欠陥姫の嫁入り~花嫁候補と言う名の人質だけど結構楽しく暮らしています~

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
4 / 97
本編

第一章 花嫁候補(3)

しおりを挟む
 ミリアリアが十六歳になって数日後のことだった。その日、ミリアリアは生まれて初めて父親から呼び出されたのだ。
 不安な気持ちを心の隅に追いやったミリアリアは、とうとうこの時が来たのかと覚悟を決めた。
 セイラに手を引かれながらも頭の中にある見取り図を辿り、目が見えなくなってから鋭くなっていった聴覚と触覚を研ぎ澄ませた。そして、謁見の間に着くと、セイラの手から離れて、たった一人で玉座の前に向かってゆっくりと歩き出したのだ。
 見ているものがじれったいと感じるほどのゆっくりとした動作ではあったが、その動きは優雅なもので、見ている人の目をくぎ付けにした。
 見惚れる人の視線に気が付くことのないミリアリアは、ただゆっくりと歩を進めた。
 まるで目が見えているような足取りで、王座から程よい距離で立ち止まり膝を付いて頭を下げたミリアリアは、その姿勢のまま生まれて初めて父親の声を聴いた。
 
「単刀直入に言う。お前には、テンペランス帝国の皇帝の元に行ってもらうことになった。皇帝の花嫁候補として我が国のためにその身を捧げよ」

 父がテンペランス帝国の皇帝という言葉を発した時、ミリアリアは一瞬身を震わせてしまっていた。
 それは仕方のないことだと言えた。
 部屋に籠りきりになっていてもその悪名は、ミリアリアにも聞こえて来るほどだったのだ。
 
 皇帝ジークフリート・テンペランス。
 周辺諸国を配下に置き、刃向う家臣にも容赦がない血濡れの皇帝。美しい銀色の髪をしていることから、銀狼と呼ばれ恐れられていた。
 
 そんな、恐ろしい男の元に花嫁候補として向かわなければならないと知り、ミリアリアは身を震わせてしまったのだ。
 もし、この身の欠陥を知られてしまったらどうなってしまうのか。
 自身だけではなく、メローズ王国にも……。そう考えた時、この国に対して何の感情も湧いてこない自分に気が付いたのだ。
 なんの思い入れもないこの国。
 ただ生まれたのが、偶然王家だっただけなのだ。
 そう思うと、逆にここを離れられるいいチャンスなのではないのかと思えてきたのだ。
 花嫁候補と言うことは、他にもたくさんいる中のうちの一人なのだ。それなら、皇帝に目を向けられることもなく、王宮の片隅でのんびりと暮らせるかもしれないと。
 そう前向きに考えることで、自分を納得させたミリアリアは、深く頭を垂れて父親に従うという意思を伝えた。
 
 それを見た父親である国王は、鼻を鳴らした後に、ミリアリアに見向きもせずに玉座を後にしたのだった。
 
 
 テンペランス帝国に行くことが決まったミリアリアは、最初は共は誰もつけずに行くつもりだった。
 しかし、セイラはそんなミリアリアの意思に異を唱えたのだった。
 
「駄目です。私も姫様と共に帝国に行きます」

 その言葉を聞いたミリアリアは、首を振った後に鈴を鳴らした。
 
(ダメ。セイラを連れていけない。帝国は恐ろしい所だと聞いたから)

「だからこそです。姫様をお一人にはできません」

(ダメだったら。それにセイラには、あの子がいるでしょ? あの子を連れて行くことはできないわ。あの子を置いて行くというの?)

 一瞬息を呑んだセイラだったが、苦しそうな声ではあったが強い決意を持って言ったのだ。
 
「……! 息子のことはいいんです。信頼の…おける人の元に預けているので……。今は、息子の事よりも姫様の方が重要です」

(でも、帝国に行ったら次にいつ国に戻れるか分からないのに……)

「いいんです。いいんですよ」

 その言葉を聞いたミリアリアは、嬉しいと思う気持ちを止められなかった。セイラの息子には悪いと思いつつも、他の誰でもなく、自分を選んでくれたことが嬉しくて仕方なかったのだ。
 ミリアリアは、込み上げる涙を止めることが出来なかった。今まで家族に顧みられることのなかった自分が、初めて誰かに選んでもらえたことが嬉しくて、瞼か腫れあがるまで泣いてしまったのだった。
 ただ、そんな自分を慰めるように抱きしめるセイラの悲しそうな、それでいて申し訳なさそうなそんな表情に気が付くこともなく、ただただ声もなく泣き明かしたのだった。


しおりを挟む
感想 182

あなたにおすすめの小説

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。 聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。 暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!? 一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

処理中です...