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第六十一話 因縁
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絡んでくるリユートを無視して、レオールは背を向けて歩き出した。それをリユートは、後ろから射殺さんばかりに睨みつけるも、それに気が付いているのかいないのか、それすらも無視して城を後にした。
春虎は、家の手伝いで向かった依頼についてふと思い出したことがあったため、レオールにリユートのことを確認することにした。
「あの……、このような事お聞きしてもいいのか迷いましたが、私の勘が聞いておいたほうが良いといっているのでお聞きします。ダディオス様との間で何があったのですか?」
春虎の真剣な表情を見たレオールは少し迷った素振りを見せたが、結局リユートのことを聞かせた。
城を出た後、馬車には乗らずに近くの広場まで歩き、広場のベンチに座ってから、苦い表情をしながらもリユートのことを話し始めた。
「リユートとは、同じ学院で学んだ級友だった。学生時代は、今と違って良好な関係だったと思う。私もいつから今のようなギスギスした関係になったのか、明確な原因はわからない。気がつくと、私に悪態をつくようになっていた。そして、知っての通りの悪評がその頃から出回り始めた。最初は、侯爵家に思うところがある敵対派閥の仕業かと思ったが、悪評は私のことだけで、侯爵家については悪評が立つことはなかった。そこで、標的は私だけだとわかったが、私は三男だ。私を貶めてもどうなるものでもない。最初は、きちんと周りに言って事実無根だと説明したが、友人だと思っていたリユートや周囲の人間はそれを信じてはくれなかった。だからか、なんだか面倒になってしまってな。放っておくことにした。しかし、悪評はどんどんエスカレートしていったんだ」
当時のことを思い出したのか、苦しそうな顔で地面を見つめていたが、一息呼吸をした後に顔を上げてから話を続けた。
「悪評がピークに達した時、それまで周りにいた婚約者志望の令嬢たちは全くいなくなっていたよ。私は、令嬢たちからのアピールがなくなりある意味喜んでいた。そんな時、偶然知ってしまったんだ。私の悪評を流していたのがリユートだということをな。それを教えてくれたのは、地方に行っていた友人だったよ。友人は、私の悪評が信じられなくて、地方から王都に戻って来た時に、いろいろと調べてくれたようだ。その結果が、友人だと思っていたリユートの裏切りだったというわけだ」
レオールの語る内容からは、リユートに何故恨まれるようになったのか全く心当たりが無いという状態だった。そこで、春虎は、質問と言いつつも意識の誘導をしてみることにした。
「あの、何かきっかけなど、思い当たることはなかったのですか?例えば、誰かと知り合ってからとか……」
春虎の誘導に従い、当時のことを考えていたレオールは、あることを思い出したと口を開いた。
「そう言えば、関係ないとは思うがリユートとの関係が悪くなる前に、リユートの婚約者の令嬢に偶然あったことがあるな」
その言葉を聞いて、春虎はそれが原因だとピンとくるものがあった。そのため、さらなる確証を得るため、引き続き質問を重ねた。
「レオール様、もしかしてその後そのご令嬢と何かと偶然に出会うことはなかったですか?」
「そう言えば、それから偶然図書館やカフェで会ったように思うな」
その言葉を聞いて、春虎は額に手を当てて空を仰いだ。
(あー、ビンゴですね。これは、完璧に婚約者のご令嬢がレオール様に惚れてしまったパターンだ。それで、ダディオス様がその事に気がついて、レオールさんに悪態をつくようになって、それでも治まらずに悪評を流した。そして、婚約者のご令嬢がレオールさんに幻滅するように仕向けて、目を覚まさせようとしたというところですね。前に、某財閥の御曹司とその友人の恋人との関係のもつれの後始末を手伝った時と状況が似ていますね。あのときは、情報操作や周りへの対処が大変でしたが、報酬は良かったなぁ。まぁ、今回の場合、レオールさんに全く非がないですが、女性が絡んだ人間関係の縺れは何かと遺恨を残しやすいですから、今回も何か厄介事が起きそうな気がしてならないですね)
空を仰いだまま、動かない春虎を心配してかレオールが話しかけてきた。
「リア?大丈夫か?」
「はい。大丈夫ですわ。それよりもこのままでは更に状況は悪化してしまう恐れがあります。早急に、ダディオス様とどういった形でもいいので決着を着けたほうがよろしいかと。因みにですけれど、その後婚約者のご令嬢とは?」
春虎の忠告に、眉間にシワを寄せたレオールは頷いた。そして、令嬢のことを尋ねた瞬間、表情を険しいものにしてから言った。
「ああ、わかった。考えておこう。それと、リユートと令嬢だがよくわからないが、令嬢が真実の愛を見つけたとかで婚約は破棄されたと聞いた」
(あああぁ。これは、相当な恨みが積もり積もってそうですね。今日、お城で最後無視したのは裏目に出ていそうで、怖いです。完全な八つ当たりですが、ダディオス様にとっては、レオールさんが原因でこうなったという考えに至ってそうです。あの感じですと)
そんな事を考えていると、急に空気が重くなったように感じて姿勢を変えずに視線だけで周囲の確認をした。すると、不思議なことに、先程までいた沢山の人が周辺からいなくなっていた。
そして、周りが静かすぎることに気が付きとっさに不味いと感じて、ここを去るようにレオールに言おうとしたが少し遅かった。
周囲を剣を持った、複数の人相の悪い男たちに囲まれていた。
この状況について、心当たりのある術を思い出してレオールに確認をすると、肯定の返事が帰ってきた。
「レオール様、もしかして魔術の中には外界と空間を隔てるような結界というものも存在したりするのですか?」
「よく知っているな。あまり使い手はいないらしいが、闇の適正持ちは結界と呼ばれる魔術を使えるものもいる。この国では……、リユートがその希少な結界の魔術を使える……」
険しい表情をしたレオールが、春虎に結界について話したところで、二人に話しかける人物がいた。
その人物こそ、この結界を張った当人のリユートだった。
顔を歪めたリユートは、二人に向かって忌々し気に言い放った。
「くふふ。お嬢さんには悪いですが、これも全部全部全部、レオール悪いんです!!私の婚約者を奪った上に、陛下に気に入られて色々と仕事を与えられ。それだけでは飽き足らず、あれだけ悪評を流したというのにも関わらず、そんなにも可愛らしい恋人を周囲に見せつけて!!私は!私は!!!彼女を愛していたんだ!!最初は家の決めた婚約だったが、一緒に過ごすうちにお互いに思いを通じあわせていたんだ。それなのに、貴様が!!貴様だけが幸せになるのは許されない!!だから、貴様をあの世に送ってやることにしたんだ。私は優しいからな、貴様が大切そうにしているそのお嬢さんも一緒にだ。陛下たちには、お前がお嬢さんと駆け落ちしたと説明しておくよ。だから安心して二人であの世に行くんだな!!」
リユートは滅茶苦茶な言い分を喚いた後に、剣を持った男たちに合図を送った。それを受けた男たちは、一斉に春虎とレオールに斬りかかってきた。
春虎は、とっさに影から太刀を抜いてからしまったと考えた。
いつもの格好なら、使い慣れた太刀で男たちを一掃出来たが、残念ながら今は二尺袖の振袖だった。昨日着ていた中振袖よりはましだが、袖が邪魔なことには変わりはなかった。
それでも、文句を言う暇も服装を変える暇も与えられていない今、太刀でこの場を凌ぐ他無かった。
見た目、か弱そうに見える少女が何処からともなく出した、見たこともないような不思議な形状の剣を持って、少女よりも倍以上大きな男の攻撃を受け止めたことに驚いた男たちだったが、すぐに気を取り直して斬りかかってきた。
(くっ!まずったな。つい癖で太刀を抜いてしまった。ここは、苦無か短刀……。いや、どっちにしろ袖が邪魔なことには変わりないか。レオールさんがどのくらいの腕前かはわからないけど、レオールさんを守ることも考えなくては)
剣を受けた感じと、周囲の男たちの構えをざっと見たところ、全員がそこそこの腕前のようだったが、何もなければこの場は凌げると考えた時、後方で爆発音が上がった。
視線で確認すると、剣士だけではなく魔術を使う者も居たようで、魔術師の放った炎がレオールに命中し、彼が後方に吹き飛んでいくところだった。
春虎は、家の手伝いで向かった依頼についてふと思い出したことがあったため、レオールにリユートのことを確認することにした。
「あの……、このような事お聞きしてもいいのか迷いましたが、私の勘が聞いておいたほうが良いといっているのでお聞きします。ダディオス様との間で何があったのですか?」
春虎の真剣な表情を見たレオールは少し迷った素振りを見せたが、結局リユートのことを聞かせた。
城を出た後、馬車には乗らずに近くの広場まで歩き、広場のベンチに座ってから、苦い表情をしながらもリユートのことを話し始めた。
「リユートとは、同じ学院で学んだ級友だった。学生時代は、今と違って良好な関係だったと思う。私もいつから今のようなギスギスした関係になったのか、明確な原因はわからない。気がつくと、私に悪態をつくようになっていた。そして、知っての通りの悪評がその頃から出回り始めた。最初は、侯爵家に思うところがある敵対派閥の仕業かと思ったが、悪評は私のことだけで、侯爵家については悪評が立つことはなかった。そこで、標的は私だけだとわかったが、私は三男だ。私を貶めてもどうなるものでもない。最初は、きちんと周りに言って事実無根だと説明したが、友人だと思っていたリユートや周囲の人間はそれを信じてはくれなかった。だからか、なんだか面倒になってしまってな。放っておくことにした。しかし、悪評はどんどんエスカレートしていったんだ」
当時のことを思い出したのか、苦しそうな顔で地面を見つめていたが、一息呼吸をした後に顔を上げてから話を続けた。
「悪評がピークに達した時、それまで周りにいた婚約者志望の令嬢たちは全くいなくなっていたよ。私は、令嬢たちからのアピールがなくなりある意味喜んでいた。そんな時、偶然知ってしまったんだ。私の悪評を流していたのがリユートだということをな。それを教えてくれたのは、地方に行っていた友人だったよ。友人は、私の悪評が信じられなくて、地方から王都に戻って来た時に、いろいろと調べてくれたようだ。その結果が、友人だと思っていたリユートの裏切りだったというわけだ」
レオールの語る内容からは、リユートに何故恨まれるようになったのか全く心当たりが無いという状態だった。そこで、春虎は、質問と言いつつも意識の誘導をしてみることにした。
「あの、何かきっかけなど、思い当たることはなかったのですか?例えば、誰かと知り合ってからとか……」
春虎の誘導に従い、当時のことを考えていたレオールは、あることを思い出したと口を開いた。
「そう言えば、関係ないとは思うがリユートとの関係が悪くなる前に、リユートの婚約者の令嬢に偶然あったことがあるな」
その言葉を聞いて、春虎はそれが原因だとピンとくるものがあった。そのため、さらなる確証を得るため、引き続き質問を重ねた。
「レオール様、もしかしてその後そのご令嬢と何かと偶然に出会うことはなかったですか?」
「そう言えば、それから偶然図書館やカフェで会ったように思うな」
その言葉を聞いて、春虎は額に手を当てて空を仰いだ。
(あー、ビンゴですね。これは、完璧に婚約者のご令嬢がレオール様に惚れてしまったパターンだ。それで、ダディオス様がその事に気がついて、レオールさんに悪態をつくようになって、それでも治まらずに悪評を流した。そして、婚約者のご令嬢がレオールさんに幻滅するように仕向けて、目を覚まさせようとしたというところですね。前に、某財閥の御曹司とその友人の恋人との関係のもつれの後始末を手伝った時と状況が似ていますね。あのときは、情報操作や周りへの対処が大変でしたが、報酬は良かったなぁ。まぁ、今回の場合、レオールさんに全く非がないですが、女性が絡んだ人間関係の縺れは何かと遺恨を残しやすいですから、今回も何か厄介事が起きそうな気がしてならないですね)
空を仰いだまま、動かない春虎を心配してかレオールが話しかけてきた。
「リア?大丈夫か?」
「はい。大丈夫ですわ。それよりもこのままでは更に状況は悪化してしまう恐れがあります。早急に、ダディオス様とどういった形でもいいので決着を着けたほうがよろしいかと。因みにですけれど、その後婚約者のご令嬢とは?」
春虎の忠告に、眉間にシワを寄せたレオールは頷いた。そして、令嬢のことを尋ねた瞬間、表情を険しいものにしてから言った。
「ああ、わかった。考えておこう。それと、リユートと令嬢だがよくわからないが、令嬢が真実の愛を見つけたとかで婚約は破棄されたと聞いた」
(あああぁ。これは、相当な恨みが積もり積もってそうですね。今日、お城で最後無視したのは裏目に出ていそうで、怖いです。完全な八つ当たりですが、ダディオス様にとっては、レオールさんが原因でこうなったという考えに至ってそうです。あの感じですと)
そんな事を考えていると、急に空気が重くなったように感じて姿勢を変えずに視線だけで周囲の確認をした。すると、不思議なことに、先程までいた沢山の人が周辺からいなくなっていた。
そして、周りが静かすぎることに気が付きとっさに不味いと感じて、ここを去るようにレオールに言おうとしたが少し遅かった。
周囲を剣を持った、複数の人相の悪い男たちに囲まれていた。
この状況について、心当たりのある術を思い出してレオールに確認をすると、肯定の返事が帰ってきた。
「レオール様、もしかして魔術の中には外界と空間を隔てるような結界というものも存在したりするのですか?」
「よく知っているな。あまり使い手はいないらしいが、闇の適正持ちは結界と呼ばれる魔術を使えるものもいる。この国では……、リユートがその希少な結界の魔術を使える……」
険しい表情をしたレオールが、春虎に結界について話したところで、二人に話しかける人物がいた。
その人物こそ、この結界を張った当人のリユートだった。
顔を歪めたリユートは、二人に向かって忌々し気に言い放った。
「くふふ。お嬢さんには悪いですが、これも全部全部全部、レオール悪いんです!!私の婚約者を奪った上に、陛下に気に入られて色々と仕事を与えられ。それだけでは飽き足らず、あれだけ悪評を流したというのにも関わらず、そんなにも可愛らしい恋人を周囲に見せつけて!!私は!私は!!!彼女を愛していたんだ!!最初は家の決めた婚約だったが、一緒に過ごすうちにお互いに思いを通じあわせていたんだ。それなのに、貴様が!!貴様だけが幸せになるのは許されない!!だから、貴様をあの世に送ってやることにしたんだ。私は優しいからな、貴様が大切そうにしているそのお嬢さんも一緒にだ。陛下たちには、お前がお嬢さんと駆け落ちしたと説明しておくよ。だから安心して二人であの世に行くんだな!!」
リユートは滅茶苦茶な言い分を喚いた後に、剣を持った男たちに合図を送った。それを受けた男たちは、一斉に春虎とレオールに斬りかかってきた。
春虎は、とっさに影から太刀を抜いてからしまったと考えた。
いつもの格好なら、使い慣れた太刀で男たちを一掃出来たが、残念ながら今は二尺袖の振袖だった。昨日着ていた中振袖よりはましだが、袖が邪魔なことには変わりはなかった。
それでも、文句を言う暇も服装を変える暇も与えられていない今、太刀でこの場を凌ぐ他無かった。
見た目、か弱そうに見える少女が何処からともなく出した、見たこともないような不思議な形状の剣を持って、少女よりも倍以上大きな男の攻撃を受け止めたことに驚いた男たちだったが、すぐに気を取り直して斬りかかってきた。
(くっ!まずったな。つい癖で太刀を抜いてしまった。ここは、苦無か短刀……。いや、どっちにしろ袖が邪魔なことには変わりないか。レオールさんがどのくらいの腕前かはわからないけど、レオールさんを守ることも考えなくては)
剣を受けた感じと、周囲の男たちの構えをざっと見たところ、全員がそこそこの腕前のようだったが、何もなければこの場は凌げると考えた時、後方で爆発音が上がった。
視線で確認すると、剣士だけではなく魔術を使う者も居たようで、魔術師の放った炎がレオールに命中し、彼が後方に吹き飛んでいくところだった。
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