「何? 私はどうしたっていうのよ。あぁぁ、この田舎娘が困っているところを見ているのがつらいわ……」と困惑するばかりだった。
 
 一方アルシオーネは、自分の訛りがエグすぎることに気が付いておらず、どうしてこの人は何度も同じ話を聞き返すのだろうと首を傾げるだけだった。
 しかし、持たされて手紙を思い出したことが切っ掛けで状況は一転した。
 アルシオーネから差し出された手紙の宛名を見た受付嬢は、「少々お待ちください」と言って、アルシオーネに自分用のお菓子を上げてから一度席を立ったのだ。
 アルシオーネは、受付嬢からもらったクッキーを小さな口でもぐもぐと食べて、その帰りを待っていた。
 
 受付嬢は、アルシオーネから受け取った手紙に、元王国騎士団副団長の名前とギルドマスターの名前を見て、訳ありの客だと即座に理解したのだ。
 そして、次第に可愛らしく思える謎の田舎娘に何故かとっておきのクッキーを上げてからギルドマスターの元に向かったのだ。
 因みに、席を立った後にアルシオーネが、クッキーを美味しそうに食べる姿を見て心がほっこりした受付嬢は、ご機嫌な様子でギルドマスターの部屋に向かったのだった。
 
 
 それから少しして、受付嬢は戻ってきたが、その後ろにはガタイのいい筋肉ムキムキの男を連れていたのだ。
 筋肉ムキムキの男は、この商業ギルドのギルドマスターの男だった。
 ギルドマスターは、アルシオーネの対面の椅子に座ると、強面の顔をニカっと笑顔にして大きな声で話しかけてきたのだ。
 
「よう、お嬢ちゃん。俺は、ここのギルマスだ。んで、あんた、あの狂犬セバスティアンの知り合いなんだってな?」

 ギルドマスターに話しかけられたアルシオーネは、「狂犬セバスティアン」という言葉に首をこてんと傾げていた。
 アルシオーネの中のセバスティアンは、優しく面倒見のいいおじ様といった印象しかなかったのだ。だから、ギルドマスターの言う狂犬という言葉とは結びつかなかったのだ。
 いまいちピンと来ていないアルシオーネの様子に苦笑いを浮かべたギルドマスターは、カカカと大きく笑ってから、乱暴な手付きでアルシオーネの頭を撫でたのだ。
 一見乱暴そうに見えるが、意外にも優しい手つきにアルシオーネが撫でられるがままにされていたが、凶暴な熊のような男が小動物のようなアルシオーネの頭を撫でているその姿に受付嬢は、慌てたように止めに入ったのだ。
 
「ギルマス! そんなに乱暴にしたら、お嬢さんの首がもげてしまいます!! 優しく、優しくです! というか、離れてください。もう、誘拐犯と攫われた子供にしか見えないです。ギルマスは、自分が凶暴な熊のような見た目をしているということを自覚してください」

「お……お前なぁ……」

 最終的に顔を貶されたギルドマスターは、悲し気に肩を落としたが、もともとの凶悪な顔はどうしようもなく、逆に凶悪そうな見た目がさらに恐ろしいものになったことに気が付いていなかった。
 
 しかし、しょんぼりと肩を落とすギルドマスターに向かって、アルシオーネは微笑みを浮かべて慰めるように言ったのだ。
 
「ギルドマスターさん、ほだなこどねっけ。わーは、くまさん、すきっちゃや」
(ギルドマスターさん、そんなことないですよ。わたしは、くまさん大好きですよ)

 ギルドマスターは、訛りがひどくてアルシオーネの話した内容の殆どを理解していなかったが、春の日差しの様にほっこりとした優しい微笑みに癒されていた。
 
「あんがとよ。それでだ、お嬢ちゃんはセバスティアンの知り合いってことは理解した。あいつには色々と世話んなったし、融通したいところはやまやまだが、規則は規則だ。お嬢ちゃんにはテストを受けてもらって、そのうえでギルド加入の是非を考える。いいか?」

 アルシオーネは、ここでようやく持たされた手紙の意味を理解した。
 セバスティアンが、アルシオーネのために一筆したためてくれたということにだ。
 しかし、その内容はある意味とんでもないものだった。
 終始、アルシオーネが可愛いと書き連ね、お嬢様自慢をしつつも、その正体を明確には明かさずに、しかし、アルシオーネを守って欲しいとも書かれていたのだ。
 だが、守るのはいいが距離が近すぎたり、手を出そうものなら必ず殺すと脅すような、いや、セバスティアンは本気でそう書いていたのだ。
 そんな、ことが書かれた分厚すぎる手紙に辟易していたギルドマスターだったが、アルシオーネの姿や言葉から感じ取れる以上の溢れ出る優しい雰囲気を感じて、セバスティアンが大切に思う気持ちも理解できなくもないと思ったのだ。
 不思議な魅力を秘めた田舎娘。それが、ギルドマスターがアルシオーネに抱いた印象だった。
 
 
 こうして、セバスティアンの助力もあり、商業ギルド加入のための試験を受けることになったのだった。
 
 
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