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第二十五話

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 考えがあると言ったラヴィリオ皇子殿下は、一度部屋を出た後、すぐに戻っていた。
 
「ティアリアに普通のパンと言う物を教える。さあ、口を開けてくれないか」

「…………」

 普通のパン? 知っていますよ。あの石のように硬くて、苦くて泥のような味だってよく知っていますから。
 絶対に食べたくない……。
 でも、ラヴィリオ皇子殿下がわたしに酷いことをしないという確信はあった。
 悩んだ末に、わたしはラヴィリオ皇子殿下を信じることにした。
 言われるがままに口を開けていると、ラヴィリオ皇子殿下がわたしの口に何かを入れた。
 舌に感じたのは微かな甘みと香ばしさ。
 恐る恐るそれを噛んでみると……。
 信じられないくらい美味しかったのだ。
 柔らかくて、ほんのり甘くて。
 
「お……いしいです。これがパンなのですか?」

「そうだ。どこにでもあるいたって普通のパンだ」

「そんな……。これは、国力のあるマルクトォス帝国だからこその品質なのですよね?」

「いいや、どこの国でもこの程度のパンは普通に食べられている。お前に初めてあった時、数日間ディスポーラ王国に滞在したが、パンの味は帝国と大きな違いはなかった」

「…………」

 そうなのね。わたしが出来損ないだから、醜いから……。
 そっか、そうだったのね。
 わたしへの待遇……、あれは確かにおかしかったかもしれない。
 でも、幼いころからそう言う扱いだったから、そう言うものだとずっと思っていた。思い込んでいた。
 では、わたしの背に刻まれた礎の証も、国のために捧げた両目も……、不当な扱いだったのだろうか?
 でも、価値のないわたしが、王家の人間として果たさなければならない責務だったと……。
 いえ、本当にそうなのかしら?
 それなら、わたしが生まれる前は、誰があの責務を負っていたのだろうか?
 
 今更ながらに疑問が次から次に浮かんできた。
 
 考え込んでいたわたしに、ラヴィリオ皇子殿下は言うの。
 
「これからは、今までティアリアが与えられなかった、沢山の普通を俺が教える。ティアリアが欲しいものは俺が与えてやる」

「……大丈夫です。今でも十分なくらいです。わたしは優しく接していただけるだけで十分です」

「十分じゃない。俺がティアリアを大切にしたいだけなんだ。だから、俺の我儘に付き合って欲しい。だめか?」

 胸が痛いほど高鳴るのを感じた。
 拗ねた様に、そして甘えるようにそう言うラヴィリオ皇子殿下。
 彼のその様子をわたしは可愛いと感じていた。
 そして彼が今、どんな顔をしているのかとても気になっていた?
 生まれて初めてだった。誰かの顔を見たいと、その人がどんな表情をしているのか見てみたいと思ったのは。

 こんな我儘、許されるのだろうか?
 ううん。ラヴィリオ皇子殿下は、きっと許してくれるわ。
 
「ラヴィリオ皇子殿下……。触れてもいいですか?」

「ああ。ティアリアの好きに触れてくれ」

 そう言ったラヴィリオ皇子殿下は、わたしの両手に優しく触れた。
 触れ合った手がとても温かくて、わたしは勇気を貰った気がした。
 だから、わたしは少しだけ大胆な行動が出来たのだと思うわ。

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