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ミーシャは、気持ちがママと通じたと感じていたが、それが勘違いだとすぐに気が付くこととなる。
「ママ、それならわたしをここから出してほしいな」
「はい。それは無理です」
「ふえ? えーーーーーー?! なんで、どうして?」
「う~ん。ちょっと、お掃除が終わっていなくて、もう少しミーシャさんには、ここに居て欲しいんです」
「掃除?」
ママの謎の言葉にミーシャが小さく首を傾げると、ママは目の端を赤くさせて体を小さく震わせて呟くのだ。
「小動物のようなミーシャさんは最高に可愛い……。早く、邪魔な婚約者や言い寄ってくる野郎どもを始末しなくてはな……。ゴホン。はい。害虫が発生していて……」
「ががががが、害虫? むし? きゃーーーー、虫怖い!!」
虫と聞いて怖がるミーシャを見たママは、慌てたように駆け寄り檻の中に手を伸ばしたのだ。
ミーシャは、差し出された手に縋ってしまう。そして、差し出された手の大きさに何故か安心感を覚えるのだ。
(ママの手、大きくて安心する。ちょっと、ごつごつするけど、指が長くて綺麗……)
そんなことを考えながら、ミーシャは、ママの手をきゅっと握りしめるのだ。
ママは、ミーシャの小さく華奢な手の温かく柔らかい感触にうっとりとしてしまうのだった。
「うん。虫は嫌だから、掃除が終わるまで、ここで我慢する」
涙目でそう言って見上げるミーシャを優しく見つめ返したママは、力強く頷く。
「はい。すぐに、終わらせますね」
「うん」
それから、すぐに掃除が終わったとママから教えられたミーシャは、檻から出ることを許されたのだった。
しかし、その行動範囲はママによって制限がされてしまっていた。
ママ曰く、「外の虫と入り込んだ虫は退治したけど、もう少し注意が必要だから、もうすこし我慢してくださいね」とのこととだった。
ママのことを心から頼りにするようになっていたミーシャは、何の疑問も抱かずに指示に従ったのだ。
基本的には、ママの部屋で寝起きし、部屋から外に出るのもママと一緒の時だけだった。
そして、身の回りのことはママが世話をしてくれたため、ミーシャがこの世界で目を覚ましてから、ママ以外の人間と顔を合わせることはなかったのだ。
しかし、目覚めた瞬間から特殊な状況が続いていたため、これを変に思う余裕がこの時のミーシャにはなかったのだった。
ただ、ママと共に過ごすうちに、ふと思うようになるのだ。
例えば、嬉しくて抱き着いた時だ。
女性にしては、背が高く肉付きのないというか、筋肉質のママだったのだ。
こちらの世界に来て、常にぼんやりしていると言っても過言ではないミーシャでも流石におかしいと思い始めていた。
(女の人でここまで筋肉質ってあるのかな? う~ん。ママは美人だし、プロポーションに気を使って、ソフトマッチョに? でも、胸はぺったんこだよね……。ママって……。いやいや、それはないよ。だって、それじゃ、ママじゃなくて……)
ある考えを振り払う様にしながらもミーシャは、ママに守られながら過ごすこと数日。
いろいろミーシャなりに考えたのだ。
あったことのない父親が愛した人がたまたまそうで、でも、対外的にそれではまずいと身分を偽ったとか、こっちの世界ではこれが普通だとか、あれこれ考えたのだ。
それでも、ついミーシャは聞いてしまったのだ。
「ママ……。どうして、男の人なのに、ママなの?」
そう、ここはあまり覚えていないが以前の、ミーシャになる前の自分の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界なのだ。
妹のことも以前の自分のこともあまり覚えていない。さらに言うと、記憶も徐々に薄れていっていた。
それでも、乙女ゲームの主人公の継母が男と言うのはどうにもおかしな話だった。
下手をすると、乙女ゲームではなく、もっと別のゲームになってしまうと、よくわからないながらもミーシャは危惧していたのだ。
ミーシャ自身、何を恐れているのかは理解していなかったのだが。
ミーシャの疑問の声を聴いたママは、ミーシャの小さな両手を握ってこういうのだ。
「あぁ……。やっぱり、わかるよな。うん。俺も、無理があると分っていたさ。うん。俺は、正確には、ミーシャさんの継母ではないんだ。俺は……」
そこまで言ったママだったが、少し時間が欲しいと言って、ミーシャを部屋に残してどこかに行ってしまう。
しかし、数分で戻ってきたママの姿を見てミーシャは、驚きに目を丸くするのだった。
部屋に現れたのは、それまでシャツとロングスカート姿だったママではなかったのだ。
青を基調とした軍服と長い黒髪を後ろで一つに縛った、眉目秀麗な青年がそこにはいたのだ。
「ミーシャさん。改めて自己紹介をするよ。俺は、ラスティン・ロータス。君の夫になる男だ」
「??????????????」
「ミーシャさん?」
心の中でやっぱりと思う自分がいる一方、ママ改め、ラスティンの美貌に目を丸くするミーシャだったが、自己紹介の最後の言葉に言葉を失っていた。
(おっと? おっとって何だった? えっと、そんな名前のスナック菓子があったような? あれ、水族館で見る動物だっけ? おっと…………?)
「えっと、ママ? じゃなくて、パパ? えっと、なんだか頭がくらくらするの……」
「ミーシャさん? ミーシャさん!!」
「ふえ~~。くらくら、ぐるぐる~。てんじょうがぐるぐるする~」
驚きすぎたミーシャは目を回して倒れる寸前のところでラスティンの腕に抱きとめられたのだった。
「ママ、それならわたしをここから出してほしいな」
「はい。それは無理です」
「ふえ? えーーーーーー?! なんで、どうして?」
「う~ん。ちょっと、お掃除が終わっていなくて、もう少しミーシャさんには、ここに居て欲しいんです」
「掃除?」
ママの謎の言葉にミーシャが小さく首を傾げると、ママは目の端を赤くさせて体を小さく震わせて呟くのだ。
「小動物のようなミーシャさんは最高に可愛い……。早く、邪魔な婚約者や言い寄ってくる野郎どもを始末しなくてはな……。ゴホン。はい。害虫が発生していて……」
「ががががが、害虫? むし? きゃーーーー、虫怖い!!」
虫と聞いて怖がるミーシャを見たママは、慌てたように駆け寄り檻の中に手を伸ばしたのだ。
ミーシャは、差し出された手に縋ってしまう。そして、差し出された手の大きさに何故か安心感を覚えるのだ。
(ママの手、大きくて安心する。ちょっと、ごつごつするけど、指が長くて綺麗……)
そんなことを考えながら、ミーシャは、ママの手をきゅっと握りしめるのだ。
ママは、ミーシャの小さく華奢な手の温かく柔らかい感触にうっとりとしてしまうのだった。
「うん。虫は嫌だから、掃除が終わるまで、ここで我慢する」
涙目でそう言って見上げるミーシャを優しく見つめ返したママは、力強く頷く。
「はい。すぐに、終わらせますね」
「うん」
それから、すぐに掃除が終わったとママから教えられたミーシャは、檻から出ることを許されたのだった。
しかし、その行動範囲はママによって制限がされてしまっていた。
ママ曰く、「外の虫と入り込んだ虫は退治したけど、もう少し注意が必要だから、もうすこし我慢してくださいね」とのこととだった。
ママのことを心から頼りにするようになっていたミーシャは、何の疑問も抱かずに指示に従ったのだ。
基本的には、ママの部屋で寝起きし、部屋から外に出るのもママと一緒の時だけだった。
そして、身の回りのことはママが世話をしてくれたため、ミーシャがこの世界で目を覚ましてから、ママ以外の人間と顔を合わせることはなかったのだ。
しかし、目覚めた瞬間から特殊な状況が続いていたため、これを変に思う余裕がこの時のミーシャにはなかったのだった。
ただ、ママと共に過ごすうちに、ふと思うようになるのだ。
例えば、嬉しくて抱き着いた時だ。
女性にしては、背が高く肉付きのないというか、筋肉質のママだったのだ。
こちらの世界に来て、常にぼんやりしていると言っても過言ではないミーシャでも流石におかしいと思い始めていた。
(女の人でここまで筋肉質ってあるのかな? う~ん。ママは美人だし、プロポーションに気を使って、ソフトマッチョに? でも、胸はぺったんこだよね……。ママって……。いやいや、それはないよ。だって、それじゃ、ママじゃなくて……)
ある考えを振り払う様にしながらもミーシャは、ママに守られながら過ごすこと数日。
いろいろミーシャなりに考えたのだ。
あったことのない父親が愛した人がたまたまそうで、でも、対外的にそれではまずいと身分を偽ったとか、こっちの世界ではこれが普通だとか、あれこれ考えたのだ。
それでも、ついミーシャは聞いてしまったのだ。
「ママ……。どうして、男の人なのに、ママなの?」
そう、ここはあまり覚えていないが以前の、ミーシャになる前の自分の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界なのだ。
妹のことも以前の自分のこともあまり覚えていない。さらに言うと、記憶も徐々に薄れていっていた。
それでも、乙女ゲームの主人公の継母が男と言うのはどうにもおかしな話だった。
下手をすると、乙女ゲームではなく、もっと別のゲームになってしまうと、よくわからないながらもミーシャは危惧していたのだ。
ミーシャ自身、何を恐れているのかは理解していなかったのだが。
ミーシャの疑問の声を聴いたママは、ミーシャの小さな両手を握ってこういうのだ。
「あぁ……。やっぱり、わかるよな。うん。俺も、無理があると分っていたさ。うん。俺は、正確には、ミーシャさんの継母ではないんだ。俺は……」
そこまで言ったママだったが、少し時間が欲しいと言って、ミーシャを部屋に残してどこかに行ってしまう。
しかし、数分で戻ってきたママの姿を見てミーシャは、驚きに目を丸くするのだった。
部屋に現れたのは、それまでシャツとロングスカート姿だったママではなかったのだ。
青を基調とした軍服と長い黒髪を後ろで一つに縛った、眉目秀麗な青年がそこにはいたのだ。
「ミーシャさん。改めて自己紹介をするよ。俺は、ラスティン・ロータス。君の夫になる男だ」
「??????????????」
「ミーシャさん?」
心の中でやっぱりと思う自分がいる一方、ママ改め、ラスティンの美貌に目を丸くするミーシャだったが、自己紹介の最後の言葉に言葉を失っていた。
(おっと? おっとって何だった? えっと、そんな名前のスナック菓子があったような? あれ、水族館で見る動物だっけ? おっと…………?)
「えっと、ママ? じゃなくて、パパ? えっと、なんだか頭がくらくらするの……」
「ミーシャさん? ミーシャさん!!」
「ふえ~~。くらくら、ぐるぐる~。てんじょうがぐるぐるする~」
驚きすぎたミーシャは目を回して倒れる寸前のところでラスティンの腕に抱きとめられたのだった。
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