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本編

第六章 欠陥姫と毒花(3)

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 ミリアリアの涙を見たジークフリートは、そんなミリアリアをそっと抱きしめて優しく背中を撫でながら言ったのだ。
 
「ミリアリア泣かないでくれ。すまない。守ってやれなくてすまなかった」

 そう言って、ミリアリアの涙を拭ってただ抱きしめるジークフリートと涙を流すミリアリアを後ろから見ていたシューニャだったが、ミリアリアの涙が治まったところで声を掛けたのだ。
 
「はいはい。それでは、男の人は出ててもらえます? 女の子同士のお話があるので」

 そう言って、名残惜しそうにするジークフリートをミリアリアから引き離した後に、その背中を押して部屋から追い出したシューニャは、ミリアリアの手を握って、打って変わって真剣な声で言ったのだ。
 
「お姫様……。セイラが言っていたことは誰にも言ってない。お姫様が望むならこれから先も誰にも言わない」

 シューニャの声を聴いたミリアリアは、近くに鈴が無いと知り、シューニャの手を取って、その手のひらを指先でコツコツと叩いて自分の意思を伝えたのだ。
 
(おねがい。セイラのことは誰にも言わないで……。全部わたしが悪いの……。セイラを長年苦しめたわたしが……)

 そう言って、また泣き出してしまったミリアリアの背中を撫でながらシューニャは慰めるように言ったのだ。
 
「誰も悪くないよ。一番悪いのは、メローズ王国の王様だろ?お姫様もセイラも被害者だよ」

 シューニャがそう言うと、ミリアリアは激しく頭を振って否定したのだ。
 
(違うの! 最初は陛下がセイラに命令したんだとしても……。わたしは……わたしは……。ごめんなさい。今は言いたくない……)

 そう言って、深く俯くミリアリアを気遣うようにシューニャは、ミリアリアの頭を撫でてそっと言ったのだ。
 
「そっか。わかった。それなら俺は何も聞かない。でも、これだけは言いたい」

 シューニャがそう言うと、ミリアリアがそっと顔を上げて小さく首を傾げた。
 それを見たシューニャは、目を細めて驚くほど優しい表情で言ったのだ。
 
「お姫様とセイラは本当の家族みたいに俺には見えたよ。それに、セイラ、最後は笑ってた。すげー幸せそうな顔してたよ。だから、もう泣くな。そんなに泣いてたらセイラが心配して、天国にいる息子のところに逝けなくなっちまうぞ? お姫様はそれでいいのか?」

 シューニャが優しい声でそう言うとミリアリアは頭を振ってそれを否定した。
 
(そんなのダメ。セイラには天国で今度こそ幸せになって欲しい……。どうしたらいいの? どうしたらセイラは安心してくれる?)

 必死にそういうミリアリアに優しい微笑みを向けたシューニャは、ミリアリアの眉間を優しく突いて言ったのだ。
 
「だったら笑って? お姫様が笑顔でいれば、セイラも喜ぶよ。お姫様が幸せなら、セイラは安心して天国からお姫様を見守ってくれるよ」

 シューニャにそう言われたミリアリアは、少しだけぎこちなくはあったが微笑んで見せたのだ。
 それを見たシューニャは、胸がドキリと高鳴った。
 儚く脆い、今にでも消えてしまいそうな微笑みを浮かべるミリアリアにそっと手を伸ばした後に、その手を握ってから努めて明るい声で言ったのだ。
 
「よし、可愛い笑顔だよ。うんうん。セイラも安心してくれること間違いないよ。可愛い可愛い」

 あまりにもシューニャが可愛いと連呼するものだから、ミリアリアは揶揄われているような気になって、最終的には頬を膨らませることとなったが、目覚めた時と比べてミリアリアの心はずっと軽いものとなっていたのだった。


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