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1章:香り
6 集合
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その日は九条さんも早く抗議が終わった様で、“れとろ”の方に入り、手伝ってくれていた。
私は顔を合わせられなかった。
ようやっと、十六時になり、静かな店内が更に静まり返っていた。
「土曜日、お二人してどちらまで?」
痺れを切らしたのか、古川マスターが質問してきた。
「あぁ、そっか。ちょっと、静岡まで。」
九条さんがにこやかに答える。
「静岡…ですか…?」
私は聞き返した。
「そう、欲しいワインがあってね。なかなか手に入らないものが、手に入ったと聞いてね。一人で行くのも退屈だから、香織ちゃんも一緒に連れてっちゃえ、思って。」
またしても、いたずらっぽく笑って見せた。
「でしたら、私からも一つご注文宜しいですか?」
古川マスターが人差し指を立てながら、聞いてきた。
「香織様に静岡で一つ、オリジナルブレンドを作ってきて頂きたい。」
「ブレンドですか?」
「ええ、香織様のコーヒー好きを試してみたいと思いましてね。」
ニコッとした顔で、古川マスターが答える。
「お、いいね。僕も香織ちゃんのコーヒー飲んでみたいかも。」
と九条さんも便乗してくる。
「大丈夫、僕ももちろん協力するから任せて。」と自分の胸をトントンと叩く。
ブレンドを作ったことは、何回かあるが、他人に飲ませる用にと作ったことは、一度もない。
正直自信はないが、ここまで頼まれては、断れない。
「わかりました、やってみます。」
「じゃぁ決まり。土曜日、朝八時半に駅の西口集合ね?」
「わかりました、よろしくお願いします。」
日が変わるのは、早いもので、もう、土曜日。
時刻は八時ちょうど。私は、遅刻が苦手なくせ、待つのは嫌いではない。
こんな感じに、人と待ち合わせするときは、三十分も早く到着して、近くをぶらぶらするのは、珍しくない。
しかし、朝の八時、しかも、土曜日となると、いくら大きい駅でも開いているお店は多くない。
色々回ってみたが、開いているのはコンビニくらいだった。
コンビニでキャップ付きの缶コーヒーを買い、駅構内に出た時だった。
「あら?香織ちゃん?」
声の主は、今井さんだった。
「やっぱり~。そのカワイイセミロングはそうじゃないかな~と思って~。」
と黄色い声を出して、今井さんが駆け寄ってくる。今日は涼し気な、花柄のワンピースを着ていた。
「今井さん。お仕事ですか?」
「そーなの。朝から企画会議で…。香織ちゃんは?」
「私は、用事で…。」
そう答えた時だった。
「香織?」
また名前を呼ばれた。
「麻由美?」
「やっぱり、香織だ。こんな朝早く、どうしたの?」
麻由美も小走りで駆け寄ってきた。
「あら?お友達?」
今井さんが私に訊ねてきた。
「はい、高校の時からの。」
「鈴木真由美です。」
「今井よ、よろしく、もう行かなきゃだから、じゃあね。」
「はい、また今度。」
今井さんは、手を振りながら、去っていった。
「香織は今日、どうして?」
麻由美も聞いてきた。
「バイト先の用事で。」
「へぇ~。私は、実家に用ができて…。」
「もしかして、お母さんが?」
私は、嫌な予感がした。
麻由美のお母さんには、色々お世話になったから、尚更だ。
「大丈夫、ただの用事だから…いけない、私ももう行くね?」
「うん、気を付けてね。」
「あんたもね?」
麻由美も手を振りながら、改札の方に去っていった。
そうこうしている間に、もう八時二十分になっていた。そろそろ、集合場所である、西口に向かおうとしたとき、スマホが鳴った。
九条さんから、ショートメールが届いていた。
“おはよう、駅に着いたら教えて。もうすぐ僕も到着する。”
と書かれていた。
それに対して、“おはようございます。もう着いてます。”と返信した。
一瞬で既読が付き、更に返信が来た。
“了解。五分ほどで着くから待ってて。”
私は、缶コーヒーを一口飲み、集合場所に急ぐことにした。
西口に行くと、まだ、九条さんの姿は見えなかった。
電車で行けば、お昼ちょっと前に着く。
そうずっと思っていたので、歩道の方から来ると思っていた。
しかし、その私の予想は、外れた。
黒いセダン車に乗って九条さんは現れた。
「お待たせ。」
「車、持ってたんですか?」
「色々、要りようでね。」
九条さんが答えた。
「もしかして、酔いやすい?」
「いえ。ただ、車に乗るのは久々で…。」
「なるほど、取り敢えず乗って。」
と助手席のドアを開けてきた。
私は少し戸惑いながら、車に乗り込んだ。
九条さんも運転席に乗りこんだ。
「さて、出発しましょう。」
と言い、九条さんは車を走らせた。
私は顔を合わせられなかった。
ようやっと、十六時になり、静かな店内が更に静まり返っていた。
「土曜日、お二人してどちらまで?」
痺れを切らしたのか、古川マスターが質問してきた。
「あぁ、そっか。ちょっと、静岡まで。」
九条さんがにこやかに答える。
「静岡…ですか…?」
私は聞き返した。
「そう、欲しいワインがあってね。なかなか手に入らないものが、手に入ったと聞いてね。一人で行くのも退屈だから、香織ちゃんも一緒に連れてっちゃえ、思って。」
またしても、いたずらっぽく笑って見せた。
「でしたら、私からも一つご注文宜しいですか?」
古川マスターが人差し指を立てながら、聞いてきた。
「香織様に静岡で一つ、オリジナルブレンドを作ってきて頂きたい。」
「ブレンドですか?」
「ええ、香織様のコーヒー好きを試してみたいと思いましてね。」
ニコッとした顔で、古川マスターが答える。
「お、いいね。僕も香織ちゃんのコーヒー飲んでみたいかも。」
と九条さんも便乗してくる。
「大丈夫、僕ももちろん協力するから任せて。」と自分の胸をトントンと叩く。
ブレンドを作ったことは、何回かあるが、他人に飲ませる用にと作ったことは、一度もない。
正直自信はないが、ここまで頼まれては、断れない。
「わかりました、やってみます。」
「じゃぁ決まり。土曜日、朝八時半に駅の西口集合ね?」
「わかりました、よろしくお願いします。」
日が変わるのは、早いもので、もう、土曜日。
時刻は八時ちょうど。私は、遅刻が苦手なくせ、待つのは嫌いではない。
こんな感じに、人と待ち合わせするときは、三十分も早く到着して、近くをぶらぶらするのは、珍しくない。
しかし、朝の八時、しかも、土曜日となると、いくら大きい駅でも開いているお店は多くない。
色々回ってみたが、開いているのはコンビニくらいだった。
コンビニでキャップ付きの缶コーヒーを買い、駅構内に出た時だった。
「あら?香織ちゃん?」
声の主は、今井さんだった。
「やっぱり~。そのカワイイセミロングはそうじゃないかな~と思って~。」
と黄色い声を出して、今井さんが駆け寄ってくる。今日は涼し気な、花柄のワンピースを着ていた。
「今井さん。お仕事ですか?」
「そーなの。朝から企画会議で…。香織ちゃんは?」
「私は、用事で…。」
そう答えた時だった。
「香織?」
また名前を呼ばれた。
「麻由美?」
「やっぱり、香織だ。こんな朝早く、どうしたの?」
麻由美も小走りで駆け寄ってきた。
「あら?お友達?」
今井さんが私に訊ねてきた。
「はい、高校の時からの。」
「鈴木真由美です。」
「今井よ、よろしく、もう行かなきゃだから、じゃあね。」
「はい、また今度。」
今井さんは、手を振りながら、去っていった。
「香織は今日、どうして?」
麻由美も聞いてきた。
「バイト先の用事で。」
「へぇ~。私は、実家に用ができて…。」
「もしかして、お母さんが?」
私は、嫌な予感がした。
麻由美のお母さんには、色々お世話になったから、尚更だ。
「大丈夫、ただの用事だから…いけない、私ももう行くね?」
「うん、気を付けてね。」
「あんたもね?」
麻由美も手を振りながら、改札の方に去っていった。
そうこうしている間に、もう八時二十分になっていた。そろそろ、集合場所である、西口に向かおうとしたとき、スマホが鳴った。
九条さんから、ショートメールが届いていた。
“おはよう、駅に着いたら教えて。もうすぐ僕も到着する。”
と書かれていた。
それに対して、“おはようございます。もう着いてます。”と返信した。
一瞬で既読が付き、更に返信が来た。
“了解。五分ほどで着くから待ってて。”
私は、缶コーヒーを一口飲み、集合場所に急ぐことにした。
西口に行くと、まだ、九条さんの姿は見えなかった。
電車で行けば、お昼ちょっと前に着く。
そうずっと思っていたので、歩道の方から来ると思っていた。
しかし、その私の予想は、外れた。
黒いセダン車に乗って九条さんは現れた。
「お待たせ。」
「車、持ってたんですか?」
「色々、要りようでね。」
九条さんが答えた。
「もしかして、酔いやすい?」
「いえ。ただ、車に乗るのは久々で…。」
「なるほど、取り敢えず乗って。」
と助手席のドアを開けてきた。
私は少し戸惑いながら、車に乗り込んだ。
九条さんも運転席に乗りこんだ。
「さて、出発しましょう。」
と言い、九条さんは車を走らせた。
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