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ふかふかのベッドの中は寝心地が良く、もっと惰眠を貪りたいと思っていたが、誰かに呼ばれる声で眠っていた少女は長い睫毛を震わせて目を覚ました。
小さな手で目をこすっていると、柔らかい声に止められてしまう。
「ミーシャさん。そんなに擦っては駄目ですよ。ほらほら、もうお昼過ぎですよ? 今日は、ミーシャさんの大好きなパンケーキを用意したんです。さあさあ、起きてください」
「ママ? まだ眠いよぉ……」
「ふふふ。お寝坊さんですね。まぁ、そこも可愛いんですけど。ふふふ。」
「ママ?」
「何でもないですよ」
ミーシャと呼ばれた少女は、ママと呼んでいた絶世の美女に身を起こしてもらいながら、甘い匂いににっこりとしてしまっていた。
ゆっくりとした動作で身支度を終えたミーシャは、ようやく冴えてきた頭で窓際のテーブルの上を見て満面の笑みを浮かべて、すぐ横にいる長身のママに抱き着いていた。
「わーい。ふわふわのパンケーキ、大好き! ママ、ありがとう」
ミーシャがそう言うと、ママは見る者の目が潰れてしまうような蕩けるような甘い微笑みで応えていた。
小さく華奢なミーシャをそっと抱きしめて、その真っ赤な髪にキスを落とすのだ。
「私の可愛いミーシャさん。ふふふ。ああ、本当に可愛い。食べてしまいたい……」
頭のてっぺんの方から聞こえてきたママのそんな呟きにミーシャは、へにゃりとした笑みを浮かべるのだ。
そして、背伸びをして、ママの頬に小鳥のようにチュッと触れるようなキスをしてから、目元を赤らめてママを誘うのだ。
「ママが食べたいなら、食べてもいいんだよ?」
「ごくっ……。駄目ですよ。そんな……。でも、ミーシャさんがそういうなら……」
「ふへへ。それじゃ、パンケーキ、半分こね」
「うん……。そう……だね。パンケーキ、うん。パンケーキのことね……。はぁぁ……」
「ママ?」
何故か残念そうな表情で苦笑いをするママに首を傾げるミーシャだったが、漂ってくる甘い誘惑には勝てなかった。
すぐに頭を切り替えて、窓際のテーブルにママの手を引いていく。
椅子に座ってすぐに、ふわふわに焼きあがっているパンケーキをフォークを刺して、ナイフで大き目に切り分ける。
それを口いっぱいに頬張る。
口の中いっぱいに広がるホイップクリームと蜂蜜の甘さに頬に手を当てて溜息を吐いてしまう。
「あま~い。美味し~。しあわせ~」
口の端にクリームをつけた状態で心から幸せそうに微笑むミーシャにママは目元を柔らかく細めるのだ。
そして、ミーシャの口の端についたクリームを指先で掬ってそのまま自分の口に運ぶ。
「うん。甘いね」
それを見たミーシャは、慌ててナプキンで口元を拭ってから恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
「ママの作ってくれたパンケーキが美味しすぎるのがいけないんだよ」
恥ずかしそうにそういうミーシャに対して、ママは美しい笑みを浮かべて恥ずかしげもなく言うのだ。
「ミーシャさんのお口が小さくて、口いっぱいに頬張る姿は、子リスのようで可愛いですね。画家に描かせて、自室に飾って……。いえ、可愛いミーシャさんの姿を他の人間に見せるのはいけませんね。そうだ、私が可愛いミーシャさんを描けばいいのですよ。今度、道具を用意させましょう。そうしましょう」
「ママ……。止めて、恥ずかしいから」
「ふう……。残念ですが、ミーシャさんが嫌がることはしたくないので、本当に残念ですが諦めます。はぁ、残念です」
心から残念そうにそういうママの視線から逃れるために、ミーシャは慌ててパンケーキを切り分けて、それをママに差し出していた。
「ママ、あーん。ほらほら、ママも食べよう?」
ミーシャの差し出すパンケーキを躊躇うことなく上品に口にしたママは、ペロリと薄い唇を舌で舐めて、艶やかな眼差しでお礼を口にする。
「うん。ミーシャさんが食べさせてくれると、百億倍美味しく感じます。ごちそうさま」
ママの仕草に胸をドキリとさせてしまっていたミーシャは、慌てて両手を振っていた。
「百億倍って……。大げさだよ」
「そんなことないですよ……。ミーシャさん、お顔が赤くなっていますね。熱は?」
そう言って、心配そうな口ぶりでママはミーシャの前髪を片手で上げて顔を近づける。
額をくっつけながら、「熱は無いようですね」と言って、ゆっくりとミーシャの宝石のような翠眼を熱っぽく見つめるのだ。
ママの紅い瞳からじっと見つめられると、胸がドキドキしてしまうミーシャは、無意識にママの白いシャツを握りしめてしまっていた。
そして思うのだ。
(ここって、乙女ゲームの世界だよね? 確か、妹? が遊んでいたような? でも、なんかおかしくない? 今日まで深く考えないようにしていたけど、もう無理……)
ミーシャは、耐えられないととばかりに、熱を吐き出していた。
「ママ……。どうして、男の人なのに、ママなの?」
ミーシャの言葉を聞いたママは、一瞬目を丸くした後に、片目を瞑って軽い口調で言うのだ。
「あぁ……。やっぱり、わかるよな。うん。俺も、無理があると分っていたさ。うん。俺は、正確には、ミーシャさんの継母ではないんだ。俺は……」
小さな手で目をこすっていると、柔らかい声に止められてしまう。
「ミーシャさん。そんなに擦っては駄目ですよ。ほらほら、もうお昼過ぎですよ? 今日は、ミーシャさんの大好きなパンケーキを用意したんです。さあさあ、起きてください」
「ママ? まだ眠いよぉ……」
「ふふふ。お寝坊さんですね。まぁ、そこも可愛いんですけど。ふふふ。」
「ママ?」
「何でもないですよ」
ミーシャと呼ばれた少女は、ママと呼んでいた絶世の美女に身を起こしてもらいながら、甘い匂いににっこりとしてしまっていた。
ゆっくりとした動作で身支度を終えたミーシャは、ようやく冴えてきた頭で窓際のテーブルの上を見て満面の笑みを浮かべて、すぐ横にいる長身のママに抱き着いていた。
「わーい。ふわふわのパンケーキ、大好き! ママ、ありがとう」
ミーシャがそう言うと、ママは見る者の目が潰れてしまうような蕩けるような甘い微笑みで応えていた。
小さく華奢なミーシャをそっと抱きしめて、その真っ赤な髪にキスを落とすのだ。
「私の可愛いミーシャさん。ふふふ。ああ、本当に可愛い。食べてしまいたい……」
頭のてっぺんの方から聞こえてきたママのそんな呟きにミーシャは、へにゃりとした笑みを浮かべるのだ。
そして、背伸びをして、ママの頬に小鳥のようにチュッと触れるようなキスをしてから、目元を赤らめてママを誘うのだ。
「ママが食べたいなら、食べてもいいんだよ?」
「ごくっ……。駄目ですよ。そんな……。でも、ミーシャさんがそういうなら……」
「ふへへ。それじゃ、パンケーキ、半分こね」
「うん……。そう……だね。パンケーキ、うん。パンケーキのことね……。はぁぁ……」
「ママ?」
何故か残念そうな表情で苦笑いをするママに首を傾げるミーシャだったが、漂ってくる甘い誘惑には勝てなかった。
すぐに頭を切り替えて、窓際のテーブルにママの手を引いていく。
椅子に座ってすぐに、ふわふわに焼きあがっているパンケーキをフォークを刺して、ナイフで大き目に切り分ける。
それを口いっぱいに頬張る。
口の中いっぱいに広がるホイップクリームと蜂蜜の甘さに頬に手を当てて溜息を吐いてしまう。
「あま~い。美味し~。しあわせ~」
口の端にクリームをつけた状態で心から幸せそうに微笑むミーシャにママは目元を柔らかく細めるのだ。
そして、ミーシャの口の端についたクリームを指先で掬ってそのまま自分の口に運ぶ。
「うん。甘いね」
それを見たミーシャは、慌ててナプキンで口元を拭ってから恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
「ママの作ってくれたパンケーキが美味しすぎるのがいけないんだよ」
恥ずかしそうにそういうミーシャに対して、ママは美しい笑みを浮かべて恥ずかしげもなく言うのだ。
「ミーシャさんのお口が小さくて、口いっぱいに頬張る姿は、子リスのようで可愛いですね。画家に描かせて、自室に飾って……。いえ、可愛いミーシャさんの姿を他の人間に見せるのはいけませんね。そうだ、私が可愛いミーシャさんを描けばいいのですよ。今度、道具を用意させましょう。そうしましょう」
「ママ……。止めて、恥ずかしいから」
「ふう……。残念ですが、ミーシャさんが嫌がることはしたくないので、本当に残念ですが諦めます。はぁ、残念です」
心から残念そうにそういうママの視線から逃れるために、ミーシャは慌ててパンケーキを切り分けて、それをママに差し出していた。
「ママ、あーん。ほらほら、ママも食べよう?」
ミーシャの差し出すパンケーキを躊躇うことなく上品に口にしたママは、ペロリと薄い唇を舌で舐めて、艶やかな眼差しでお礼を口にする。
「うん。ミーシャさんが食べさせてくれると、百億倍美味しく感じます。ごちそうさま」
ママの仕草に胸をドキリとさせてしまっていたミーシャは、慌てて両手を振っていた。
「百億倍って……。大げさだよ」
「そんなことないですよ……。ミーシャさん、お顔が赤くなっていますね。熱は?」
そう言って、心配そうな口ぶりでママはミーシャの前髪を片手で上げて顔を近づける。
額をくっつけながら、「熱は無いようですね」と言って、ゆっくりとミーシャの宝石のような翠眼を熱っぽく見つめるのだ。
ママの紅い瞳からじっと見つめられると、胸がドキドキしてしまうミーシャは、無意識にママの白いシャツを握りしめてしまっていた。
そして思うのだ。
(ここって、乙女ゲームの世界だよね? 確か、妹? が遊んでいたような? でも、なんかおかしくない? 今日まで深く考えないようにしていたけど、もう無理……)
ミーシャは、耐えられないととばかりに、熱を吐き出していた。
「ママ……。どうして、男の人なのに、ママなの?」
ミーシャの言葉を聞いたママは、一瞬目を丸くした後に、片目を瞑って軽い口調で言うのだ。
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