緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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カワミ様・アラミ様

#3

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 私は、汗だくの中、目が覚めた…。何か夢を見ていた気がしたが、思い出せない…。
 見た夢を忘れるなど、よくある事だ。だが、何か、重要な夢だった気がする…。
 もやもやする気持ちを抑え、布団から抜け出し、立ち上がった…。
 まだ、外から差す光は無く、少々早い時間に起きてしまったらしい。
 私は、寝室を抜け、廊下に出た。ひんやりとした床は、これから夏になるとは思えない冷たさだった。
 仕事をするまで、当然まだ時間がある…。だが、一階に降り、書斎へと向かった。
 いつもと変わらない書斎だったが、一つだけ、違っていた…。
 机の上に、手帳がなかった。
 最近は忙しくなったため、いつも、肌身離さず持っていたのだが、それがなくなっていた…。
 昨日は間違いなく、机の上に置いたはずだ…。
 心当たりある場所や、鞄の中を覗いてみたが、見当たらない。
 最後に台所を探した。こんなところに持ってきた覚えはないが、棚の中や、テーブルの上。部屋中隅々まで探した。

 とうとう諦めようとしたとき、上の階から、物音が聞こえた…。
 私は全神経をその物音に集中させた…。位置的に、寝室のあるあたりだ…。泥棒か、それとも…。
 すると、物音は大きく二階の廊下を駆け抜けて行き、階段を下りてきた…。間違いなく、この台所に向かっている…。
 私は覚悟を決め、近くにあった包丁を手に取った…。
 そして、そいつが台所に入ってくるや否や、奴の脇腹を目掛け、包丁を突き刺した。
 仕事柄、これしきの事では、致命傷にはならないと分かっていた…。
 だが、奴は刺された腹部を抑え、その場に倒れ込み、動かなくなった…。
 “殺ってしまった…。”
 私はそう思い、その場に腰を抜かした…。
 すると、背後から視線を感じた。恐る恐る、振り返る…。
 そこには、漬物石程度の大きな、雨蛙がこちらを見つめている…。
 私は嫌な予感がし、倒れ込んだ奴の顔を覗き込んだ…。
 驚愕し、私は更に腰を抜かした…。
 そいつは生気のない眼で私を見つめ返していた…。それだけではなく、そこに倒れている男は、“私”だった…。
 「ゲコ」
 蛙は、背後でそう声を上げると、姿を消した…。
 気が付くと、倒れこんでいた“私”の姿と血に染まった筈の包丁も消えていた…。
 
 この地域には、古くから、カワミ様アラミ様という、二対の蛙の神様の言い伝えがあった。その蛙たちが、夢に出てくると、幸運、もしくは不運を呼ぶと言い伝えられていた。
 そんな二対の神様が、同時に出てくることはない。そんな噂話など、誰も聞いたことがない…。
 仮にも見た者は皆、現実世界に戻れた試がないからだ…。
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