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第十話
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ラヴィリオ皇子殿下が何度も立ち止まりながら部屋を出て行った後だった。
ローザ様はわたしに近づいた後、落ち着いた優しい声で話しかけてきたの。
「改めまして。私は、シュニッツァ子爵家の娘、ローザと申します。この度、王女殿下の侍女に任命されて、とても光栄に存じます」
膝を付いた姿勢でそう言ったあと、ローザ様はそっとわたしの手を取ってから、一瞬喉を詰まらせるように話を続けた。
「なんてことなの……。こんなに……。いいえ、今は……。失礼いたしました。それでは、旅の埃を落としましょうか」
そう言ったローザ様は、わたしが反応するよりも早く行動していた。
気が付くとわたしは、ローザ様に抱っこされて部屋の奥へと運ばれてしまっていた。
僅かな湿気でそこがバスルームだと気が付いたわたしは、つい声を荒げてしまっていた。
「待って! 大丈夫です。わたしは、自分のことは今まで自分でしていました。だから……」
「いいえ、駄目です。私は、王女殿下の侍女なんです。私にお世話をさせてくださいませ」
「でも!」
「申し訳ございません。何か事情が御ありなのでしょう。よろしければお話しいただけませんでしょうか?」
「でも……」
「大丈夫です。何も心配いりません」
頼もしく聞こえるローザ様の声に私は頑なな心のまま頭をぶんぶんと振っていた。
そんなわたしの態度に根気強く付き合ってくれるローザ様は、本当にいい人なのかもしれない。
だけど……。醜いわたしを見られるのはどうしてもいやだった。
「み……見られたくないんです……」
「分かりました。なら、目隠しをします。絶対に私はなにも見ません」
そう言ったローザ様は、ガサゴソと何かをした後、わたしに何かを触れさせた。
両手を導かれたわたしは、それがローザ様の顔だと気が付く。
すべすべのお肌。形のいい輪郭と高い鼻梁。ふっくらとした唇。
そして、顔の鼻から上に巻かれた布の感触に、わたしはローザ様が目隠しをしてくれていることを知る。
「どうして……」
わたしなんかのために、どうしてそこまでしてくれるのか分からなくて、そう声に出してしまっていた。
そんなわたしの呟きにローザ様は、優しい声で答えてくれた。
「王女殿下の望むままに。私は貴方様の侍女なのですから、当たり前なのですよ。さあ、それでは失礼いたしますね」
そう言ったローザ様は、わたしの着ていた衣服を次々と脱がしていく。
目隠しをしているとは思えないほどあっという間に裸にされたわたしは、ローザ様の様子から約束を守ってくれていることを確信していた。
素顔の上、裸のわたしを前にして普通でいてくれていることがその証拠だ。
目を閉じていても分かる両目の窪んだ顔。背中に刻まれた礎の痕跡。
背中の痕は、とても醜いものらしい。
見たことはないけど、姉のマリーデ様がそう言っているのを聞いたわ。
わたしがぼうっとしていると、ローザ様は甲斐甲斐しくわたしの世話を焼いてくれた。
「痛いところはありませんか? お湯加減はいかがですか?」
「大丈夫です……。でも、わたしなんかのためにこんなに沢山のお湯……」
「何を仰るのです。本番はこれからですよ。お湯で体を温めましたら、次はマッサージですからね」
「えっ? まっさーじ?」
「はい。体の疲れが飛んでいきますよ。さあ、王女殿下、失礼いたしますね」
そう言ったローザ様は、わたしの脇の下に両手を入れて、お湯からわたしを出した後に、柔らかい敷物? の上にわたしを俯せに寝かせの。
ゴソゴソと何かを探した後、ローザ様は「失礼いたしますね」と言って、ぬるっとした物でわたしの背中や足、腕などを擦ったり、揉んだりしたのだ。
初めは、触れられるたびにビクビクしていたけど、そんなわたしに優しく声を掛けながら、手を動かしてくれるローザ様に、次第に慣れていったわ。
「なんだか、体がポカポカします」
「はい。マッサージの効果が出来てきたようでよかったです。もし眠くなりましたら、眠っていただいても大丈夫ですよ?」
「だい……じょうぶ…………れ、すぅ……」
そう言うのが精一杯だったわたしは、ゆっくりと夢の世界に落ちてしまったの。
ローザ様はわたしに近づいた後、落ち着いた優しい声で話しかけてきたの。
「改めまして。私は、シュニッツァ子爵家の娘、ローザと申します。この度、王女殿下の侍女に任命されて、とても光栄に存じます」
膝を付いた姿勢でそう言ったあと、ローザ様はそっとわたしの手を取ってから、一瞬喉を詰まらせるように話を続けた。
「なんてことなの……。こんなに……。いいえ、今は……。失礼いたしました。それでは、旅の埃を落としましょうか」
そう言ったローザ様は、わたしが反応するよりも早く行動していた。
気が付くとわたしは、ローザ様に抱っこされて部屋の奥へと運ばれてしまっていた。
僅かな湿気でそこがバスルームだと気が付いたわたしは、つい声を荒げてしまっていた。
「待って! 大丈夫です。わたしは、自分のことは今まで自分でしていました。だから……」
「いいえ、駄目です。私は、王女殿下の侍女なんです。私にお世話をさせてくださいませ」
「でも!」
「申し訳ございません。何か事情が御ありなのでしょう。よろしければお話しいただけませんでしょうか?」
「でも……」
「大丈夫です。何も心配いりません」
頼もしく聞こえるローザ様の声に私は頑なな心のまま頭をぶんぶんと振っていた。
そんなわたしの態度に根気強く付き合ってくれるローザ様は、本当にいい人なのかもしれない。
だけど……。醜いわたしを見られるのはどうしてもいやだった。
「み……見られたくないんです……」
「分かりました。なら、目隠しをします。絶対に私はなにも見ません」
そう言ったローザ様は、ガサゴソと何かをした後、わたしに何かを触れさせた。
両手を導かれたわたしは、それがローザ様の顔だと気が付く。
すべすべのお肌。形のいい輪郭と高い鼻梁。ふっくらとした唇。
そして、顔の鼻から上に巻かれた布の感触に、わたしはローザ様が目隠しをしてくれていることを知る。
「どうして……」
わたしなんかのために、どうしてそこまでしてくれるのか分からなくて、そう声に出してしまっていた。
そんなわたしの呟きにローザ様は、優しい声で答えてくれた。
「王女殿下の望むままに。私は貴方様の侍女なのですから、当たり前なのですよ。さあ、それでは失礼いたしますね」
そう言ったローザ様は、わたしの着ていた衣服を次々と脱がしていく。
目隠しをしているとは思えないほどあっという間に裸にされたわたしは、ローザ様の様子から約束を守ってくれていることを確信していた。
素顔の上、裸のわたしを前にして普通でいてくれていることがその証拠だ。
目を閉じていても分かる両目の窪んだ顔。背中に刻まれた礎の痕跡。
背中の痕は、とても醜いものらしい。
見たことはないけど、姉のマリーデ様がそう言っているのを聞いたわ。
わたしがぼうっとしていると、ローザ様は甲斐甲斐しくわたしの世話を焼いてくれた。
「痛いところはありませんか? お湯加減はいかがですか?」
「大丈夫です……。でも、わたしなんかのためにこんなに沢山のお湯……」
「何を仰るのです。本番はこれからですよ。お湯で体を温めましたら、次はマッサージですからね」
「えっ? まっさーじ?」
「はい。体の疲れが飛んでいきますよ。さあ、王女殿下、失礼いたしますね」
そう言ったローザ様は、わたしの脇の下に両手を入れて、お湯からわたしを出した後に、柔らかい敷物? の上にわたしを俯せに寝かせの。
ゴソゴソと何かを探した後、ローザ様は「失礼いたしますね」と言って、ぬるっとした物でわたしの背中や足、腕などを擦ったり、揉んだりしたのだ。
初めは、触れられるたびにビクビクしていたけど、そんなわたしに優しく声を掛けながら、手を動かしてくれるローザ様に、次第に慣れていったわ。
「なんだか、体がポカポカします」
「はい。マッサージの効果が出来てきたようでよかったです。もし眠くなりましたら、眠っていただいても大丈夫ですよ?」
「だい……じょうぶ…………れ、すぅ……」
そう言うのが精一杯だったわたしは、ゆっくりと夢の世界に落ちてしまったの。
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