乙女ゲームの主人公に転生したけどゲームオーバーしてた件。

バナナマヨネーズ

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 ミーシャは、この世界で目覚めた時のことをぼんやりと思い出していた。
 酷い頭痛を感じて頭を抑えた時、視界の端に映ったのは鉄格子だった。
 何故こんなものが? と手を伸ばしてみると、鉄の冷たい感触に驚きすぐに手を引いていた。
 周囲を見回すと、自分が鉄格子の中にいることはすぐに理解できた。しかし、不思議なことに、自分をぐるりと取り囲む、鳥籠のような鉄格子とは正反対に、ミーシャが座り込んでいる床はふかふかとしていてとても柔らかいベッドの上にでもいる様だった。
 ズキズキと痛む頭を押さえながら、キョロキョロとしていると、鉄格子の外に人の気配がすることに遅れて気が付いたのだ。
 気配の方に視線を向けると、そこには言葉では表せないような絶世の美女が立っていたのだ。
 昏い瞳でミーシャを見つめるその緋色の瞳から目が離せないでいると、美女が口を開いたのだ。
 
「ミーシャさん……。貴女がいけないんですよ。だから、貴方を生涯ここに閉じ込めることにしました。もう、どこにも逃げられませんよ」

「ミーシャ……? 閉じ込める? どういうこと?」

 状況が一切分からないでいるミーシャは、下を向いて小さく呟いていた。
 そして、目の前の美女にどことなく見覚えがあるような気がして、必死に何かを思い出そうとした。
 頭の隅のほうで、聞き覚えのある声が聞こえた気がして、意識を必死にそちらに向ける。
 
「うげー、序盤ですでにゲームオーバー? まじか……。これは、かつてない死にゲーの予感。ってか、共通ルートの最初の選択肢に失敗すると、監禁エンドって、ハード過ぎない?」

「ちょっと、ゲームもほどほどにね? 試験勉強は大丈夫なの?」

「大丈夫だってば、超ヨユー。とりあえず、推しに会えるまでやるの」

「はぁ……。そう言って、結局、勉強しないんでしょ……。もう……」

「あはは、大丈夫、大丈夫だから。お姉ちゃん、ちょっとだけ見逃して~」

 どこかで見聞きしたことのある気がする、そんな会話だった。
 そして、妹らしき少女の手の中にある長方形をした物に映し出されている映像に既視感を覚える。
 暗い場所で、赤い髪の少女の後ろ姿と、少女を見下ろす美しい女性の姿。そして、少女と女性を隔てる鉄格子。
 
 ミーシャは、直感する。
 
(あっ! ここって、妹が遊んでた乙女ゲームの世界? あれ? 妹? 乙女ゲーム? それって、なんだっけ?)

 混乱する頭で何を考えても何の解決策も見いだせない。それでも、目の前の美女によって、自分がこの鳥籠のような檻の中に入れられているということだけは理解できた。
 頭は痛いし、檻の中に入れられているし、どうしていいのか分からないミーシャは、コロンと体を横倒しにしていた。
 ふかふかのベッドのような場所に寝転がると、案外寝心地が良く、このまま眠れそうな気がしてミーシャは、瞳を瞑っていた。
 
(えっと、よくわからないけど、わたしはここに閉じ込められているってことは理解したわ。うん。寝よ。記憶も曖昧だし、とりあえず寝て起きたら何か変わってるかも。うん。そうね、今はなにも出来なさそうだし、寝よう)

 そんなことを考えながら、柔らかい場所でコロリと横になったミーシャは、本当に眠ってしまっていた。
 スースーと可愛らしい寝息をさせているミーシャは知らない。
 ミーシャがコロリと寝ころんだ時、檻の外にいる美女が顔を青くさせていたことを。
 そして、ミーシャが寝てしまったことを知り、安心した表情をした後に、優しくその寝顔を見つめていたこともだ。
 
 
 ミーシャは、甘い匂いに鼻をくすぐられるような感覚に目を覚ましていた。
 蜂蜜のような香りに目をこすりながら身を起こすと、檻の外から優しい声が聞こえてくる。
 
「ミーシャさん、おはようございます。そろそろ起きるころだと思って、朝食とハニーミルクティーを用意しましたよ。さあ、冷めないうちに召し上がれ」

 檻の外の女性から朝食を用意したという言葉を聞いたミーシャのお腹がキューっと可愛らしい音を鳴らしていた。
 ミーシャは、ぱっと顔を隠しさせた後に、慌てたように両手で薄いお腹を押さえていた。
 しかし、檻の外の女性には筒抜けだったようで、口元に手を当てながら笑われてしまっていた。
 
「ミーシャさんは、本当に可愛らしいですね。ふふふ」

 何も言えないでいるミーシャに女性は、優しい言葉をかける。
 
「ごめんなさいね。でも、本当にミーシャさんが可愛くて」

 そう言った後、ニ十センチ四方の小さな扉を開けて、用意したという朝食を中に入れたのだ。
 ミーシャとしては、何故檻の中に入れられているのか聞きたいことはあったが、空腹には勝てずに差し出された食事に手をかけたのだった。
 
 トレイに乗せられたプレートには、美味しそうなサンドイッチが乗っていた。
 ふわふわの卵がたっぷりと挟まれたタマゴサンドと新鮮なレタスとトマト、チーズとハムが挟まれハム野菜サンドと真っ白な生クリームにイチゴが沢山挟まれたイチゴサンドにミーシャは、瞳を輝かせる。
 ミーシャは、サンドイッチを一口食べてその美味しさに驚き、あっという間にすべてを平らげていた。
 そして、ハニーミルクティーは、ミルクと蜂蜜の甘さがちょうどよく、こちらもあっという間に飲み終えてしまっていた。
 
「ふぅ……。美味しかった。ごちそうさまです」

 無意識にそう言って、手を合わせるミーシャを見た女性は、くすくすと小さな声で笑うのだ。
 何故笑われたのか分からないミーシャは、頬を膨らませていると、女性が申し訳なさそうに言った。
 
「だって……。貴女を閉じ込めている私がこんなことを言うのもあれですけど、ミーシャさんは、もっと危機感を持った方がいいですよ。こんなに無防備だと心配です」

 何が心配なのか全く理解していないミーシャは、ただ首を傾げるだけだったが、キョトンとした顔で子供のように首を傾げるミーシャが可愛いと思った女性は、肩を震わせていたが、それすらも謎でミーシャは、ますます首を傾げるのだった。

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