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第四章④
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俺の初恋だった。
優しくて、可愛らしい少女。
俺は、彼女のことを幽霊なのだと思っていた。
半透明で触れることも出来ない、そんな存在だった。
それでも、孤独だった俺の側にいてくれて、抱きしめてくれたのだ。
触れることは叶わなかったが、それでも彼女からの抱擁が嬉しかったのだ。
しかし、彼女との記憶はぶつりと俺の中で途切れていた。
ある日目が覚めると彼女が消えてしまっていた。
彼女が消える前、夢の中で彼女がどこかに行ってしまう夢を見た。
必死に何かを訴える彼女の体がどんどん消えていく様子は俺には絶望以外の何物でもなかった。
だから、彼女を引き止められればという思いだけで俺は夢の中で絶叫していた。
しかし、俺の絶叫は届かなかった……。
うっすら見えていたはずの彼女が目の前から完全に消えてしまい、視線を彷徨わせてもどこにも彼女がそこに居たという証が見つからなかった……。
それからどのくらい経ったのか分からなが、俺の北部行が決まったのだ。
「昔……。俺はこの王宮のどこかで暮らしていたんだよな……。ここに居たはずなのに、全く覚えがないんだ。笑えるだろ?」
つい、そんな愚痴が口をついて出ていた。
「だけどな。悪い思い出だけじゃないんだ。俺のことを人として見てくれた人が居たんだ……。その人は幽霊だったけど、誰よりも優しくて温かかったんだよ。名前も知らない、俺の初恋の人だ」
「……!?」
「ふっ。体が透けていたし、触れられもしなかったからな。俺は彼女のこと妖精姫って……」
「よ……妖精……姫?!」
「ああ。すごく可愛くてな。お姫様みたいだと……。ギネヴィアだってすごく可愛いぞ!」
「わっわたしですか?」
「ああ。すごくかわいいぞ。今日のドレスも可愛い。とてもよく似合っている。ギネヴィアの絹のような白い髪がよく映える」
「あ……ありがとうございます……。面と向かって褒められると恥ずかしいわね……。もう! 旦那様も世界一素敵ですよ!」
「ふっ。ありがとう。ギネヴィアの夫として恥ずかしくないようにしないといけないからな」
「そんな! 旦那様は凄く素敵に成長なさいましたよ!」
「そっか。う~ん。でも自分ではわからないな。ギネヴィアから見てどう素敵か聞きたいな?」
「…………っ! その……、お顔も体つきもお優しい性格も全部素敵ですよ!!」
「ふふっ。そっか、全部かぁ。嬉しいな」
「もう! 揶揄うのはやめてください!」
「失礼な。俺はいつだって本気で……」
「もうもう!!」
顔を赤くさせたギネヴィアは、俺の胸を小さな拳でポカポカと叩くけど全然痛くなかった。
ただ可愛いだけのその仕草が堪らなかった。
だから、ギネヴィアの動きを封じるように抱きしめて……。
紫水晶の様な神秘的で美しい瞳を見つめて、顔を近づけていた。
いい雰囲気だと、そう思った俺は、とうとうこの日ギネヴィアと初めての口づけを……。
と、思ったのは俺だけだったようで、ギネヴィアはプイっと横を向いて、ぽつりと呟いたのだ。
「妖精姫のこと……。好きだったのですよね……。妖精姫は……」
「ん? ああ。好きだったよ。彼女のお陰で俺は生きることができた。好きだし、感謝もしている……。けど、それを伝える術がない……。妖精姫は消えてしまったんだ……」
「消えてしまった……、そのことを恨んではいないんですか?」
そう俺に聞いたギネヴィアは、何故か泣きそうな表情をしていた。
だから俺は、正直な気持ちを告げた。
「恨んだことなんてないよ。ただ……、置いて行かれたみたいで悲しかった……。それだけだよ」
「…………ごめんなさい」
「どうしてギネヴィアが謝るの?」
俺がそう聞くと、ギネヴィアはただ頭を横に振るだけで何も言ってはくれなかった。
それでも、最後に俺に聞いたのだ。
「もし……、もしもまたその妖精姫に会えたら旦那様はどうしますか?」
「もちろん、感謝の言葉を言うよ。俺がこの王宮のどこかで生きていられたのは妖精姫のお陰だから。だから、ありがとうって言いたい。それだけだよ」
「そう……、ですか……」
優しくて、可愛らしい少女。
俺は、彼女のことを幽霊なのだと思っていた。
半透明で触れることも出来ない、そんな存在だった。
それでも、孤独だった俺の側にいてくれて、抱きしめてくれたのだ。
触れることは叶わなかったが、それでも彼女からの抱擁が嬉しかったのだ。
しかし、彼女との記憶はぶつりと俺の中で途切れていた。
ある日目が覚めると彼女が消えてしまっていた。
彼女が消える前、夢の中で彼女がどこかに行ってしまう夢を見た。
必死に何かを訴える彼女の体がどんどん消えていく様子は俺には絶望以外の何物でもなかった。
だから、彼女を引き止められればという思いだけで俺は夢の中で絶叫していた。
しかし、俺の絶叫は届かなかった……。
うっすら見えていたはずの彼女が目の前から完全に消えてしまい、視線を彷徨わせてもどこにも彼女がそこに居たという証が見つからなかった……。
それからどのくらい経ったのか分からなが、俺の北部行が決まったのだ。
「昔……。俺はこの王宮のどこかで暮らしていたんだよな……。ここに居たはずなのに、全く覚えがないんだ。笑えるだろ?」
つい、そんな愚痴が口をついて出ていた。
「だけどな。悪い思い出だけじゃないんだ。俺のことを人として見てくれた人が居たんだ……。その人は幽霊だったけど、誰よりも優しくて温かかったんだよ。名前も知らない、俺の初恋の人だ」
「……!?」
「ふっ。体が透けていたし、触れられもしなかったからな。俺は彼女のこと妖精姫って……」
「よ……妖精……姫?!」
「ああ。すごく可愛くてな。お姫様みたいだと……。ギネヴィアだってすごく可愛いぞ!」
「わっわたしですか?」
「ああ。すごくかわいいぞ。今日のドレスも可愛い。とてもよく似合っている。ギネヴィアの絹のような白い髪がよく映える」
「あ……ありがとうございます……。面と向かって褒められると恥ずかしいわね……。もう! 旦那様も世界一素敵ですよ!」
「ふっ。ありがとう。ギネヴィアの夫として恥ずかしくないようにしないといけないからな」
「そんな! 旦那様は凄く素敵に成長なさいましたよ!」
「そっか。う~ん。でも自分ではわからないな。ギネヴィアから見てどう素敵か聞きたいな?」
「…………っ! その……、お顔も体つきもお優しい性格も全部素敵ですよ!!」
「ふふっ。そっか、全部かぁ。嬉しいな」
「もう! 揶揄うのはやめてください!」
「失礼な。俺はいつだって本気で……」
「もうもう!!」
顔を赤くさせたギネヴィアは、俺の胸を小さな拳でポカポカと叩くけど全然痛くなかった。
ただ可愛いだけのその仕草が堪らなかった。
だから、ギネヴィアの動きを封じるように抱きしめて……。
紫水晶の様な神秘的で美しい瞳を見つめて、顔を近づけていた。
いい雰囲気だと、そう思った俺は、とうとうこの日ギネヴィアと初めての口づけを……。
と、思ったのは俺だけだったようで、ギネヴィアはプイっと横を向いて、ぽつりと呟いたのだ。
「妖精姫のこと……。好きだったのですよね……。妖精姫は……」
「ん? ああ。好きだったよ。彼女のお陰で俺は生きることができた。好きだし、感謝もしている……。けど、それを伝える術がない……。妖精姫は消えてしまったんだ……」
「消えてしまった……、そのことを恨んではいないんですか?」
そう俺に聞いたギネヴィアは、何故か泣きそうな表情をしていた。
だから俺は、正直な気持ちを告げた。
「恨んだことなんてないよ。ただ……、置いて行かれたみたいで悲しかった……。それだけだよ」
「…………ごめんなさい」
「どうしてギネヴィアが謝るの?」
俺がそう聞くと、ギネヴィアはただ頭を横に振るだけで何も言ってはくれなかった。
それでも、最後に俺に聞いたのだ。
「もし……、もしもまたその妖精姫に会えたら旦那様はどうしますか?」
「もちろん、感謝の言葉を言うよ。俺がこの王宮のどこかで生きていられたのは妖精姫のお陰だから。だから、ありがとうって言いたい。それだけだよ」
「そう……、ですか……」
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