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第一部
第36話 二人目のダメな大人
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二人から話を聞き終わったところで、来客があった。たぶん、報告から戻ってきたガルドさんだろうと思い、私はお茶の準備に向かった。
玄関に向かってくれた駆君は疲れた顔でキッチンに現れて、お茶を後二つ追加で用意して欲しいと言ってきた。
「あれ?ガルドさんじゃなかったの?」
「騎士団長の他に、宰相と第二王子が来てる」
「へぇ~……!?だっ第二王子!!」
「俺も、まさか王子が来るとは思わなかった」
「わっ、わかったわ。おうじさまのおきゃもよういするわ」
「ああ~。直接話したことはないけど、タイガの中から見てた感じ、緊張しなくてもいいと思うぞ」
「そうなんだ」
「ああ、これを運べばいいか?」
「うん。お茶菓子はどうしよう?そうだ、今日の夕飯のデザート用にシュークリームを用意してたから、それでいいかな?」
「いや、お茶だけでいいと思うぞ」
「でも……。ごめんね駆君、デザートは新しく用意するから、シュークリームは今出すよ」
「そうじゃなく……はぁ。伝わらない」
「何か言った?」
「ふふ。駆は、これ以上ライバふがふが」
「タイガ、大人しくこれを運ぼうぜ」
駆君は、何かを言いかけたタイガ君の口を塞ぎつつ器用にトレーに乗せたお茶とシュークリームを片手で持って運んで行った。
駆君って器用だなぁ。
「お待たせしました。どうぞ、お茶でも飲みながらお話をしましょう」
「突然の訪問ですみません」
「いいえ、タイガ君のこと心配してきて下さったんですから、構いませんよ」
「ところで、小春さん。これは何ですか?」
「……。ジョエルさんはお茶だけ飲んでください」
「私だって、タイガの事を心配してます。ただ!目の前の美味しそうな誘惑には抗えないのですよ!!」
その言葉を聞いた駆君は、シュークリームをそっと、ジョエルさんから遠ざけていた。そして、タイガ君は、王子様にシュークリームについて美味しいお菓子と説明して食べるように勧めていた。
「コホン。それで、ガルドさんからタイガ君が目覚めたと聞いて、来てくれたんですよね?」
「はい。タイガは無事だと聞いても、実際に自分の目で確かめないことには、落ち着かなくて……」
「確かに、今まで散々王子の前で死にかけてたからな」
「うっ。確かに……」
「タイガ、いいんだよ。君が無事な姿を見られたのだから。それに、式典の時には前のように呼んでくれただろ?」
「あれは、とっさだったからつい……」
「私は、今でもタイガのこと友達だと思っているよ。だから、タイガもそう思ってくれるなら、前のように呼んで欲しいな」
「はぁ。もう、仕方ないな。アルには敵わないよ」
「ありがとう、タイガ。それと、もしかして君はあの駆だったりするのかい?」
「そうですよ。はぁ。なんで分かったんですか?俺、王子様と直接話したことないですよね?」
「ないね。でも、前に、タイガが自分と命を共有している友達がいるって話してくれたことがすごく印象に残っていたからね。でも、こうして直接話しが出来るなんて思わなかったな。どうして、二人は元の状態に戻ったのか教えてもらってもいいかな?」
「簡単に説明しますが、式典の時の呪いで魂が分かれて、俺は元の身体に戻った。こっちではそれなりの時間が経過してましたけど、元の世界では半年くらいしか時間は経過していなくて、向こうで暮らしていたら、今度は召喚に巻きこまれて、身体ごとこっちに来たって感じですよ」
「なるほど、では駆はある程度未来のことを知っていて今回の式典に狂信者がいると、宰相に進言した訳だね」
「そう言うことです。それと、狂信者の取り調べはどうなりました?」
「それが、他にもいるのか調査はしているけど……」
「しゃべらないか」
「はい。でも、元準聖女が調査に協力してくれることになったので、もしかすると何か進展があるかもしれません」
駆君と、第二王子が真面目な話をしている側で、ジョエルさんは自分にだけシュークリームが配られなかったことで、「私だって、食べたいのに……」と言い続けていたので、可哀そうになって、そっと差し出したら夢中になって食べ始めたのよね。そうしたら、一切会話に入ってこなくなったわ。
ジョエルさんもダメな大人だったわ。もしかして、この国の偉い人って、ダメな大人が……。いえ、まだ二人だけで判断は出来ないわ。
私がそんなことを考えていると、来客を告げるチャイムが鳴った。誰だろうと思いつつ、玄関に向かうと、そこにはメリッサさんと、ファニスさんがいたのだ。
ファニスさんは分かるけど、メリッサさんはどうしてだろうと思いつつもリビングに通したら、ジョエルさんの口からメリッサさんの意外な過去が告げられたのだった。
玄関に向かってくれた駆君は疲れた顔でキッチンに現れて、お茶を後二つ追加で用意して欲しいと言ってきた。
「あれ?ガルドさんじゃなかったの?」
「騎士団長の他に、宰相と第二王子が来てる」
「へぇ~……!?だっ第二王子!!」
「俺も、まさか王子が来るとは思わなかった」
「わっ、わかったわ。おうじさまのおきゃもよういするわ」
「ああ~。直接話したことはないけど、タイガの中から見てた感じ、緊張しなくてもいいと思うぞ」
「そうなんだ」
「ああ、これを運べばいいか?」
「うん。お茶菓子はどうしよう?そうだ、今日の夕飯のデザート用にシュークリームを用意してたから、それでいいかな?」
「いや、お茶だけでいいと思うぞ」
「でも……。ごめんね駆君、デザートは新しく用意するから、シュークリームは今出すよ」
「そうじゃなく……はぁ。伝わらない」
「何か言った?」
「ふふ。駆は、これ以上ライバふがふが」
「タイガ、大人しくこれを運ぼうぜ」
駆君は、何かを言いかけたタイガ君の口を塞ぎつつ器用にトレーに乗せたお茶とシュークリームを片手で持って運んで行った。
駆君って器用だなぁ。
「お待たせしました。どうぞ、お茶でも飲みながらお話をしましょう」
「突然の訪問ですみません」
「いいえ、タイガ君のこと心配してきて下さったんですから、構いませんよ」
「ところで、小春さん。これは何ですか?」
「……。ジョエルさんはお茶だけ飲んでください」
「私だって、タイガの事を心配してます。ただ!目の前の美味しそうな誘惑には抗えないのですよ!!」
その言葉を聞いた駆君は、シュークリームをそっと、ジョエルさんから遠ざけていた。そして、タイガ君は、王子様にシュークリームについて美味しいお菓子と説明して食べるように勧めていた。
「コホン。それで、ガルドさんからタイガ君が目覚めたと聞いて、来てくれたんですよね?」
「はい。タイガは無事だと聞いても、実際に自分の目で確かめないことには、落ち着かなくて……」
「確かに、今まで散々王子の前で死にかけてたからな」
「うっ。確かに……」
「タイガ、いいんだよ。君が無事な姿を見られたのだから。それに、式典の時には前のように呼んでくれただろ?」
「あれは、とっさだったからつい……」
「私は、今でもタイガのこと友達だと思っているよ。だから、タイガもそう思ってくれるなら、前のように呼んで欲しいな」
「はぁ。もう、仕方ないな。アルには敵わないよ」
「ありがとう、タイガ。それと、もしかして君はあの駆だったりするのかい?」
「そうですよ。はぁ。なんで分かったんですか?俺、王子様と直接話したことないですよね?」
「ないね。でも、前に、タイガが自分と命を共有している友達がいるって話してくれたことがすごく印象に残っていたからね。でも、こうして直接話しが出来るなんて思わなかったな。どうして、二人は元の状態に戻ったのか教えてもらってもいいかな?」
「簡単に説明しますが、式典の時の呪いで魂が分かれて、俺は元の身体に戻った。こっちではそれなりの時間が経過してましたけど、元の世界では半年くらいしか時間は経過していなくて、向こうで暮らしていたら、今度は召喚に巻きこまれて、身体ごとこっちに来たって感じですよ」
「なるほど、では駆はある程度未来のことを知っていて今回の式典に狂信者がいると、宰相に進言した訳だね」
「そう言うことです。それと、狂信者の取り調べはどうなりました?」
「それが、他にもいるのか調査はしているけど……」
「しゃべらないか」
「はい。でも、元準聖女が調査に協力してくれることになったので、もしかすると何か進展があるかもしれません」
駆君と、第二王子が真面目な話をしている側で、ジョエルさんは自分にだけシュークリームが配られなかったことで、「私だって、食べたいのに……」と言い続けていたので、可哀そうになって、そっと差し出したら夢中になって食べ始めたのよね。そうしたら、一切会話に入ってこなくなったわ。
ジョエルさんもダメな大人だったわ。もしかして、この国の偉い人って、ダメな大人が……。いえ、まだ二人だけで判断は出来ないわ。
私がそんなことを考えていると、来客を告げるチャイムが鳴った。誰だろうと思いつつ、玄関に向かうと、そこにはメリッサさんと、ファニスさんがいたのだ。
ファニスさんは分かるけど、メリッサさんはどうしてだろうと思いつつもリビングに通したら、ジョエルさんの口からメリッサさんの意外な過去が告げられたのだった。
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