訛りがエグい田舎娘に扮した子爵令嬢のわたしが、可愛がった子犬に何故か求婚される話を聞きたいですか?

バナナマヨネーズ

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第二章 運命の出会いは突然に?(4)

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 アルシオーネは、足元に縋り付く子犬をそっと抱き上げてからその小さく、もこもことした触り心地に心が落ち着いて行くのを感じた。
 子犬はよく手入れされているようで、獣臭さはなく、どことなく甘い匂いがして不思議に思いミルクティー色の毛に顔を埋めてしまっていた。
 腕の中の子犬は、アルシオーネの行動にまるで焦っているかのように小さな手足をバタつかせた。
 子犬の気持ちを理解したからなのか、青年は苦笑いしながらアルシオーネにお願いした。
 
「お嬢さん、ヴェルは男の子なんだ。君のように可愛らしいお嬢さんにそんな風にされてしまうと、色々と大変なんだよ」

 青年の言っている色々が何を指しているのかさっぱり理解していないアルシオーネは、こてんと首を傾げた後に子犬を一撫でした後に青年の腕の中に戻したのだ。
 そして、決して金貨にお金が眩んだわけではないという雰囲気を出しながらも、それを全く隠しきれていないアルシオーネが青年にいくつか質問をしていた。
 質問をされた青年は、アルシオーネの隠しきれていないお金への執着に腹に一物ありそうな黒い笑みを浮かべていたがそれに気が付くようなアルシオーネではなかった。
 
「わーと取引すんにも、おめさんのこと知らねば、なーんも決めらんね」
(わたしと取引したいということですが、貴方様のことを知らなければ、何も決めることなど出来ません)

 アルシオーネがそう言うと、意外にも青年にはアルシオーネの言葉が分かったようで、何のつまりもなく返答が帰ってきていた。
 青年は、恭しくお辞儀をしたうえで名を名乗ったのだ。
 
「俺は、スターレットという。家名を名乗れないことは許して欲しい」

 スターレットと名乗った青年は、頭を上げるとニカっと白い歯を見せて豪快な微笑みを浮かべた。
 名を名乗られたら名乗り返すのが礼儀だと、アルシオーネも名を名乗っていた。
 
「わーは、アルシオーネっちゅう」
(わたしは、アルシオーネと申します)

「アルシオーネ……。可愛らしい名前だね。うんうん」

 にこやかにそう感想を述べたスターレットだったが、腕の中の子犬が不服そうに「わんわん!!」と吠える声を聞いて、慌てたように言った。
 
「すまんすまん。アルシオーネ嬢、この子は、ヴェルだ」

 ヴェルと紹介された子犬は、「よろしく」とでも言うかのように器用に右手を上げていた。
 それを見たアルシオーネは、小さな前足にあるピンクの可愛い肉球に目が行っていた。
 ぷにぷにの肉球に触れたい衝動に駆られたアルシオーネは、軽く持ち上げられた右の前足をそっと握っていた。
 想像通りに、いや、想像以上に柔らかく少しひんやりとした肉球を夢中でムニムニしてしまっていたアルシオーネの表情は、肉球以上に柔らかい笑みを浮かべていた。
 前足をアルシオーネにムニムニされながら、子犬は尻尾を千切れんばかりにぶんぶんと振っていたが、それとは逆に左の前足で、アルシオーネの手を押して離して欲しいとばかりに抵抗していた。
 それを間近に見ていたスターレットは、ぼそっと「こいつは……。嬉しいのに、本当に素直じゃないなぁ」と言っていたことなど、アルシオーネとヴェルは知ることはなかった。
 
 十分肉球を堪能したアルシオーネは、コホンと小さく咳払いをした後に質問の続きを口にしていた。
 
「報酬はわがっただ。んでも、どんくれーだがね? ほんに、どえれーでいじなヴェルをなしてわーに?」
(報酬のことは理解しました。ですが、期間はどのくらいになるのでしょうか? それに、それほど大切なヴェルを何故わたしにお預けになるのですか?)

 困惑顔のアルシオーネに対して、スターレットは、非常に申し訳なさそうに顔を歪めていたが、丁寧に質問に答えてくれていた。
 
「期間については、正確には答えられない。ただ、こちらが抱えている問題が片付くまでとだけ言っておく。ヴェルを預けるのは、抱えている問題を片付ける間、ヴェルをその問題ごとから少しでも遠ざける必要があったからだ。問題が片付くまで、どうかヴェルをよろしく頼む。場合によって追加報酬も出す。それに、ヴェルに掛かる諸々の費用もこちらが負担するから遠慮せずに請求してくれ」

 スターレットの申し出た、追加報酬や、諸々の費用の請求と言う言葉に、アルシオーネの目は完全に金貨しか見えていなくなっていた。
 それを見たスターレットは、アルシオーネはこれを断らないだろうと確信しつつもダメ押しとばかりに、彼女の手にずっしりと重い布袋を握らせていた。
 そして、これ以上ないほどの笑顔でこう言ったのだ。
 
「アルシオーネ嬢、これは引き受けてくれたお礼だよ。金貨五百枚は、明日ヴェルの物と一緒に届けるからね」

 アルシオーネは、手の中にあるずっしりと重い金貨の入った布袋に視線が行くだけで、スターレットの言葉が右から左へと流れて行っていた。
 
 これだけの金貨があれば、借金返済も夢ではないという嬉しい状況に、アルシオーネは、夢見心地で歩いていた。
 そんなアルシオーネの後ろをヴェルを抱いたスターレットは、申し訳なさそうにしながらもゆっくりと歩いていた。
 しかし、腕の中のヴェルは、不服そうな瞳でスターレットを見つめながら小さく唸るばかりだった。
 それを聞いたスターレットは、楽しそうな表情で言ったのだ。
 
「ヴェルファイアは、何が不満なんだ? 訛りがエグいけどよさそうなお嬢さんじゃないか?」

 スターレットが、「何が不満なんだ?」とヴェルに向かって楽し気に口にすると、ヴェルは小さな前足でペチペチとスターレットの腕を叩いて「不満大有りだ」と言わんばかりに唸ったのだ。
 それを見たスターレットは、何かを察したかのように視線を泳がせた後に腕の中の子犬に詫びるように言ったのだ。
 
「あぁぁ……。そうだよな。ヴェルも男だもんなぁ。うら若いお嬢さんの傍で暮らすとなると、色々我慢しないといけないもんなぁ。それに、お嬢さんに手を出そうものなら、「いや! このケダモノ!!」って、捨てられちゃうもんなぁ。てか、今のお前はまさにケダモノ。くくく、あっはは!!」

 スターレットの言葉の数々に、ヴェルは「笑い事じゃない!!」とばかりに唸るように吠えたが、その憤りを知ってか知らずか、真剣な表情のスターレットに制されていた。
 しかし、スターレットの次の言葉を聞いたヴェルは、渾身のわんパンチを食らわせていたのだった。
 
「真剣にお前に忠告するが、その姿で少しでも欲情してみろ……、全裸のような今のお前はその時点でアソコがやばいことになっている姿をお嬢さんに晒すことになるんだからな。本気で気を引き締めろよ」

「わんわんわん!! わおーーーん!!」

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