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第七十九話 混ぜるな危険

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 王城に到着した5人は、すぐに応接室に案内された。
 応接室には既に、女王と宰相が待っていた。
 
 入室後、ウィリアムが挨拶をしようとしたがそれを遮るように女王は待ちわびたと言って、すぐに今回のことを報告するように言った。
  
「お前達!!待ちわびだぞ!!堅苦しい挨拶はいい、さっさと(ムフフな展開を)報告せよ!!」

 女王に急かすように言われては、悠長にしているわけにも行かず、簡単な挨拶にとどめて報告をすることにしたウィリアムは、片腕でもある頼れる副船長のユリウスに視線を向けた。
 
「ただ今戻りました。女王陛下。承知しました」

 ウィリアムの視線を受けたユリウスも簡単な挨拶にとどめて、写しの作業は完璧に完了したことを報告した。
 
「ゴールデン・ウルフ。副船長、ブラックが船長に代わって報告をいたします。ご依頼の写しですが、ラジタリウス王国の中央図書館にて、ハルトラが完璧にご要望の通りに作業を終えました。私から見ても、完璧な魔導書です。ご指示の通り、写しが終わった後に、ハルトラに力を通してもらうと、レシピと思われる文章が浮かび上がりましたが、専門外のことなので内容まではわかりませんでした」

 そう言って、携えてきた魔導書の写しを宰相に手渡した。宰相は、渡された魔導書を眺めて、感心したように言った。
 
「これはこれは。とても丁寧に写されていますね。ハルトラさんご苦労さまでした。何かハルトラさんには特別にご褒美を差し上げてはどうでしょうか?」
「そうだな。可愛いハルトラが我が国のために頑張ってくれたのだ。特別に褒美をやるのもいいな。それに、向こうでの(美味しそうな)出来事も色々聞きたいしな。ゆっくりと、あちらの国で過ごした(ウホホな)様子を聞かせてもらいたい。そうじっくりとな!!」

 若干、最後の方は欲望がダダ漏れになっている女王だったが、それよりも特別な褒美をくれるという方に驚いた春虎だった。
 宰相の思いも寄らない言葉に、春虎は驚いてその大きな瞳を零れ落ちそうなくらい見開いた。そして、この場での発言権をもらっていないため、口をパクパクさせてどうしたらいいのかと、ユリウスを困惑した表情で助けを求めるように見つめた。
 
 それを見た、ウィリアムは何故自分に頼らないのだと、昨日の出来事をすっかり頭から抜けた思考で考えた。そして、非常に面白くなさそうな表情を見せたが、すぐにここがどこなのかを思い出したようで、平静さを装ったが、周囲にはバレバレだった。
 
 ユリウスは、咳払いをしてから女王に言った。
 
「陛下。ハルトラは、特別な報奨を望んではいないようです。なので、出来ればお菓子などの軽めのご褒美でとどめてください。あまり高価なものですと、ハルトラが困ってしまいますゆえ」

 春虎は、自分の気持を理解した上で、更には宰相の提案をないがしろにしない配慮のある代替案を提案してくれたことに、瞳を輝かせてユリウスを尊敬する眼差しで見つめた。
 
(流石副船長です。頼りになります)

 ユリウスも、春虎の言いたいことを分かったようでアイコンタクトで返していた。
 
(大したことはない。これくらい当然の対応だ)

 何でもないことのように目で答えてくれたユリウスに、更に瞳を輝かせた春虎を横目で見ていたウィリアムとレオールは面白くなかった。
 
「ーーーーーッホ!!」
 
 視線で、ウィリアムとレオールがユリウスを牽制しているその時、謎の奇声が応接室に響いた。
 
 驚いて、春虎、ウィリアム、ユリウス、レオールは奇声のした方に視線を向けた。
 すると、真っ赤なハンカチで口元を抑えている女王の姿と、頭を抱える宰相の姿があった。
 
 どうしたらいいのかと、宰相を見つめる4人だったが、秋護だけは気がついてしまったのだ。
 女王が、自分と同じ不治の病に侵されているということに。
 
 以前、城で保護されている時は、女王と接する機会はあまり無く、気が付かなかったが今回は違った。
 ゴールデン・ウルフのクルーとして、依頼に携わった者の一人としてこの場にいる秋護は、一部始終を見てしまったのだ。
 
 春虎がユリウスと視線で会話をしているときに、食い入るように鋭い眼光で見つめ、口元をだらしなく緩めていたところを。
 そして、ウィリアムとレオールがそれに不満を表したときに、緩んだ口元からよだれがたれてしまっていたことを。
 そして、燃料投下が限界値に来たのか盛大に鼻血を吹いてそれを宰相が素早い動きで真っ白なハンカチで押さえて、一瞬でその真っ白なハンカチが真っ赤に染まるところを。
 
(わかる、分かるよ。女王様。これはとても美味しいシチュだ。俺も、ハーレム物は好物だ。しかも、春虎ちゃんの鈍感さ。いいと思う)

 そんな事を考えて、一人うんうんと唸っていると、偶然。否、運命的とも言える視線の交わりがあったのだ。
 女王と、バッチリ視線が合ったのだ。
 その瞬間、秋護は深く理解した。
 
(分かるよ。凄く分かる!!ユリハルいいよな。大人の魅力あふれる副船長さんに徐々に心をひらいていく春虎ちゃん。副船長さんの手で大人の階段を少しずつ上っていくのがいいんだよね!!それに、なんだかんだで、春虎ちゃんに甘いところもいいよね!!)
(うむ!!ヘタレ攻めのウィルハルもいいが、大人の狡さと色気で攻めるユリハルも良いな!!)
(同士よ!)
(同士よ!!)

 この国の最高権力の腐女子と、酸いも甘いも知り尽くしている(?)腐男子の最凶タッグが誕生した瞬間だった。
 
 そして、この恐ろしい事態には気が付かなくとも、ウィリアムとユリウスは今までの経験から理由のわからない寒気に嫌な予感を感じて身を震わせたのだった。
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