訛りがエグい田舎娘に扮した子爵令嬢のわたしが、可愛がった子犬に何故か求婚される話を聞きたいですか?

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
5 / 17

第二章 運命の出会いは突然に?(2)

しおりを挟む
 商業ギルドへの加入テストは、筆記と面接からなっていた。
 受付嬢曰、簡単な内容と教えられたアルシオーネは、緊張した面持ちで午後から行われるテストを受けるためギルド内の一室に来ていた。
 そこには、アルシオーネと同様にテストを受ける受験生がソワソワとした面持ちで椅子に座っていた。
 指示された席にアルシオーネが着いてすぐにテストは開始された。
 テストの内容は、歴史や各領地の特産品についてや、一般知識だった。
 分かる範囲で回答を用紙に書き込みつつも、歴史や一般知識はともかく、他所の領地の特産品などの知識を持っていないアルシオーネは、次第に沈んでいった。
 何とか半分以上を書き込みはしたが、受かる自信は全くもってなかった。
 肩を落として、面接会場に移動したアルシオーネを待っていたのは、ギルドマスターとサブマスターの二人だった。
 サブマスターは、とても美しい人だったが、男性にも女性にも見える不思議な印象の持ち主だった。
 自己紹介の際声を聞いたが、ハスキーな声音で、どちらともとれる不思議な声だった。
 緊張の面持ちで質疑応答に応えるも、エグいまでの訛りの所為で会話が嚙み合わず、ギルドマスターは、内心「やべー、こりゃぁ、お嬢ちゃんは落ちたかもしれねぇ」と、セバスティアンの鬼の形相を思い浮かべて嫌な汗を全身に掻いていたことを知らないサブマスターは、厳正なる基準にのっとって、アルシオーネの不合格を口に出したのだった。
 試験の段階で自分が不合格になるだろうことは目に見えていたアルシオーネは、残念に思いつつもそれを受け入れていた。
 テスト後、あっさりと商業ギルドを立ち去ろうとしたアルシオーネをギルドマスターは、幾分か顔色を悪くして引き留めたのだ。
 そして、掠れる声で提案したのだ。
 
「あぁ、お嬢ちゃん。なんだ、知り合いからの紹介だし、ちょっとは俺に世話をさせてくれよ」

 その言葉を聞いたサブマスターは、鬼のような形相でギルドマスターを睨みつけたが、サブマスターよりも狂犬セバスティアンの方が恐ろしいと思っているギルドマスターは、それに構わずに言葉を続けていた。
 
「お嬢ちゃんは、商売がしたくて領地を出て遥々王都に来たんだろう? 商業ギルドではな、ギルドに加入してない者にも商売をする場所を提供している。まぁ、場所料をもらうけどな。それと、住む場所はあるのか? ないなら俺の方で用意してもいい」

 その言葉を聞いたアルシオーネは、熊のような見た目のギルドマスターの意外な気遣いに驚きつつも柔らかな微笑みを浮かべたのだ。
 それを見たギルドマスターは、胸の奥がきゅんとするのを感じて、狂犬セバスティアンが惚れこむのも無理はないなと思っていたが、それよりも隣にいるサブマスターが小刻みに震えだすのを横目に見て、肝が冷えていくのを感じた。
 まさか、商業ギルドの長たるギルドマスターが誰か一人に肩入れするなどあってはならないと切れられる姿が脳裏をかすめた瞬間、言い訳を口にしようとしたのだ。
 しかし、言い訳を口にする前に、サブマスターが口を開いていたのだ。
 
「なななな……なんて可愛いのかしら……。微笑み一つであの可愛さ……。くっ!! 駄目よ、あたしはここのサブマスなんだから……。でも、あの子の力になりたいと思うのは……。そうよ、ちょっと、ほんのちょっとだけなら……」

 そんなことを口走るサブマスターを見て、自分と同様に目の前の田舎娘に惚れこんだ者がすぐ横にいたことをギルドマスター知ったのだった。
 
 ギルドマスターからの提案を聞いたアルシオーネは、微笑みながらもお礼を口にしていた。
 
「ありがとうごぜますだ。よろしくしてけっろ。だば、住む場所はでいじょうぶだば、軒下だけかしてけれ」
(ありがとうございます。どうそよろしくおねがいしますね。あっ、でも住む場所はあてがあるので大丈夫ですので、商売ができる場所をお借りできるだけで助かります)

 エグい訛りながらも、何とかアルシオーネの言いたいことを読み取ったギルドマスターは、豪快な笑顔を見せた後に、露店の空き場所を提供する言ったのだ。
 そして、一日の売り上げの一割を支払うことでその場所を使ってもいいという契約もすぐになされたのだった。
 アルシオーネは、笑顔でお礼を言って、明日から露店で薬の販売を開始すると言って、いくつか持っていた薬をサンプルとしてギルドマスターに渡してその場を後にしたのだった。
 
 アルシオーネが去った後に、渡された薬瓶を見てギルドマスターは、心配そうに表情を歪めていた。
 それを見たサブマスターもギルドマスターの懸念を理解しそれを口にしたのだ。
 
「薬……。回復薬の販売ね。はぁ、ここで回復薬の販売で稼ぐのはちょっと厳しいかもしれないわね。それに、あの訛り……。エグい訛りはやばいわよ」

「ああ。そうだな。なんていっても、ここは王都なんだ。最新の研究がされた薬の類が出回っている。お嬢ちゃんの薬が通用するのか……。それに、会話も儘ならない状態では商売も難しいだろうな……」

「ええ。ところで、その薬、ちょっといいかしら」

 そう言って、ギルドマスターの手の中にある薬を指さしたサブマスターは、いいことを思い付いたとばかりに怪しげな笑みを浮かべたのだ。
 
「それを解析して、あの子に改良点を教えてあげれば、少しは良くなると思うのよ」

 それはいい案に思えたが、ギルド未加入の相手にやっていい範囲を超えているような気がしたギルドマスターが言い淀んでいると、サブマスターは、片目を瞑って生き生きとした笑顔で言ったのだ。
 
「あたしは、この世に生きる全ての可愛いの味方よ? それに、これはあたし個人か勝手にやる趣味みたいなものよ。解析も改良もあたしのお金でやるから、あんたはなにも心配なんてしなくてもいいのよ。あたしに任せればいいの。そして、次からは、あの可愛い天使ちゃんはあたしが対応するからね」

 それを聞いたギルドマスターは、サブマスターが本気でアルシオーネを気に入ったことを知って、深くため息を吐いたのだ。
 そう、このサブマスターは、可愛いもの好きが行くところまで行って、一周まわって思い返したかのように反転したような、少し捻くれた性根を持っているのだ。
 気に入った相手にはトコトンまで優しく甘やかし、もしその相手を傷つけるような者がいれば容赦しないところがあるのだ。
 この先、問題だけは起こしてくれるなよと祈りつつも、ギルドマスター自身もアルシオーネに肩入れしまくりなのを自覚していないのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました

ミズメ
恋愛
ライラ・ハルフォードは伯爵令嬢でありながら、毎日魔法薬の研究に精を出していた。 一つ結びの三つ編み、大きな丸レンズの眼鏡、白衣。""変わり者令嬢""と揶揄されながら、信頼出来る仲間と共に毎日楽しく研究に励む。 「大変です……!」 ライラはある日、とんでもない事実に気が付いた。作成した魔法薬に、なんと"薄毛"の副作用があったのだ。その解消の為に尽力していると、出席させられた夜会で、伯爵家を乗っ取った叔父からふたまわりも歳上の辺境伯の後妻となる婚約が整ったことを告げられる。 手詰まりかと思えたそれは、ライラにとって幸せへと続く道だった。 ◎さくっと終わる短編です(10話程度) ◎薄毛の話題が出てきます。苦手な方(?)はお気をつけて…!

処理中です...