乙女ゲームの主人公に転生したけどゲームオーバーしてた件。

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
3 / 6

3

しおりを挟む
 ミーシャが首を傾げていると、トントンと部屋の扉をノックする音がした。
 その音を聞いた瞬間、女性は小さく舌打ちした。
 
「ちっ、もう時間か。はぁ……」

 女性は、扉の方を目を丸くさせて見つめているミーシャにデレっとした表情をするもそれは一瞬で、すぐに元の美しい顔に戻っていた。
 そして、檻に近づき、残念そうに口を開いたのだ。
 
「政務に行かなければなりません。お昼にまた来ますね。昼食は何を食べたいですか?」

「えっと、お肉?」

「ぷっ、お肉ですね。ふふふ。ミーシャさんのために、腕を振るいますから、楽しみにしていてくださいね」

 そう言った後、女性は名残惜しそうにしながらも部屋を出て行ったのだった。
 部屋の中に取り残されたミーシャは、ようやく自分の置かれている状況に突っ込みを入れていた。
 
「あ、あれ? なんで檻の中?! ちょっ、ちょっと待ってくださーい。お昼ごはんよりも、ここから出してくださいー」

 そう叫ぶが、すでに周囲には誰もいないようで、ミーシャの声が部屋に響くだけだった。
 数分ほど、あーでもないこーでもないと頭を悩ませていたミーシャだったが、これは夢ではなく現実に起こっていることだと遅ればせながら肌で感じ始めていた。
 膝を抱えた姿で記憶を整理することにしたミーシャは、改めて自分について考える。
 
「えっと、わたしは……、あの美人さんにミーシャって呼ばれていたから、ミーシャなんだけど……。ヤバイ……。何も思い出せない。名前もしっくりくるような、こないような? う~ん。わたしがミーシャだっていう自覚がないよ……。それに、さっき頭に過った変な記憶。乙女ゲームって……。うっ……。思い出そうとすると頭が……。はぁ、とりあえず、自分のことはミーシャと仮定して、わたしが置かれている状況に付いて考えよう。うん、そうしよう」

 そう言ったミーシャは、部屋の中を改めて見回していた。
 広々とした部屋の中には、ミーシャがいる鳥籠のような檻だけがあった。
 窓にはカーテンが掛けられており、外の様子はわからなかった。
 檻の中は、ふかふかのベッドのようになっていて、柔らかいクッションも沢山置いてあった。
 ある意味快適だとミーシャは思ってしまっていた。
 檻は、しっかりと施錠されており、ここから出ることは叶わなそうだった。
 ミーシャが溜息を吐いた時、視界の端にある鏡に気が付く。
 何気なく鏡に視線を向けると、遠目に自分の姿を見ることができたのだ。
 その姿にミーシャは、感嘆の声を上げてしまっていた。
 
「ふぁぁ……。わたしって、もしかして美少女?」

 遠くにある鏡でも分かるほどの美少女がミーシャの目に映しだされたのだ。
 艶のある真っ赤な髪は腰までの長さがあり、さらりと揺れていた。
 宝石のように輝く瞳は緑色で、その翠眼は長い睫毛に縁どられていた。
 小さな鼻とさくらんぼのような可愛らしい唇。
 小柄で、守ってあげたくなるような可憐な美少女だとミーシャが思った時、再び謎の記憶が頭を過ったのだ。
 
 
「お姉ちゃん! 今度の乙女ゲーは、絶対に当たりだよ! 神絵師と人気声優、そして、ライターがあの爆売れゲームの人なんだもん! 見て見て、サイトのキャラ、最高なんだけど!!」

「はいはい。あんたは、毎回同じこと言うけどね」

「ふっふーん。私は、乙女ゲーマーだからね。てか、主人公ちゃんがまじかわなんだけど~」

「へー、どれどれ。ふむ。なるほど、確かに可愛いね」

「でしょう~。サイトにあるあらすじだと、主人公ちゃんは、お姫様で、主人公ちゃんの美貌に嫉妬した継母によって国から追放されちゃうんだって。それで、攻略対象たちと出会って、継母の企みを暴いて、国を取り戻すって感じらしい。うわっ、継母びじーん!! これは、ヤバいね」

「へー、ふむふむ。確かに美人。なんで、こんなに美人なのに主人公に嫉妬するの? 理解できないわ」

「まぁ、そこはね。ゲームだし」

「なにそれ?」

 姉妹の会話を聞きつつ、ミーシャは二人の手元にある四角い板を覗き込み驚きの声を上げる。
 そこにあったのは、鏡で見た自分の姿と、先ほど檻の外にいた女性の絵が映し出されていたからだ。
 しかし、女性は絵よりも実物の方が何倍も美しかったとミーシャは思うのだ。
 すらりとした体つきとその立ち居振る舞いは、優雅の一言だった。
 女性にしては高身長で、艶やかな黒髪とルビーのような紅い瞳がとても美しい女性だった。
 切れ長の瞳とすっとした鼻、薄い唇が美しく配置されており、神が生み出した芸術品だと言われても納得できるほどの美貌だったのだ。
 声も女性にしては低くハスキーだったが、色気があり、ずっと聞いていたいとミーシャは思った。
 
「わたしはミーシャ。そして、あの美人な人がママ?」

 ミーシャがそう口にしたタイミングで、扉がノックされる音が聞こえて、気が付くと姉妹の会話は聞こえなくなってしまっていた。
 
 現実に急に引き戻されたミーシャは、ぼんやりとしながら扉の方に視線を向けると、そこには黒髪の女性がいた。
 女性は、優しい口調でミーシャに声をかける。
 
「ミーシャさん。お昼にしましょうか。リクエスト通り、お肉料理を作ってきましたよ」

 優しい声に視線を向けたミーシャは、ぼんやりとした口調で女性に問いかけていた。
 
「ママ? わたしはなんで檻の中にいるの?」

 女性は目を丸くさせて、ミーシャを見つめた。そして、檻に近づいた後、辛そうに口を開いたのだ。
 
「だって、貴女が結婚するなんて言うから……。私は、ミーシャさんには好きな人と結婚して欲しいと再三言ったのに、宰相からの政略結婚の話を受けようとするから……」

「え?」

「だから、貴女がどこにも行かないように……。ごめんなさい。でも、私は、ミーシャさんが世界で一番大事なんです。貴女に辛い結婚を強いるなんて無理なんです」

 ミーシャは、辛そうに口を開く女性の言葉に聞き入っていた。
 女性の声や表情から、ミーシャは自分が本当に大切に思われているということをひしひしと感じられたからだ。
 
「継母の私だけど、ミーシャさんのこと本当に大事に思っているんです。どこの馬の骨ともわからないエロジジイや青二才に渡して堪るものか……。ゴホン。とにかく、城の外は危険でいっぱいなんです。だから、ミーシャさんを私に守らせてほしいんです」

 熱弁する女性の言葉にミーシャは、感動を覚えていた。
 つまり、国のために政略結婚を強いられそうになっていたミーシャを救うためにこうしたということなのだ。
 少し行きすぎな気もするが、女性からの愛情を確かに感じたミーシャは、自然と微笑んでいた。
 
「ママ……。ありがとう。うん。わたし、どこにも行かない。ママの傍に居る」

「ミーシャさん!! 嬉しい!!」

「ママ!」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

処理中です...